第4話 その1
すっかり秋めいたある日の夜、昭和のアパートの一室で、味噌汁をよそりながら、式神ユキが呟いた。
「…靖成、ここ、出るのな…」
「そりゃあ、古いからねえ」
靖成は、ユキの眉間に皺が寄っているのを見て、あー、と思い、手を伸ばす。なでなで、のびのび。
「…なにすんだよ」
「皺が取れなくなったら、ユキちゃんの可愛い顔が台無しじゃないの」
ぺしっ、とユキは靖成の手を退けてため息をつく。
「一時期、やっといなくなったと思ったのによ…全く神も仏もいやしねえな」
「まあねえ。うち神道だから仏壇は無いけどね」
いただきます、と靖成は手を合わせた。今晩は秋の味覚、秋刀魚の塩焼きである。
「しっかり大根おろしを添えるなんて、さすがユキちゃん。ニクい心配りだねえ」
「まあな。季節感は大事にしないと。何百年も生きてると、年代の感覚はおかしくなるからさあ」
ちょっと得意気に笑うユキだが、ふと小さな物音を耳にして動きを止めた。
「…来た」
「あー、いるね、うん」
「何匹だ…?3、4、いやもっと…」
「賑やかだねえ」
「うるさいっていうんだよ!」
いた!!とユキが叫び、手元から和紙をすらっと出す。そこから飛び出したのは猫だ。
「頼んだぞ!」
そうユキが指差した天井板の隙間から、なにやら小さな影が見えた。鼠である。
ユキは鼠が苦手なのだ。
そして鼠には猫である。仲良く喧嘩しなくてもいい。とにかくこの、居心地よさそうな屋根裏を闊歩する鼠一家を追い出してくれ。
そうユキが念じた瞬間、猫は靖成の目の前にある秋刀魚にかじりついた。
ああー!
「ユキちゃん…俺の夕飯…」
靖成の目の前にあった秋刀魚は、一瞬で身がじゅわっとはじけ、次の瞬間には綺麗に骨だけになっていた。
もちろん、和紙から出た猫は消え、現実の鼠はそのまま古いアパートの天井裏を元気に駆け回っているのだった。




