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最終話 転生者退治は続くよ何処までも

「ん? 何を驚いているんだい? 普通に走って妹に会いに行くのが不思議なのかな? まあ、妹に会えると思うと自分はテンションがとてもとても上がってしまうからね。いつもより足が速くなって爆走必死体験なのだよ。人は眠ってる力が揺り起こされるとあんなにも走れるんだねぇ。あまりに速かったから、個人的トップの下の下の下の下のさらに下くらいの足速さランクに入る程だったよ。あと、ここに自分がいるワケだが、故郷に帰るとこんどは五女が転生者にたぶらかされていてね。再度、シンカリア君の力を借りたくて戻って来たというワケだ」



 「いやいやいや。いやいやいやいや! いやいやいやいやいやいや! アンタの故郷が何処にあるかは知らないけど絶対速すぎでしょ! つか、あの攻撃範囲に気づかずに走ったってどんな速さ!? どんだけ速く駆け抜けたんだっつーのッ! しかもその速さが下の下とかどういう事だっての! まだまだ速い時があるってか!? あるってのか!?」



 どうやらサトリマックスは速く走りすぎたため、ベルドリーゼの絶大神超砲光(エクスゼルスター)を普通に通り過ぎてしまったようだった。というより、攻撃されていた事すら気づいていない。


 あの絶大神超砲光(エクスゼルスター)という広範囲で超高出力の攻撃を気づかず避けるのは、爆破魔法(ブラスト)といった魔法を避けるのとワケが違うはずだが――――――――――サトリマックスにとってそんなに差はないらしい。気づいてすらいないのだ。シンカリアはそう思わざるを得なかった。


 信じられない事だが。


 そう、とても信じられない事なのだが。



 「何か気になる事があるのかな? 疑問があるなら、できるだけなるべくわかりやすく答えよう」



 だが、まあなんというか――――――――――――――それがサトリマックスという人物なのだと思えば不思議と納得できてしまう。そんな不思議さがこの男にはあるのだ。


 理解できない強さを持つが、そこに理由が見えない男。


 それがサトリマックスという人物だった。



 「…………色々聞きたくなるけど別にいいわ。助けに来てくれたし。ありがとうだし。感謝しかないし。あと、その五女さんの事は後で聞いてあげるわよ。転生者に関する事なら無視できないし」



 「おお! ありがとう! きっとシンカリア君のような良い子はモテるよ。おそらく色んなパパが殺到するくらい良い子だろう。お兄さんは嬉しく思う」



 「そこは嬉しく思う所じゃないッ! つか、言ってる事が色々と関係関連してないわよッ!」



 「あ、そうかなるほど。妹に対して使うのはお兄ちゃんであって、お兄さんは他人に使う言葉か。慇懃無礼になってしまったね。申し訳ない」



 「頭痛ッ! 頭痛よッ! だんだん言ってる事が理解できなくなっていくぅッ!」



 体力も魔力もガス欠ぎみなのに、何故かシンカリアのツッコミ具合にはキレがあった。


 だが、シンカリア本人はそんな元気いっぱいにサトリマックスと話せている(?)自覚はなく、レスクラは「このまま朝まで漫才してそうですね」と呟きながら二人のやり取りを見ていた。


 シンカリアと漫才をしている間もサトリマックスの手は動いている。視線を向けずにリザードマン達へ銃口を向け、数分で百匹近く倒していた。まだまだリザードマンの数は多いが、この調子なら一人で殲滅してしまうだろう。あまりに余裕だった。



 「というワケでそういうワケだからッ!」



 なのに――――――――――サトリマックスはシンカリアとレスクラを担ぎそのまま走り出した。

 リザードマンの数が薄いところを突っ切り、そのまま遠くへ向かって走って行く。



 「ここは逃走という事で」



 「何故ッ!?」



 あまりにも余裕でリザードマンを倒していたはずだが、どうしてだかサトリマックスはここから逃げるべきだと判断していた。



 「なんでよ!? 倒しなさいよ!? アンタならできるでしょうが! 余裕しゃくしゃくでばんばか倒せるでしょうがぁぁぁぁッ!」



 「これはなかなか屈辱な格好ですね。あ、私の怪我を気遣う必要はありません。このくらいの揺れは問題ないです。はい」



 サトリマックスの背後からリザードマン達が追ってくる。だが、サトリマックスの足が速すぎるため誰も追いついてはいなかった。


 リザードマンの群れからどんどん距離が離れていく。



 「いやー、クリハラの時からずっと消耗してるからね。元気も体力もあるけど戦闘する気力は無いと判断したんだよ」



 「それ気力だけの問題よねッ!? 元気あって逃げる体力あるなら殲滅できたわよねッ!?」



 「ハッハッハッ! 大丈夫! 寝て起きてパッチリ目が覚めたらさっきの魔物達を片付けにいくから。あの程度の数、数秒でやっつけてみせるよ。アッハッハッハ」



 「やっぱりあんた余裕じゃないのぉぉぉぉぉ! バッチリ目が覚めて数秒なら、今でも数分かければ倒せるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 そんな事を叫びながらシンカリアはサトリマックスの肩に揺られている。


 今もリザードマンがサトリマックスに追いつく様子は無い。この調子なら全てのリザードマンから完全に逃げる事ができるだろう。



 「……………なーんか、私ってこの先も私は二人と付き合っていく気がするなぁ」



 ふと、なんとなく制服のポケットに手が触れ、そこにある手紙の内容をシンカリアは思い返す。


 シンカリアは修学旅行中だ。イールフォルト魔法学院を目指しながら、転生者に関する事件や事態を解決しなければならない。それは危険な旅であり、今回のように命がけな事態になるのは珍しくないだろう。


 だが、それは別にシンカリア一人でする必要は無い。手紙にそういった記述はないのだ。解決に人の手を借りても問題なく、旅そのものも一人で続ける規則も義務も無いのだ。


 この先もシンカリアは積極的に転生者に関わっていく事は決定している。


 だが、それはきっと一人で全て解決するのは難しい。レスクラやサトリマックスといった助力は必須で、実際この二人がいなければ(リィンリンもだが)ゼスターは倒せなかった。シンカリア一人ではやられていただろう。



 「振動とは良いモノですね。何だか身体がほぐれている気がします」



 「お望みならマッサージをしてあげようか? これでもマッサージ店を開けるくらいの腕前でね」



 「いえ、遠慮しておきます。。おじさんに身体を触られる趣味はないので」



 「あちゃー、これでもまだ二十八歳なんだがね。レスクラ君は手厳しいなー。ハッハッハッハ」



 修学旅行は過酷な旅になる。


 だが、その修学旅行に同行者がいるなら。複数人で旅ができるなら――――――――――その旅は過酷でも、きっと楽しく面白いモノになる。


 レスクラやサトリマックスとのどうでもいい会話や行動を思うと、不思議とシンカリアの胸中から不安が消えていくのだった。





 まあ、この先も今回のようにどうにかなるだろう、と。





 「………………とりあえず落ち着いたらご飯たべなきゃ」



 シンカリアはお腹が空いている事を思い出し、明日サトリマックスがリザードマンを倒しに行くというなら、それに付き合わなければならないなと。


 そして、明日になったらサトリマックスに埋めようとした件を謝らなければと。


 そんな事を思いながらサトリマックスの肩で身体を揺らしていた。

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