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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(中)
30/86

第5話 その6

 

「じゃあ、篠目さん。ありがとうございました」

 車は靖成の実家に返すため、賀奈枝を自宅近くで先におろす。

「また明日」

 靖成も車から降り、挨拶をした。車内から伺う親の視線が気になり、微妙に恥ずかしいが仕方ない。


「おい、靖成。これこれ」

 ユキが笑顔でふよふよと車から出てきた。指差すのは、トランクに積んだイルカの特大ぬいぐるみ。

「お礼伝えて。えーと、『賀奈枝ちゃん、ぬいぐるみありがとう』」

「ん。橋口さんぬいぐるみありがとう…って、ユキちゃんが」

「違うー」

 ユキからびしっと突っ込みが入った。

「一言一句、違えるな。ちゃんと言え」

「えー…ユキちゃんそんなキャラじゃなくない?」

「キャラの問題じゃねえんだよ、ほら」

 賀奈枝は首を傾げているが、靖成はユキに弱い上にやはり改竄はよくないだろうと言い直す。


「…では。ユキちゃんの言うとおりに伝えますね。『賀奈枝ちゃん、ぬいぐるみありがとう』」

 そのぎこちない言い方に、賀奈枝は小さく吹き出した。ユキはにやっと笑って言葉を続ける。

『今日は楽しかった。賀奈枝ちゃんはどうでしたか』

「はい、楽しかったです」

 うーん、腹話術みたい、と、すでに恥ずかしさから棒読みになっている靖成に、賀奈枝は律儀に返事をする。

『親同伴ですみません』

「あ、いいんです。それは。お母さんたちも楽しんでいたようですし、私もちょっと知りたかったので」

「知りたい?」

 ユキが首を傾げ、靖成も復唱しながら眉間に皺をよせる。

「篠目さん、顔が怖いです」

「ああ、すみません…」

 じゃ、なくて。

「知りたい、って?」

 靖成の改めての問いに、はい、と賀奈枝がいう。

「陰陽師の家族って、どういう方々なのかなって。普通なんですねえ」

「はあ、まあ。本業はほかにありますし。ぶっちゃけ普段着でも祈祷はできますから」

 靖成がわざわざ着替えるのは、そういう方針なのと、身バレ防止のためである。

 ふむ、と賀奈枝も納得しているようだ。


「おい、靖成。続き言うぞ」

 ユキがつついてきた。えーまだ言うの、と靖成は嫌がるがユキは構わず話し出す。

『また、会社で』

「また、会社で」

 腹話術のような靖成に、はい、と返事をしながらも賀奈枝はおかしそうだ。

『好きです』

「好き……ん?」

 ん?

 ユキちゃん?なんかどさくさ紛れに脈絡のないセリフを差し込んでない?


「ん?」

 靖成の目の前に、きょとんとした賀奈枝の顔がある。

 あ、やべ。ひょっとしなくても、深く考えずに復唱した靖成は、自分の口から出た言葉を反芻する。

「お、おう…」

 なんか言ったね。言ったよね、自分。 しかも半端なところで切ったよね。

「橋口さん、あの」

「賀奈枝、でいいですよ」

 賀奈枝は笑った。


「私も好きです。篠目さんのこと」


 おお。

 そうですか。それはそれは…


「ありがとうございます……」

 靖成は、ぎこちないながらも礼を言う。くどいようだが35歳、そこそこ大人。だけどなにこれ、甘酸っぱいってこんなだっけ、と靖成ははげしく動揺した。

 ふふふ、と、賀奈枝はそんな靖成に、笑顔で軽く御辞儀をした。

「本当に今日は、楽しかったです。ユキちゃんにも宜しく伝えてくださいね。色々ありがとうございました」

「はあ」

 間抜けな相づちをうつ靖成だが、ユキはうんうん、と頷いている。ねえ、なに二人でわかりあっちゃってんの?

「イルカ、気にいってもらえて嬉しいです。そのうち会いに行きますから、アパートで可愛がって下さいね、イルカちゃん」

「はあ、はい」

 なんか映画のセリフみたいなの言われたぞ。いま会いになんちゃら。いや映画は見てないんだけどさ。


 じゃあ、と賀奈枝はそのまま歩いていく。

 姿が見えなくなったところで、靖成は路駐してある車に戻った。後部座席の窓があき、両親が顔を出す。

「あれ、やっくん、ちゃんとさよならのチューはした?」

「他の女に見られないようにな、って靖成はそんな心配いらないかあー」

 父の脇腹に母聡子の肘が綺麗に入ったところで会話は打ち止めになり、靖成は運転席に座る。空いた助手席にいるのは、ユキだ。

「今度賀奈枝ちゃんにボルシチ教えないとなー」

 ユキは、なんかニヤニヤしてる。

「クリスマスなら、やっぱりチキンだけどさ、アパートじゃ焼けないからなあ。さっちゃんとこで焼いて、あとはパスタと、サラダと、シャンパンと」

 靖成は車を発進させ、ハンドルを握りながらユキの言葉に耳を傾けている。

「チキンは、毎年駅前のスーパーで買ってるあれでいいんじゃないの?」

 車内は静かだ。ルームミラーごしに後部座席の両親を見たら、なんかスマホを眺めてにやにやしてる。てか皆にやにやしてるよ。怖いよ、どうかしたの?


「まあ、賀奈枝ちゃんに何か料理を作ってきてもらうのもアリだけどさあー」

「なにが?」

「だからさ、クリスマスが近いだろ。賀奈枝ちゃん言ってたじゃん、イルカに会いにくるって」

 確かに。しかし靖成にはクリスマスとイルカの関連性がわからない。

「何言っちゃってんの?ユキちゃん」

「だから、クリスマス。安心しろよ、プレゼントのリサーチなら俺とさっちゃんがしとくから。靖成はプロポーズの言葉でも考えてろ」

「は?」

 靖成はこれでもかというくらい眉間に皺を寄せる。



まったり続きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] まったり、というかヤバいですよね、これ。 耐性がない人は溶けてしまいそうな…… ラブの波動に。
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