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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ユキ編(中)
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第4話 その5

「あら賀奈枝ちゃん、いらっしゃい。どう、今日の靖成、少しカッコいいでしょ」

  少しってなんだ。しかし靖成からは何も言えない。

「はい、いつもより3割増しです」

  賀奈枝の表現も微妙だな。

  靖成はちょっと切ない気持ちだが、聡子が賀奈枝を呼んだにしろ、会えたのは嬉しい。お母さん、と親しげに聡子を呼ぶ賀奈枝をみて、須坂は驚いた。


「あれ、篠目いつのまに結婚したの?」

  いや、と靖成は控えめに相づちをうつ。なるほど、確かに好意がある相手との仲を自分で否定するのは切ない。

「篠目くん、こんな美人な奥さん見つけたんだね。若いですよね?」

  ありがとうございます、という賀奈枝の返事は、容姿を誉められたことに対してだろう。しかし事実は伝えねばならない。

「28です。篠目さんは、いま同じ会社なだけです」

「あ、そうなの?そのわりに、お母さんとは仲が良いんですね」

「はい、篠目さんよりお母さんのほうが喋りますねえ」

  ところどころ靖成にちくちく刺さるが、和やかなのは何よりだ(ということにしておく)。


そうこうしているうちに祈祷の順番がきたらしく、須坂一家は名前を呼ばれて社殿へ移動していった。

「篠目さん、こういうお仕事もするんですね」

「いやまあ、たまにです」

賀奈枝は楽しそうに境内を眺めている。

「私巫女さんのアルバイトって憧れたんですよね~」

「あら、ここ募集してるからどう?いっそそのまま奥さんに。ねえねえ」

「えー」

ここ、イコール神社。しかしイコール靖成ではない。母よ、いいのかそんな適当で?と靖成は突っ込みたいが突っ込めない。そして賀奈枝はまた適当にスルーして、靖成の全身を改めて見る。

「和装、素敵です。お母さんが、今日篠目さんのコスプレが見られるよっていうから来ちゃいました」

賀奈枝が笑顔でいうが、聡子は母としてなんていう誘いかたをしてるんだ。

「靖成、良かったじゃねえか。もういっそここに転職しろよ」

「あらいいわね~。毎日コスプレしてるみたいじゃない」

「お母さん、神職が本職になったら、それは既にコスプレじゃないよ…」


 境内がだんだん賑やかになった。祈祷を終え、写真をとる家族があちこちにいる。靖成は、須坂の親を遠目でみた。小学生当時は、今の靖成より少し上くらいだった。

「須坂さんも病気が良くなってなによりだわ。神頼みをするくらい、家族みんな悩んでいたみたいだから」

 聡子は、靖成をちら、と見た。珍しく真面目な表情だが、子供の同級生の父親が病気というのは、ひとごとではなかったのだろう。

「ユキちゃん、こういうところ似合いそうですね」

 賀奈枝が、境内を見渡しながら笑顔でいう。ユキは、適当に旋回しているが、楽しそうだ。

「ユキちゃんはお願い叶えたりしないんですか?」

「うーん、神社は本来、そういうのではないですから。あんな可愛い神様が祀られてるなら神社の集客力に貢献しそうではありますが、残念ながら」

 靖成は大真面目だ。賀奈枝は笑う。


「篠目さん、ユキちゃんのこと本当に大好きなんですねえ」

遠くから、再び靖成は名前を呼ばれた。須坂が手をあげ挨拶をする。帰るらしい。子供も無邪気に手をふっている。その隣にいる須坂の両親に会釈をされ、靖成も返した。

「可愛いわねえ。お母さんも早くやっくんと賀奈枝ちゃんの子供が見たいわ」

なんてことを言うんだ。

「そうですねえー」

 賀奈枝がのんびり相づちを返す。靖成がえっ、と振り向くと、賀奈枝は、おまいりしてきます、とにっこり笑い、歩いていった。


「…お母さん、びっくりするようなことは言わないで下さい」

「何が?」

「全部です」

「間違ってはいないでしょ。やっくん、賀奈枝ちゃんにさっさとコクりなさいよ」

 ユキと同じことをいわれ、うー、と靖成は頭を抱える。賀奈枝が戻ってきた。

「賀奈枝ちゃん、何をおまいりしたの?」

「えー」

 教えて~、えー、と女性2人で耳打ちしている。取り残された靖成はユキを見た。

「ユキちゃん、これは、なんなの?俺の立場は?」

「嫁姑問題がないんだったら、あとは靖成が腹くくれば良いんじゃねえのか」

「腹…」

 靖成は水曜深夜の祈祷(失敗)を思い出した。黒い念の塊は明らかに負のオーラだ。もしあれに引っ張られたら、あれに取り込まれていたら、どこに行ってしまったんだろうか。

「靖成?」

「ううん」

 何でもないよ、と靖成は言う。

 七五三の次の祈祷が社殿で始まった。祝詞と、次いで名前や住所。朗々と響く独特の声音で名前を読み上げるのは、神様に存在を知ってもらうためだ。

「ユキちゃん」

 靖成は、ユキに声をかけた。

「なんだよ」

「呼んだだけ」

「気持ちわりいな。ドラマのツンデレなヒロインみたいだぞ」

「え…俺、女の役?」

 あほか、とユキは呆れる。見た目は若くても、靖成が物心ついたときからずっと傍にいるユキ。

「ねえ、ユキちゃんのフルネームって、なんなの?」

 父も祖父も、ユキちゃんとしか呼ばない。

「フルネーム?んなもん、式神にはねえだろ」

「だよねえ」

 賀奈枝が、近づいてきた。

 靖成たちは夕方まで神社の手伝いをするので、賀奈枝は一人で帰るらしい。コスプレ似合いますね、とまた言われ、靖成は賀奈枝の巫女さん姿を想像する。おお、髪色明るく目鼻立ちもはっきりした賀奈枝は、違う意味でよく似合いそうだが口には出さないでおく。


「やっくん、そっち行ったわよー」

 母聡子の呑気な声に靖成が顔をあげると、参拝にきた和装のお子様たちが笑顔で突進してきているところだった。

 避ける間もなく複数人から腹にタックルをかまされ、靖成はここでも、なすすべなく仰向けに倒れる羽目になったのである。

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