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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(中)
31/86

第5話 その7(第5話終わり)

 かろうじてハンドルはそのまま安全運転をキープしているが、そこに聡子が声をかけてきた。

「ねえねえ、やっくんはクリスマスプレゼントなにが欲しいの。サプライズって言われたけどさすがに35歳の独身息子の好みなんて、お母さんわからないから」

 後部座席では、父圭介と母聡子が笑顔でスマホをちまちまいじっている。LINEの相手は賀奈枝らしい。

「賀奈枝ちゃんには、サンタのコスプレグッズとかな、あれ着てもらうのはどうだ。できたらお父さん用にも写メが欲しい」

 おお、それはまたナイスチョイス…とか思ってしまって靖成は哀しくなる。やっぱり親子だ。


「まあクリスマス前にまた会うだろ。そんときまでに部屋きれいにしとけよ」

 そういうとユキはイルカをぎゅっと抱き締めた。信号待ちで停車したときに横目でそれを見て、うーん、ユキちゃんそれ似合う、などと靖成が思っていると、聡子もすかさず「ユキちゃんそのポーズいいわねえ」などと言っている。

 そして、靖成はいよいよ理解した。


「良かったな、賀奈枝ちゃん今度アパートくるんだってさ。いい雰囲気になったら二人きりにさせてやろうなー」

 ユキはイルカに話しかけながら、靖成に向かってびしっと親指を立てる。

「布団は、干しておく。シーツは洗っておく」

「いやあのさ、お母さんたちの前でなに言ってるのユキちゃんてば」

 なんだかもう、恥ずかしがる年でもないのが、寧ろ恥ずかしすぎるなどと靖成は思うが、オープンな両親は意に介さない。

「お母さん、掃除しとこうか?」

「お父さん、差し入れしとくぞ」

 いえいえ。何の差し入れでしょうか、お父さん。


 靖成は、賀奈枝の言葉を思いだした。好きです、と確かに言われた。

「はあ……」

 靖成はハンドルにもたれ、深く息をはいた。信号はすでに青に変わり、隣の車線ではヘッドランプの灯りがゆるやかに流れている。不意に、クラクションを鳴らされた。なかなか発車しない靖成の車に、後ろの運転手がしびれを切らしたらしい。

「わっ、すみません」

 慌てて、しかしゆっくりと靖成はアクセルを踏む。


 視界のすみに、ユキが楽しそうに車窓から外を眺めているのが見てとれた。

 ユキは、もうずっと昔から陰陽師である靖成の家に仕える式神だ。

 一度消滅して、また何代かあとの当主により復活させられている。そんなユキがひたすら靖成の婚カツを後押しする理由は明確だ。

「靖成と賀奈枝ちゃんが結婚して子供ができたら、その子がさ、俺が昔仕えていた当主の生まれ変わりなんだよな」

「佐々木さんちにある書物にも、そう書いてあるわねえ」

「ユキちゃん、ずっと会いたいって言ってるもんなあ」

 圭介たちと和やかに会話をしながら、へへ、とユキは少年のようにはにかむ。


「…ユキちゃんはさ」

「ん?」

 靖成はゆっくりとハンドルをきった。カーブを曲がるときは、運転していても体が外側に振れる。

 流されそうになる不安定な体勢を、意識的に立て直した。

「どうした?靖成」

 ユキちゃんは、会いたい人に会えたらどうなるの?

「安心しろ。いざというときには、俺は出ていく」

 満足して、消えちゃったりしないよね?

「見ていた方がいいならずっといるぞ。店では見慣れてるし」


 ずっといる…


 いや…

 見慣れてるって、なに?

「賀奈枝ちゃんに事前に言っておいたほうがいいかなあ、色々」

 色々。いろいろ…(なにを)

「まあまだ、何も起こってないんだからごちゃごちゃ考えても仕方ないかー」

 助手席から、後部座席の聡子たちを見ながらユキは明るく言う。

「うん、まあ。そうかもしれないけどさあ…」

 なんだろう。このいたたまれなさ(いや、いつものことだけど)。

 再び信号で停車し、靖成は助手席でぬいぐるみを抱いたままのユキを見る。

 姿形がずっと変わらない式神と、いつまで一緒にいられるんだろうか。ふと考えた靖成の脳裏には、賀奈枝の顔もしっかり浮かんでいる。


「なあ靖成、サンタコス衣装ポチっといたぞ。アパート着にしといたから宜しくな」

 ああ……脳裏の賀奈枝がサンタ姿に変換された(以下自粛)。

「お父さん、ちょっと今考え事をしてたんだけど。そもそも情緒ってものをさ…」

「3丁目のキャバクラ、クリスマスフェアらしいから今度行くか」

「うん。てかね、お母さんそれでいいの?」

 思わず即答してしまった靖成だが、一応母にも気をつかう。

「いいんじゃないの?」

 いいのか。

「ごちゃごちゃ考えんなよ、靖成」

「ご先祖様の時代は何があるかわからない人生だったんだから、好きなように生きたらいいだろ」

 平安時代から続く陰陽師家系を振り返る、長期スパンな人生観になってしまった。

「まあ、いいかなあ…」

 靖成は溜め息をつきながら、ハンドルをまっすぐに握り直してゆっくりとアクセルを踏んだ。



挿絵(By みてみん)


 第5話 おわり

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