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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(中)
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第5話 その2

 風悟の言葉を思い返しつつ、靖成は昭和なアパートの畳の上で、ヨレた部屋着姿で手酌をしている。


「というわけで、教えて下さい、ユキ樣」

 ユキは、靖成の正面であぐらをかいて呆れたように言った。

「だからさ、佐々木さんに仕込まれた奉仕精神が、女子からしたら荷物持ってやったりちょっと気を遣ってやったり自然と好感度アップに繋がってんのに、無自覚だから勿体ねーな、って話だろ」

 ええ、と靖成は切ない顔になる。

「俺…結婚に興味はなかったけど、女に興味は断然あるんだけどなあ…」

「そこは俺も見てるから知ってるけどさ」

 見てるとか言わないで下さい、ユキさま。


「それはそうと。明日賀奈枝ちゃんとデートだろ。せっかくだから京都に一緒に行けば良かったのに」

「だって定例会あるし、あまり観光できなくない?」

「泊まればいいじゃねえか」

「と…」

 いや、紅葉シーズンだし、京都のホテルなんて満室じゃない?と靖成は渋い顔をする。

「ラブホでいいだろ、さっさとやれよ」

 毎度のことながら、平安時代生まれの15、6歳のイケメン式神がさくさく口にする内容としてはどうなのだ。

「ユキちゃん、情緒っていう言葉知ってる?」

「昔は夜這いがスタンダードだったぞ」

 昔とは、ざっくり千年以上前の話である。ユキとの間に大きなジェネレーションギャップを感じる靖成であった。

 ひとまず、京都から久しぶりに新幹線で帰宅したので疲れている靖成は、明日に備えるべく(そんな意味ではなく)布団を敷いて寝ることにした。



「あ、そう言えば。お父さんの仕事は?どうだった?」

布団にもぐりながら、靖成はユキに聞く。

「圭介か。仕事は問題ねえよ。それより靖成に会いたがってたぜ。賀奈枝ちゃんにも」

「へ?」

 靖成は間抜けな声を出した。

「そりゃそうだろ。息子が結婚相手を見つけたんだからさ」

いや、結婚すると決まったわけでは。靖成は口ごもる。

「この間の賀奈枝ちゃんの巫女姿をさっちゃんがLINEで圭介に送ったらしくてさ。絶賛してたぞ。で、早く会いたいって」

 やはり父と息子である。好みが似ている。父と母は見合い結婚なので容姿で選んだわけではなく、それはそれで良いのであるが、見た目の好みはそう簡単には変わらないのは母聡子で実証済みであり、そして靖成はハイブリッドなのだった。


 うむ、と靖成の脳裏に情景が浮かぶ。

「…なんかこう…両手に花って言葉。右手にユキちゃん、左手に橋口さんっていう状態を表すのに最適な表現だよねえ」

「彼女に手も付けてないのによくわかんねえこと言うなよ」

「いや…男の夢をね、ロマンをね…」

「ロマンなら酒池肉林だろ」

「…ねえ、ユキちゃん。せっかくアイドル顔なんだからさあ、イメージを大事にすべきだと思うの」

「靖成も、ヨレてるイメージからの脱却をはかれ」

うーん、と靖成は布団を頭からかぶる。旗色が悪い時はさっさと寝るに限るのだ。しかし、目がさえて眠れない。落ち着かない。


「ユキちゃん、眠れない…」

「遠足前の子供みてえだな」

 うん?と靖成は思う。歩くのは苦ではないが、集団行動がいまいち苦手な靖成に、遠足の前日に眠れなかった経験はない。だが心当たりはある。レストランディナーの時、賀奈枝が楽しみで前の日は眠れなかったんですよーと言っていたのは、これか。


「あっ、やべ」

 どうしよう。うきうきした賀奈枝を思い浮かべたら、もっと眠れない。

「賀奈枝ちゃんも眠れないんじゃねえか」

 ユキは布団を頭から被った靖成を上から眺めて、にやにやしている。靖成はというと、賀奈枝の言葉を脳内で巻き戻していた。

 えーと。確か。

「前のデートのときもさ、酔っ払って実家連れていったけど、アパートに連れてこられても良かったのにって賀奈枝ちゃん言ってただろ。今度こそ期待してんじゃねえの」

 そうそう、なんだかそんなことを…と、靖成は頷いていたが、はたと気づく。

「…ユキちゃん、あのとき充電中で、表に出て来てなかったでしょ?なんで知ってんの?」

 靖成と賀奈枝が三次会を開いていたのは実家のリビングであり、そこにある神棚でユキは寝ていたはずである。

「聞いたから」

「…えっ」

「賀奈枝ちゃんから。というか、さっちゃんとの会話を聞いた」

「……ええ…?」

「靖成が女に興味がないのか、賀奈枝ちゃんがさっちゃんに聞いててさ」

 かくかくしかじか、とユキは会話の一部始終を子細に話す。彼女(仮)と実母が自分の性癖を分析しているのだ。靖成としては、聞きたくないが確認はしたい。

「さっちゃんは、靖成は風俗好きだから興味はあるみたいよ、とか言ってたな」

「…あああ」

 後ろめたさはないが、なんだろう。

 知らないところで丸裸にされているような。依り代をざくざく刺されたような。丑の刻参りで釘を打たれちゃった時ってこんな気持ちなのだろうか。


「俺はさ、とりあえず靖成がよく指名するお気に入りのタイプを伝えといたんだけど。そう言えば靖成ってどっちかって言ったら可愛い系よりきれいめが好きだよな。ほら、巫女コスした賀奈枝ちゃんみたいな…ん?」

 追い討ちをかけるようなユキの言葉に、靖成は完全にうちのめされていた。いや、きれいめな子がたまに見せる無防備な感じが好きなんだけど…と、ごにょごにょと呟きながら布団の中で生ける屍と化した靖成は、昼間の疲れもありそのまま寝落ちしたのであった。


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