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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ゆき編(1)
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ユキのはなし②

 そんなわけで、なんとなく夫婦っぽい仲になった政成と楓だけどな。まあ、政成は仕事はできても女心にはとんと疎いし、そこが楓には不満でもあって、安心できるところでもあるわけだが……。


「おい、政成」

 俺は朝餉をのんびり食べる政成に、にゃーと話しかけた。

「なんだ? ユキ」

 政成は俺が鳴く声をきちんと人語で理解するから、普通に返事をする。最初訝しげに見ていた楓も、もう慣れたらしく向かい側で汁をすすって、こっちを見ることもない。好都合、と、俺は政成に最近気になっていることを話しだした。

「お前が以前、退治しそこねて逆にやられかけた狐のことよ。あれ、実は大陸から来たもののけの仲間らしいぜ」

「大陸?」

 政成が眉をひそめる。ああ、と俺はうなずいた。

「山で、大陸から来た奴らに聞いたんだけどな。海の向こうで、王に取り入って国を傾けようと悪さを企んでる悪霊がいたらしい」

「ふむ」

「それがさ、少し前に王が病死して政情が荒れてから、悪霊がいなくなったらしいんだよ」

「それで?」

「悪霊から逃げてこの島に来た小さいもののけ達がさ、最近その悪霊の気配を感じるっていうんで、怯えてるのさ」

「ほうほう」

「だからさ」


 俺は、にゃーと言って政成の膝に手を置いた。

「この国の政治が最近不安定なのも、ひょっとしたらそいつが絡んでるかもしれねえ、と思うんだよな……」

 うーん、と政成は顎に手をやり、唸った。

「で? 俺にそれを退治しろってことか?」

「あたり。政成ならできるだろ?」

 にゃ! と景気づけるように俺は政成の膝を叩いた。

「……なんとなく気乗りはしないが……帝のためならやるしかないのだろうな」

 珍しく弱腰の政成に、俺はあれ? と首を傾げたが、帝という言葉をかいつまんで聞いた楓がひょいと俺を抱き上げた。

「やりましょう、政成様」

「楓……?」

 俺も、楓の高揚したような強い口調に驚いたが、政成はもっとびっくりしたようだ。目を丸くして、楓を見ている。

「政成様。このもののけ退治を成功させ、出世しましょう! 楓はできる限りお助けいたします!」

「……はあ」

 口をあんぐり開けた政成とは対称的に、楓は口の端を上げ、なにやらぶつぶつ呟いている。

 にゃ、と俺が耳を近づけると、どうやら計算をしているようだった。

「……これで位があがれば給金もあがる……土地も貰えたら収入も増える……」

「楓……」

 政成は、困った顔をしている。ああ、言っておくが楓は別に、金にこだわりがあるわけじゃないんだ。ただ、人の良い政成が損しないよう、実力に合った報酬が貰えるように、やきもきしてるわけよ。


 あと、言い忘れてたが、楓は身重なんだ。まだそんな腹は目立たないけど、子供が生まれたら人も雇わなきゃならないし、色々と金がかかるからな。まあ俺としては、政成がきちんと仕事をして、楓と仲良くやってくれたらそれで満足さ。


 そんなわけで、俺たちは悪霊退治に乗り出したんだ。人のよい優男風の政成だが、腕は確かだからな、俺が事前に近くの精霊たちに根回しをして、ヤツが現れそうなときを予測、援護できる式神や札で周りを固めた上で、しれっと帝に会いに言った。御簾に隠れて、帝の顔は見えないけれど、扇子片手に肩肘ついてる姿は、なんていうか、権力に興味ない俺からするとイラッとするけどな。政成は頭を下げて、神妙な口振りで話し出した。


 ……先頃、大陸にてなにやら

       怪しい怨霊が悪さをしております……

 ……大陸では王が亡くなったのも、

         その怨霊の仕業とか……

 ……そして、どうやらその怨霊は

           この国に渡ってきた模様……

 ……帝の命を狙うものやもしれませぬ……


帝は御簾の向こうで、扇子をぱたぱたと仰ぎながら聞いていた。だけど、ちょっと黙ったあとに、意外なことを言ったんだ。

「それは、実はお前が仕組んだ企みではないのか?」

 政成は、御前にも関わらず「へ?」と間抜けな声をあげた。反射的に顔を上げたら、周りのやつらに「帝の御前である」とか言われて、慌ててまた下を向いたよ。どうせ御簾で顔は見えないんだから良いんじゃね? とか俺は思うけどね。

 いやあ、しかし。帝に入れ知恵したのは誰かって?

 これまた昔からよくある話さ。陰陽師の同業者が、政成を失脚させるために進言……いや、妄言か。とにかく、政成に先回りをしてあることないこと帝に吹き込んだんだ。

 狐? ああ、政成を襲ったやつか。あとから聞いたらあれも、その陰陽師が操ってたらしい。ちなみに帝が同業陰陽師をあっさり信じたのは、そいつが帝の側近に金をばらまいて、周りから固めていったからみたいだな。まったく、世の中ってのは。金、カネ、ばかりで嫌になるぜ。


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