ゆき編 序章
ユキちゃんの過去編です。宜しくお願いします。
おう。
しばらく眠ってる間に、世の中もだいぶ様変わりしたもんだな。
ええと……今の元号は……?
まあいいか。
そもそも俺は人間じゃないし、更に言うと、今は生きてない。
肉体を持っていた時もあるけどな、長く生きすぎて、いわゆるもののけになっちまった。
別に悪さをしていたわけじゃないんだけどな。人間は自分たちの理解の範疇を越えたものは、無闇やたらに排除したがる。もののけってのも、自分で名乗ったわけじゃあない。
名前?
ああ。
そういやあ俺にも、名前があった。
昔俺を拾った人間が、つけてくれたんだ。
市井のやつらに化け物呼ばわりされて、退治されたらかなわない、と、ほうほうのていで逃げ出した先が陰陽師の屋敷っていうのは、間抜けだろ?
けどな。俺を拾い上げて、そいつが言った。
雪みたいだな、って。
確かにその日は、しんしんと降る雪であたり一面真っ白だった。俺はもののけだから寒さは感じないけれど、そいつは俺を温めるように撫でてくれた。
これが巷で噂の化け猫か。
退治するには惜しいほど、綺麗な猫ではないか。
そいつは笑って、懐から紙を出すと、俺の額にぴたりと貼り付けたんだ。
少し遅れて、雪の中を息を切らして駆けてきた町人たちに、札が貼られた状態の俺を見せ、そいつは言った。
こやつは今、自分が封じた。
もう悪さをすることはないであろう。安心してお引き取りくだされ。
俺は別に、封じられて身動きが取れなかったわけじゃない。
首根っこをつかまれ、なすすべもない体勢になっただけだ。それでも町人たちは、朝廷に仕える陰陽師の言うことに納得し、おとなしく帰っていった。
それから俺は、陰陽師と一緒に他のもののけを退治することになったんだ。
名前?
言ったろ?
「ユキ」だよ。
雪みたいに白い猫だからユキって呼ぶか、って、安直な考えだよな。
でもまあ、悪くない名前だ。
うん、
悪くない。




