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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(後)
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第7話 その4

 元日、2日と、年が明けるとまた境内が賑やかになり、会館も祈祷待ちの人々で満員だ。結局靖成は賀奈枝と入れ替わりで仮眠に入ったり昼食をかきこんだり、心配するようなことも起きなければそもそもゆっくり話す時間もない。しかし遠目で賀奈枝の楽しそうな顔を見て靖成は、ホウキ片手になんともくすぐったい気持ちになる。


「賀奈枝ちゃん、すっかり馴染んでんなー」

 ユキはお焚き上げをする札を入れる箱から、燃やすとやばそうな怪しい人形などを選り分けていて、時折うわっとか、ひえっ、とか騒いでいる。もちろん他の人には見えない。

「なんかこう……ゲレンデマジックみたいな?いつもと違うシチュエーションだと気持ちがあがるってこういうことかねえ……」

「視界が白いのはお焚き上げの煙だからな。まったくさあ、何でもかんでも燃やせばいいってもんじゃねえんだよ……」

 ぶつぶついいながら、ユキはガラガラと札の山を掻き回している。


「おーい、やっくん。そろそろ大丈夫やって」

 気づけば夕方で、靖成たちのもとに風悟がきた。

 風悟も白衣袴姿だが、こちらのふわふわした茶髪は地毛だ。そして靖成と違い大きな目が特徴的なイケメンの風悟は、ユキとは違う意味でアイドルのコスプレ感が漂っており、参拝の女子たちから写メ攻撃に遇っている。

「相変わらずだな……」

「いやあ、俺はもう客寄せパンダみたいなもんやからな。親父が俺の写真インスタにバンバン載せてるし、いまさらや」


 半ば観光地のような大きな神社の跡取りにとっては、身バレがどうとか構ってるような環境ではないのだろう。イケメンなのも大変そうだ、と靖成は勝手に推測し同情した。


 佐々木家はまだまだ忙しいが、靖成は賀奈枝と合流し、母屋にいる佐々木さんの元へ挨拶に向かう。

「お世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ。ありがとうね、賀奈枝さん。これ少しだけれども」

 佐々木さんが賀奈枝に封筒を渡す。中身は当然、給料だ。

「わあ、ありがとうございます。貴重な経験をさせて頂いた上に、お給料まで」

 賀奈枝は素直に喜ぶ。こういうところも、おじさまたちに好かれる要因なのだろうか、と靖成がじっと見ていると、佐々木さんも同じことを考えていたようだ。


「もうほんと、賀奈枝さんが来てくれてとても楽しかったんやわ。氏子さんたちが『東京に帰すなー』ってうるさいのよ。靖成と結婚したら来年もくるやろ、て今からそんなん言うてたら鬼に笑われるわ」

 出た。結婚話。

 靖成自身、何度もかわしたこの話題だが、本心では賀奈枝がどう思っているか聞きたい。しかしやはり賀奈枝はやんわり笑うだけだ。


 佐々木さんも、あまり深い話は止めたほうが良いと思ったのか、また気軽に遊びにきて、という挨拶で締めて靖成たちを見送る。風悟が待つ車の近くに来ると、ユキがふいっと現れた。

「土産とかさあ、買わなくていいのか?」

 そのまま靖成が賀奈枝に伝えると、賀奈枝は鞄からごそごそと小さな袋を取り出した。縁結びにご利益があるというのが売りの御朱印帳と、お守りだ。

「あれ?賀奈枝さん、それ……」

「はい、安産祈願です」

 え、と靖成は一瞬驚いたが、すぐに思い当たった。

「姉が妊娠中なんですよ。お土産に、と思って」

「なんやー、てっきりやっくんとの子かと思ったあ」

 風悟は他の大人たちとは違い、裏のない率直な気持ちで言ったのだが、これにも賀奈枝は笑顔でかわすだけだ。


 風悟は神社に出入りの大人たちに可愛がられて育ったからか、明るく気さくな性格で、車中でも話題は尽きない。賀奈枝は、風悟が神社の跡取りとして楽しそうに話すエピソードに笑顔で相づちをうち、靖成も、自分の家が好きだという風悟の話を今更ながら黙って聞いていた。



 駅に着いたときには既にあたりは暗く、風悟と礼を言いあい別れたあと、電車を乗り継ぎ新幹線の座席に着いたのは、夕飯どきをやや過ぎた頃。

 さすが佐々木さん、帰りもグリーン車である。二人は駅弁を買って食べ、ほっとひといきついた。

「あれ、そういえばユキちゃんは……」

「ああ、ユキちゃんはまた、一足先に帰りました。多分実家に」

 そうなんですね、と賀奈枝が言ったあと、沈黙が流れる。やばい、と靖成は思ったがユキはいない。すると賀奈枝が口を開いた。

「いい神社ですね、佐々木さんのおうち」

 神社、なのか、家なのか、両方なのか。とりあえず靖成は頷く。

「篠目さんちは、フランチャイズみたいなんですね」

 佐々木さんが取りまとめている陰陽師の一人、という意味だろうか。靖成は簡単に説明する。

「そう……ですかね。陰陽師も衰退していた時期が長いので、横の繋がりもある程度大事にってなったんだと思いますよ」

 ふむ、と賀奈枝も頷く。


「篠目さんは、陰陽師をやめたいんですか?」

 突然論点が変わった。えーと?と少し動揺すると、賀奈枝は「お母さんたちが言ってました」という。個人情報ダダ漏れなのはどうにかならないだろうかと思いながら、靖成は答えた。

「……そう……ですねえ。乗り気ではなかったですが、まあとりあえず人手が足りないのでやってる感じです」

「やめたい理由は、なんですか?」

 賀奈枝が静かに言った。

「ユキちゃんですか?」

 すでに食べ終わった弁当箱の横には一緒に車内販売で買ったビールが2本並んでいる。目視で確認した限りでは2本目の半分以上は飲んでいるだろう。

「橋口さん、疲れもありますからおそらく酔いやすいのでは、と……」

 しかし賀奈枝はそれほど酔っているわけではないらしい。

「今まで独身なのも、それが理由ですか?」

 靖成は思わずため息をついた。そう言いきれるほどモテていた訳ではないからである。ちょっと切ない。

「……橋口さん」

 ゆっくり、言葉を選びながら靖成は話し出した。

「その……ユキちゃんは、昔慕っていた人が俺の子供として生まれ変わるのを、待ってるんです」

「……聞きました」

 賀奈枝は頷く。

「俺は」

 靖成は、ひと呼吸おいてから言った。

「ずるいんです。その……怖くて逃げているというか」

「怖い、ですか?」

 はい、と靖成は気まずそうな顔をした。


 新幹線はもうじき関東圏に入るころだ。靖成は話を続ける。

「家業だからと、そのまま陰陽師を継ぐのが。先祖が予言した通りに結婚して家庭を持つのが。そして」

 賀奈枝は黙っている。

「望みが叶ったユキちゃんが消えてしまうかもしれないのが、怖いんです」

 靖成は自分の缶ビールをあけて、勢いよく飲む。そこそこ酒に強い靖成には気付けにもならないが、飲み干してから長く息を吐いた。賀奈枝は何も言わない。


 沈黙のまま、新幹線は東京に着く。しゃべらないまま改札を抜けると、在来線の乗り換え口にユキが待っていた。

「おう、おかえり」

 あ、ユキちゃん、と靖成が反射的に言うと、賀奈枝はユキがいるらしき場所に視線をやり、呼び掛けた。

「ユキちゃん」

「ん?」

 ユキが賀奈枝の近くにおりてくるが、気配もわからないはずだ。しかし賀奈枝は素面のときと変わらぬゆったりした口調で空間に問う。

「ユキちゃんは、待ってる人に会えたらどうなるんですか?成仏しちゃうの?」

 うおっ、と靖成は動揺する。え?それ聞いちゃう?などと声にならない声を発している。


 ユキはというと、顎に手をやり少し考えたようだが、こちらも普段通り快活に返事をした。

「どうだろうな。気持ちの上では、待ち人に会えるまでは消滅したくないってのはあるけど、それから先はなあ。でも元々式神だし、別にそのためだけに存在してるわけでもないしなあー」


 それにさ、と、ユキがにかっと、笑った。

「せっかく待ち人に会えたのに自分だけ成仏すんの、もったいねーだろ」

 靖成は自分の想像にはない答えが返ってきたため、呆気にとられたが、ユキの言葉を反芻し、かいつまんで賀奈枝に伝える。賀奈枝はおかしそうに笑った。そうですよね、などと独り言をいっている。

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