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19話 チートだ神だ言ってるからこうなるんでしょう

「なかなか早かったな。私に対処させる時間を与えたくなかったという所か」



 牢屋を出てからは早かった。


 魔物達ではシンカリア達の障害にならないし、目的地までの道も、アルドゥーク神殿を知っているリィンリンがいるので迷う事はない。


 シンカリア達はゼスターのいる“転生の座”と呼ばれ場所へ最短距離で向かったため、辿り着くまでさほど時間はかからなかった。



 「リザードマン達では足止めにもならなかったか。まあいい。邪魔者を排除するのは主の役目というだけの話」



 転生の座への扉を開くと、そこには舞踏会でも開けるような煌びやかな装飾がされた大部屋があった。その奥にたった一人、君臨した暴君のように玉座へ座るゼスターがいた。



 「これはこれで趣がある。迎え撃つのが強者の役割という事だ」



 来るのがわかっていたとでも言うような余裕っぷりだ。シンカリア達が転生の座へやってきた事に対する焦りが全く無い。


 ――――そう、焦りは全く無く余裕に溢れているのだが。



 「趣味悪すぎですマサノブさんッ! 玉座なんてここにはなかったはずですッ! それにこんな大きな広間なんか造っちゃって! アルドゥークはお城じゃないんですよッ! こじんまりした神殿だったはずなのにッ! 魔物を使って拡張やりすぎですッ! 無駄過ぎですッ! 増築ここに極まれりですッ!」



 「うるさいッ! 神であるオレが自分の居城をどうしようと勝手だろうがッ!」



 「無意味にアルドゥークを広くしちゃいけませんッ! これじゃお掃除するの大変ですよ! 料理だって運びきるまでに冷めちゃいますッ!」



 「黙れこのポンコツ元神がッ! そんなのどうでもいいわッ! あと俺の名前はゼスターだッ!」



 だがその余裕は、思わず玉座から立ち上がってリィンリンへツッコミした事で、早くも崩れてしまった。



 「転生者ってもっと気取ってて「やれやれ…………」みたいな事を言うのがカッコイイと思ってるって聞くけど…………コイツは自信をこじらせてる系のヤツね。ふざけた(チート)は自分自身の力って勘違いしてる典型的な例だわ。自覚ってヤツが全くできなくなってるし。ぶっちゃけ、すげー醜くてたまらないわねー」



 「具体的すぎますシンカリア。そこはアイデンティティをちょっとでもイジられたらキレる若者&おっさんくらいにしておきましょう」



 そして、その脇でシンカリアとレスクラが好きに言いまくる。



 「そこも黙れぇぇぇぇぇ! 実際に俺は神なんだから凄いし偉いの! 死んだヤツを自在に転生させられて人生も決められる凄いヤツなの! まだわからんのか!」



 「マサノブさん…………そういう事を言っちゃうのがイタいって、シンカリアさんとレスクラちゃんは言ってると思うんですけど…………」



 「ポンコツ神は黙れと言ったよなぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 「ひいいいいいい! ごめんなさいいいい!」



 ゼスターはリィンリンを涙目にすると、落ち着きを取り戻すように玉座へ着席する。



 「ふん、俺に勝てない事はわかっているはずだがな。それともまだ理解できていないバカという事なのか?」



 ゼスターはレスクラの事を知らないはずだが、特に問題としている様子がない。


 シンカリアの時もそうだったが注意を一切向けていないので、どうやらただのザコと思っているようだ。



 「そっちこそ理解できてないんじゃないの? 勝てないと思ってるヤツがココに来てる…………それがどういう意味なのか」



 「どうやら本当にまだ理解できていないらしい。神であり転生者である自分に勝てる者など存在しない事が」



 「アンタ、その勘違いやめた方がいいわよ? 何度でも言ってやるけど、アンタが今持っている神の力も転生者の力もアンタが得たモノじゃない――――――――」



 シンカリアは玉座に自信満々で座っている転生者に攻撃の手を翳す。



 「――――――全部ここにいるリィンリンがあげたもんなんだってのッ!」



 言い終わったと同時に「超爆破魔法(ハイ・ブラスト)!」とシンカリアは魔法を放ち、大爆破の魔力が真っ直ぐにゼスターを目指していく。



 「ふん、何の芸もなさ過ぎる」



 だが、ゼスターは超爆破魔法(ハイ・ブラスト)に何の脅威も感じていない。


 以前、シンカリアから零距離で撃たれて何のダメージもなかったのだ。玉座から動かず、見飽きた曲芸でも見るような態度になるのは当然だった。



 「せめて俺を満足させられる大道芸でも覚えて出直して来いッ!」



 ゼスターは超爆破魔法(ハイ・ブラスト)を睨み付けると、それだけで超爆破魔法(ハイ・ブラスト)はその場で爆散した。牢屋の時はワザと直撃させたのだろう。苦も無く実行している所を見るに、本来なら魔法が触れる前に対処できるのがゼスターという“神”だった。



 「俺を玉座から動かす所から始めなければならんとは、異世界人は苦労してるな」



 ゼスターとシンカリアの力の差はあまりにも歴然だった。シンカリアの魔法に対して、ゼスターは蚊を払う仕草程度の労力しかつかっていない。いや、むしろそれ以下だろう。玉座から動かずとも対抗できてしまうのだ。呼吸をする事を普段気にしないのと同じで、余裕や油断というレベルにすら達していない。


 ふざけた(チート)と神の力のせいとはいえ、この反則に対抗できなければシンカリアは一方的に蹂躙されて終わってしまう。



 「…………ん?」



 ゼスターは眉をひそめながら現状況を確認する。


 超爆破魔法(ハイ・ブラスト)を迎撃した際に出た爆煙が玉座の周囲を包みこんでいるが、その量がかなり多いのだ。


 ただの爆煙ならすぐに晴れるはずだが、全くその様子が無い。むしろ、ゼスターの視界が完全に遮られるまで溢れている、自分の手すら爆煙のせいで見えなくなっていた。



 「煙幕魔法(バグジグ)…………魔法は超爆破魔法(ハイ・ブラスト)に見せかけただけで、目眩ましのために撃ったのか………………だがッ!」



 玉座の上方。そこから煙幕を裂くようにして迫ってくる大剣をゼスターは見逃さなかった。



 「視界だけ遮ってなんの意味がある? 視界だけでなく感知も遮断しておくべきだったんじゃないのか? まあ、そんな事をした所で俺には効かないが」



 煙幕の中から現れたレスクラが聖剣をゼスターの頭へ突き刺そうとしていた。


 その聖剣はゼスターよりも大きい大剣だ。突き刺されば間違い無く脳天に穴が空くだけでは済まない。有り余った威力が全身を潰し大量の血と肉が床にまき散らされ、ゼスターは絶命したただろう。

 だが、レスクラは選定零組(ティーレアン)ではない。聖剣はゼスターを包む薄虹色のオーラによって完全防御されてしまう。



 「無効化ですね。まあ、わかっていた事ですが」



 サトリマックスがクリハラを攻撃した時に見えていたあの防御膜(バリア)が発生している。



 「無駄がわからないのは悲劇だな」



 超爆破魔法(ハイ・ブラスト)の対処と同じで、当然レスクラの攻撃にも全く危機感が無い。


 ゼスターは呆れるような表情でレスクラを見上げると、気になった玩具でも見るように自分の額を聖剣の先端へとズラしていった。



 「たしかに無駄な事をするヤツには呆れます。でも、無駄かもしれない事なら私は呆れません」



 「無駄かもなんてモノは無い。現実には無駄か有益の二つだけで、無駄かもなんてモノはただの徒労だ。自覚なく徒労しているヤツがどれだけ滑稽か見た事ないのか? もし、ソレを見てわかってないなら背筋が凍るな。無駄を自覚するのが怖いヤツはイタすぎる!」



 「うーん、これはシンカリア的に語るとすれば、擦れているとか、拗らせているとか、陰湿な理解というか………………前世で色々あった感じのセリフですね」



 「………………まあ、そんなもなんでしょ」



 煙幕の中、もう一人の声がした。



 「調子乗りまくってて、自分が世界の中心って思ってるのがコイツらだし。自分に対抗できたりイラつかせるモノなんて存在しないと思ってるのもコイツらだし。あと、なんかわかんないけど転生者っていう人種はなんでこうも――――――――――」



 こんどはゼスターの正面。レスクラと同じく煙幕を裂き、白光を纏わせた拳でゼスターに殴りかかってきたのはシンカリアだった。



 「――――――劣等感持ったまま死んだヤツばっかりなのかしらッ!」



 シンカリアの拳が白光を纏っているのは魔攻付与魔法(エルグシウナ)によるものだ。己の拳に攻撃魔法と同じ威力を付与する、魔道士が近距離戦をするための魔法である。


 今シンカリアの拳は超爆破魔法(ハイ・ブラスト)と同等の威力が凝縮されている。もし、この拳が無防備の相手に直撃すれば、相手はバラバラになるか消し飛んでいただろう。防御姿勢をとっていても完全にダメージを防ぐ事は難しい、そんな威力がシンカリアの拳には込められている。



 「ハッ! 好きに言えッ! 俺はもう上から見る立場にいる! お前らのようなヤツをバカにできる立場にッ! 誰を救おうと見捨てようと選べる立場にッ!」



 だが、シンカリアが相手にしているのはゼスターだ。例えその拳が島を一撃で壊す威力を持っていても意味はない。


 薄虹色のオーラはレスクラの大剣と同じくシンカリアの拳を防いでおり、ゼスターを殴れていなかった。



 「なんだ? 合体攻撃でもすれば通じるとでも思ったのか?」



 ゼスターは見る者がたまらなく不快になる笑みを、レスクラとシンカリアそれぞれに見せつける。



 「お前達の事はわかっている。転生者特攻と神属性特攻をそれぞれ持っているんだろ? だが、残念だッ! 俺が転生者と神の属性を併せているように、お前達も同じようにすればいいと思ったのかもしれない! が、それは無駄ッ! 俺のように一人で複数の属性を持っておらず、別々で一つの属性なら効果は無いッ! お前達二人が合体攻撃をしようと、それぞれで攻撃しようと、それはただの徒労にしかならんッ!」



 ゼスターは無駄と言っているが、シンカリアとレスクラが攻撃をやめる気配は無い。


 火花が散り、ガラスや鉄が削り取れるような音が響かせながら、剣と拳をゼスターにぶつけ続けている。



 「あ、なんだ。やっぱ知らない間にステータスオープンしてたのね」



 シンカリアは演説のように語り出しているゼスターに言い放つ。



 「ソレって私達が怖いと思ってる証拠よね? 偉そうに神を名乗ってるのに怖がってるなんてかなり笑えるわ。本当に上から見てるってんなら、下々である私達の事なんて気にも止めないだろうに」

 シンカリアは鼻で笑い「さっきレスクラにガン無視決め込んだのはパフォーマンスだったのね」とも付け加えた。



 「転生者を優先するって言うのも、なんか自己満足のためって感じだし。アンタってただワガママなだけじゃないの? ふざけた(チート)なんてモノもらってんのに、満足せずリィンリンから神の力奪ってるし」



 「なんとでも言うがいい。俺は無能な(リィンリン)に変わって神になってやっただけだ。まだ理解できていないのか? お前達に恐怖する理由は何処にも無い」



 負け犬の遠吠えに耳を貸す必要は無いと、ゼスターはシンカリアの言った事を一蹴した。


 事実、レスクラとシンカリアはゼスターに触れる事すらできないのだ。そんなヤツらがいくら貶めようと挑発しようと、ゼスターからすればつまらない笑いにしかならない。



 「言っておくが、俺は好きな時に反撃ができるんだぞ? まあ、このままでも別に問題ないがな。せっかくだ。このまま、いつまで続けるか見学するのも一興か」



 その徒労がいつまで続くか見届けてやると、相変わらず不快な笑みでゼスターはシンカリアを見続ける。




 ――――――――――だから気づいてなかった。




 「さて。いつまで続くんだ? もうスタミナなり魔力なり尽かけてきてるんじゃないか? 俺のスキル(チート)のようにお前達は展開し続ける事はできないだろう?」



 シンカリアとレスクラはゼスターを倒そうとしているのではないという事を。


 ダメージを与えようなんて微塵も考えていない事を。


 ただ、注意を二人に向けて欲しかっただけだという事を。



 そのため――――――



 「さ、まだまだお前達は抵抗――――――――――」



 ――――――そこでゼスターの声は聞こえなくなった。


 なぜなら、ゼスターはシンカリアが玉座に展開した世界移動魔法(リリルージヨン)に落ちてしまったからだ。


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