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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(後)
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第7話 その2

「靖成。あんた賀奈枝さんを危ない目に遭わしたんやて?」

 着くなり、佐々木さんから厳しく言われた。靖成は親より佐々木さんが怖い。風悟によく似たきりっとした顔に、由緒ある神社の跡取り娘の風格が漂う佐々木さんは、陰陽師たちの取り纏めもしており、何かあると容赦なく天引きする点もかなり怖い。加えてここは佐々木さんのホームで、背後にはでかい社殿があり、大河ドラマの予告に使われそうなド迫力の絵面である。

 ご無沙汰してます、と社会人らしくそつない挨拶をした賀奈枝は、靖成に落ち度がない旨もきちんと説明したが、佐々木さんの怒りはまだ持続している。


「ほんと……何かあってからじゃ遅いんやし……ユキだって靖成にお嫁さんくるの楽しみにしてるのに」

「ユキちゃん、よっぽど篠目さんのこと心配なんですね…」

 賀奈枝はしみじみ言ったが、佐々木さんは、いや、と軽く否定する。

「ユキは、靖成の次の代が早く生まれるんを待ってるんよ。賀奈枝さん聞いてない?」

「え?」

 訝しげな顔をする賀奈枝に、靖成は慌てて声をかける。

「橋口さん、とにかくお昼でも食べにいきましょう。忙しいのは夕方からです。今のうちに買い物とかあれば案内しますし」

「靖成に女子が好きそうな店わかるわけねえだろ」

「ユキちゃん……そんなみもふたもない……」

 いつのまにやら、ユキは到着しており、場所は変わっても容赦なく靖成に突っ込みが入る。


「やっくん、俺案内しよか?」

「ああ、風悟はしょっちゅうデートで行ってるだろうからなあ……」

 うっ、と一瞬固まった風悟に、憐れむような視線をかけたのは佐々木さんである。

「風悟な、ふられたんや。良かったらおごってやって」

 はああ、と深いため息をついた風悟に、さすがに靖成も同情を禁じえない。

「風悟…恋愛話が家族に筒抜けってのはやっぱ嫌だよな…」

「いや、やっくん。失恋の慰め方としてそれは何かおかしい」


 話を切り上げたいのもあってか、風悟は離れに向かって歩きだした。靖成たちに部屋を案内するためである。靖成は賀奈枝の荷物も預かり、すぐ戻るからと言い残して風悟を追いかけた。

「やっくん」

「なんだ」

「もう、ほぼ結婚で決まりってさっちゃんに聞いたけど?」

「それな。なんていうかなあ…ほんとにそれでいいのかなあ……って。風悟?」

 風悟が襖を開けると、布団がすでに並べてある。うはぁっ……と靖成は声にならない叫びをあげた。

「俺ちゃんと言ったよな?部屋を分けてくれって」

「今日は忙しいし、賀奈枝さんが疲れたらすぐ休めるように、て敷いといたんやけど」

「そうじゃない」

「……やっくん、思った以上に真面目なんやなあ」

 しかし風悟は、受け取った荷物を部屋のすみに置くと、布団はそのままに襖を閉めた。

「まあまあ、どっちにしろ、やっくんは例年通り今日は徹夜だろうから、気にせんでええと思うよ」


 風悟の言うとおり、夕方からは大祓が始まり、参拝者が増えて境内は賑やかになった。母屋には氏子さんが集まって、酒盛りの準備で賑やかである。社務所では御朱印帳が積み重ねられていて、巫女姿の女性たちが慌ただしく作業をしている。

「これ、縁結びのご利益あるらしいですよ」

 社務所に顔を出した白衣袴姿の靖成に、賀奈枝は笑顔で話しかけた。中堅OLらしいテキパキした手つきで御朱印帳を揃えている。


 賀奈枝は巫女姿ではなく、薄ピンクのタートルネックセーターにGパンという動きやすい服装だ。表には出ずに裏方を任せられている。年齢のせいですかねー、と拗ねた様子もなく呟いた賀奈枝に、たまたま寄った佐々木さんが理由を説明し、雑談の中で御朱印帳の話しなどもしていたようだ。

 茶色がかった髪を後ろでひとつに結った賀奈枝はなんとなく色っぽく、靖成はお札とお守りを整理しながら凝視しない程度に目の保養をしている。

「なんだよ、賀奈枝ちゃん裏方なのか」

 普段通りの羽織姿で、ユキがふらっと現れた。靖成は、ユキちゃんこそ巫女コス似合いそうだよな~など考えてみるが顔には出さない。

「うん、巫女をするには髪色が明るいからって話だったよ。佐々木さんは気にしないらしいけど、参拝客は巫女は黒髪イメージがあるだろうから、裏に回ってもらったって」

「いまどきそんなん関係ねえだろ。むしろおっさんにはウケが良さそうだけどな」

 呆れたユキの姿は、当然賀奈枝には見えない。しかしなんとなく会話の流れはわかるため補足する。


「ええと、あと、バイトの子たちは未成年もいるから、母屋で氏子さんたちに料理を出したりする手伝いも言われました」

 え、と靖成は顔をしかめる。

「なにか?」

「いや、氏子さんたち、酒豪揃いなので」

「はい」

「飲まされないようにして下さいね?」

 靖成はやや強めに念押しする。賀奈枝はそれなりに酒は強いが、知らぬ間にかなりご機嫌になっていたりするのだ。

「……佐々木さんに、様子次第で離れに連れていってもらうよう伝えておきますんで」

 神妙な顔の靖成とは対照的に、訝しげな表情をしていた賀奈枝だがひとまず頷く。


 その後は、靖成も祈祷の誘導などで慌ただしくしているうちに夜も更けていき、じきに日付が変わるというところで、やっと少し空き時間ができた。

「靖成、母屋にいって賀奈枝さんと新年の挨拶してきたらええよ」

 佐々木さんに優しく声をかけられ、靖成も小走りで母屋に向かうが、廊下で会ったときにはすでに遅く、賀奈枝は適度に酒を飲んだのかもう夢の中であった。

「さっき連れ出して、おぶりながらちょっと喋ってたらな、寝てもうたんや。このまま離れまでいくから、やっくんも来てくれ」

「あ、正嗣(まさつぐ)さん……」

 正嗣は、佐々木家の婿で風悟の父である。休憩がてら母屋に来たところ、上機嫌の賀奈枝を見て退避させたのだろう。靖成より多少背が低いががっしりしたところと癖毛は風悟にそっくりだな、などと靖成は思う。



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