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21話 異世界転生は業が深いと知るがよい

期間が短かった(と思う)とはいえ、ゼスターから色々な労働をさせられていたはずだが、その顔には一切の疲労感が無い。どうやら本人としては別に何でも無い事のようだった。今も急いでやってきただろうに肩で息をしている様子すら無い。レスクラと戦っていた時もそうだが、相変わらずのスタミナだ。



 「もう一度言おうッ! ここッ! 当たりッ! 見つけたッ! こういう事かッ!? ありがとうッ! 無視だッ! 謎だッ!」



 何か色々と言いたい事があるのだろう。だが、あまりに簡潔すぎる言葉でサトリマックスは述べていた。



 「サトリマックス。一言目から順番に略さず述べていただいていいでしょうか?」



 地震は変わらず続いているが、特に慌てる事なくレスクラはサトリマックスに聞き返した。



 「よし、ではまず一つ目だ。 君たちの気配を感じたモノでね。早く合流した方がいいと、ここへ走ってきたのだ」



 さっきまでは何だったんだと言いたいくらい、落ち着いてサトリマックスは話し始める。



 「そこそこ広くて魔物も闊歩している中で、私達とも距離があったのによく気配とか解りましたね。理解しました。では二つ目を」



 「では二つ目。そんな自分の気配察知は寸分違わずの的中だった。ドンピシャの当たりだったよ」



 「どんなジャングルでも迷宮でも戻ってこれて、尾行もストーカも完璧にできそうですね。理解しました。三つ目をお願いします」



 「では三つ目。これは君たちを見つけたという安心安堵を表した言葉になっているよ」



 「言う必要を感じられませんし、二つ目と一緒にしていいんじゃないでしょうか? 理解しました。四つ目をお願いします」



 「では四つ目ッ。自分で推理してみたんだ。私はここを乗っ取った者に捉えられて操られていいように使われていたんだが、君たちがその問題のヤツを倒したので自分は解放されたのではないかな?、だからきっと、ここにいたであろう敵はもういない。そうに違いないと思う」



 「恐ろしく恐るべき直感推理です。あってます。説明いらずで助かりますね。では五つ目を」



 「魔物達が大移動しているんだ。さらに自分を見ても無視して何処かへ走り去って行くんだよ。魔物は本能的に人間を襲うのに、これはいったいどうしたことだろうか」



 「それは「無視だッ!」ではなく「どういう事だ?」で分類すべきだったのではないでしょうか? 理解しました。では、最後をどうぞ」



 「いくつもある部屋が次々と動いている。巨人がこの建物を立体パズルにして遊んでいるかのようにね。おそらく地震はそのせいではないだろうか。なぜこんなことが起こっているか謎だがね」



 「ありがとうございました。とりあえず、私達に関係しそうで大事なのは最後の二つだけといった所ですね」



 「よし! もうわかったわ! ツッコミ入れてもしょうがないから、そこは黙っとくッ! 今はとりあえず神殿から脱出よッ! できるわよねッ!?」



 シンカリアはリィンリンに視線を向ける。


 リィンリンは転生させた者達をエルナブリアに転送させている。なので、エルナブリアへの世界移動魔法(リリルージヨン)が使えるはずだ。



 「はいッ! お任せくださいッ!」



 シンカリアに言われなくてもそうするつもりだったのだろう。シンカリアの質問にリィンリンは迷い無く返事をし、すぐに世界移動魔法(リリルージヨン)を展開した。



 「みなさん早くこの中にッ!」



 やがて光の柱が現れ、リィンリンはシンカリア達を急かす。



 「ったくもう! 何が起きてるってんだかッ!」



 サトリマックスの言っている事が本当なら、とりあえず外に出なくてはマズい。地の部屋が動いているというなら、このままいるとそれに巻き込まれて死ぬ危険性が高い。


 ――――――――何がこのアルドゥークで起こっているのだろう。乗っ取っていたゼスターはもういないというのに。



 「変な所に出さないでよ! 光柱の向こうが崖の先とかだったら、あんたの頭に浮いてる天輪に噛みついてやるからッ!」



 「大丈夫です! 転送先はただの広い草原ですからッ!」



 すぐに四人は光の柱の中へ入り、アルドゥークからの脱出を完了させる。


 リィンリンの世界移動魔法(リリルージヨン)に何も問題はなく、エルナブリアへの転送は無事に終わった。




 シンカリア達は無事にアルドゥーク神殿から脱出できた。


 そう、無事に脱出できたのだ――――――――――――――――――なので気づかなかった。


 揺れ動く転生の座に残された玉座が、吸い込まれるように上へ上へと浮いていった事に。


 そして、魔物がアルドゥーク神殿内を移動しているのは、動く部屋に巻き込まれないよう、魔物達が各自の持ち場につこうとしているからという事に。



 シンカリアが外に出なければマズいと思った事に間違いはなかった。アルドゥークから脱出したのは決して悪手では無かった。




 だが、それは決して好手では無かったし最善手からはほど遠い。




 シンカリア達がアルドゥークから世界移動魔法(リリルージヨン)でエルナブリアと戻ったのは―――――――――ただ、これから起こる第二ラウンドの舞台がエルナブリアに移ったというだけの事だった。

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