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17話 神様という考え

 「神とは何人も見守り、その平等を徹する者です。特定の誰かを可哀想と思ったり、幸せにしたいと思ったり、不幸になるべきと思ったり……………………ましてやふざけた(チート)をあげたりなんかしてはいけない存在で…………………………そんなヤツは本来神であってはいけないのでしょう。神という存在を剥奪されるべきなのでしょう」



 リィンリンが言うのは本来あるべき神の姿だった。



 神とは誰の幸福も不幸にも、人の全てに何も関与しない。なので、その者の人生にどんな谷があろうと山があろうと力を貸す事も与える事も無い。



 神がしなければならない事とは“義務”だけだ。神が持つ力はその義務のためだけに使う。決して神の力とは個人に肩入れするモノではない。



 「でも………………私は思ってしまったんです………………あまりにツイてない人生を歩んでいる人が死んでしまったなら………………ちょっとくらい来世が幸福になる人生にしてあげてもいいんじゃないかって………………………………ふざけた(チート)を持ってもいいんじゃないかって…………例えそれが個人を優遇するという不平等であるとしても…………」



 だが、リィンリンはそれを否定した。本来の神のあり方を拒否したのだ。個人に対して神の肩入れを良しとし、全ては無理とわかっていても、誰かしらを救う事は問題ないと思ったのだ。



 「………………その考えがエルナブリアを危機に陥れた事はわかっています。このとんでもない事態の引き金を引いてしまった事も自覚しています。でも、すいません…………私は…………」



 リィンリンはシンカリアへ意を決したように言った。



 「悪い事だと思えないんです………………その自分の行動の結果がエルナブリアをあんな風にしてしまったのに………………マサノブさんに手を差し伸べた事がいけないって思えてなくて…………………………神が個人を思う………………それがそんなにいけないのかなって………………」



 己は処刑されるべきと覚悟を決めての発言だろう。


 エルナブリア王国の住民であるシンカリアに殺されてもおかしくない持論をリィンリンは喋っていた。



 「…………私は神失格です。もし、あなたが自由になれたら私を滅して構いません。その理由も名目もあなたにはあります」



 シンカリアはリィンリンの尻拭いをしている張本人だ。リィンリンという神がいる世界の住人でもある。


 リィンリンは、加害者が被害者に「お前が大好きな家族をなんとなく殺したけど別に悪いとか思っていない」と言ったのと同じような事を言っている。絶対に許してはならないし、許せない事をシンカリアに言っている。



 「………………まあ、いいんじゃなの。それで」



 だが、シンカリアはリィンリンを一切責めなかった。



 「私は神が人に対して何も思わない方が嫌だけどね。偏見や失敗があっても、苦労や不幸をどうにかしてあげたいって思う神の方がいいわよ。例え少数だったとしても、同情できる人間がいるなら神ができる事をするべきだわ」



 「え…………でもそれは…………」



 「結果が悪い事になったならどうにかすればいいのよ。一人じゃ対応できない事態なら、恥も外聞も捨てて誰かに頼ればいいのよ。それでも無理ならみんなでどうにかできる案を考えるのよ。そこまでやって無理なら仕方ないわ。諦めましょ」



 「え、ええ? そんなムチャクチャでいいんですか…………?」



 「いいと思うわよ? まあ、少なくとも私は自分の世界に関することは絶対にどうにかしてやるけど。選定零組(ティーレアン)として修学旅行やってるのと同じようにね。ま、自分と関係ない世界だったりならどうでもいいけど。そこまで心は広くないし寛大でも平和主義でもないし、個人にそこまで求める方が酷ってもんだし」



 「………………あなたは私のした事を問題無いと判断するんですか? 大罪を犯してしまうのはオールOKだと?」



 「問題は大ありよ。大ありに決まってる。なんて事してくれたんだって思ってるわ。でも、だからって人に何か思う事をやめてほしくないの。神は人に関わってはいけないって思わないでほしいだけ。人が苦労してるとかツイてないとか不幸だったとか、色々な事に同情できるんでしょ? ならさ――――――」



 元凶のゼスターはリィンリンという神の気まぐれの慈悲でふざけた(チート)を手に入れた。その後、リィンリンから神の力を奪い自分が神となり、エルナブリア王国を転生者の学芸会場にしてしまった。


 コレを見ればリィンリンは断罪されるべき神だと誰もが口を揃えて言うだろう。非難する者はいても称賛する者は何処にもいないに決まっている。


 リィンリンが何も思わず何もしなければこの事態は起きなかった。平等に徹し、慈悲も祝福も与えず、無視を続けていれば何の問題もなかった。


 そう、植物のように何も思わず何もしなければエルナブリア王国に危機は起こらなかったのだ。

 しかし。



 「――――――神としてその気持ちは大事にしておいて」



 だが、しかしだ。


 しかし、だからといって神が人に対して何も思わないのが正解なのだろうか。


 平等を徹し、慈悲も祝福も与えない事が正しい行動なのだろうか。助けが必要な弱者を見つけても、無視して何もしない事が正しい選択なのだろうか。



 例え正しい選択かわからなくとも――――――――――――何もしない選択の方が間違ってはいないだろうか。



 「それで救われる人がいるかもしれないならさ。私はやるべきだと思うから」



 それは嘘偽り無いシンカリアの本心だった。


 神が人に対して何も思わない事が正しいワケがない。慈悲を向ける事が間違っているなどあるワケが無い。


 神でなければできない事を実行した結果、その全てが正しく終わるとは限らないだろう。今のエルナブリアで起こっている出来事のように、世界を狂わせる結果になる事もあるだろう。


 悪い結果と気まぐれの“行動”は繋がっている。だが、その“関係”まで繋がっているワケではないのだ。


 その選択に確かな思いと意思があるのなら、それを非難する事は誰にもできない。



 「でも、当然その行いに対する責任や覚悟を持つのは当たり前よ。軽い考えでひょいひょいやるんじゃ玩具で遊んでるのと変わらないし」



 「…………変な人ですね。元凶である私に対してそんな事を言うなんて」



 「元凶は………………えーと、名前なんてどっちでもいいか。ゼスターよ。アンタじゃないわ。アンタは神として個人を何とかしてあげたいって思っただけ。そこを間違えちゃ困――――――――――」



 「――――――まあ、仕方ありませんよシンカリア。リィンリンが結果をしくじるのは昔からですから」



 そこでシンカリアとリィンリンが知っている声が聞こえた。



 「だどぅぶぉわぁッ!? って、レスクラ!? いつからいたのよ!?」



 いつの間にか二人のそばに現れたレスクラに驚き、シンカリアは壊れた管楽器のような声を上げた。



 「…………まるっきり変わっていますね。ここはいつの間に牢屋になったのですか? 以前は休憩スペースだったはずですが?」



 「あー、やっぱ転送場所が思ったのと違ってたのね…………薄々気づいてはいたけど」



 「千年程度なら変化は無いと思ったのですが、認識が甘かったようです」



 「………………もうちょっと感覚とか感性なんかを人間よりにしてくれると非常に助かるわ」



 「え…………レ、レレレレレレッ!?」



 その時、壊れた自動人形(オートマータ)のようにリィンリンは身体を震わせながらレスクラに指を向けた。



 「レ、レスクラちゃん!? ホントにレスクラちゃんなのッ!? いつ目覚めたのッ!?」



 「お久しぶりですリィンリン。いや、おはようと言うべきでしょうか。千年ぶりの偶然で本日目が覚めた次第です」



 何やら親しげにレスクラとリィンリンは話し始める。どうやら二人は知り合いのようだった。

 「ん? アンタ達知り合いなの?」



 「はい。大昔にあった大戦中に知り合った仲です。リィンリンには私の神滅っぷりによく付き合ってもらっていました。懐かしいですね」



 「私はいつもレスクラちゃんと戦わされて大変だったよ………………ホントに…………」



 「私の性能(スペツク)を知る必要がありましたから仕方ありません。様々な種族と戦闘する事によって得意な相手を見極める必要もありましたし。まあ、あなたとの戦闘というか、神属性に対して一番有利だったのは意外でしたが」



 「神属性特攻と耐性を持ってるなんておかしいよッ! なんで私の属性に有利なのッ!? 私は味方なのにッ! おかしいと思ったんだよッ! レスクラちゃんと戦う時が一番痛かったしッ! 凄く疲れるしッ!」



 「私はあなたと戦う時が一番楽でしたよ。片手を適当に振るだけで勝てましたし。おそらく、雑誌を読みつつ食事をしながらでも勝てたと思います。あと、ソファーに寝ながら料理をしつつ片足でエルディアンヌを持って戦っても」



 「うええーん! レスクラちゃんが私をコケにしてるよー!」



 大粒の涙を流しながらリィンリンはワンワンと泣き続ける。外見はリィンリンが完全に年上に見えるので、年の離れた下級生が上級生を泣かしているようにしか見えない。なかなか情けない図になっている。



 「あ…………いたいのいたいのとんでいけー。いたいのいたいのとんでいけー」



 レスクラは泣かせてしまった事を悪いと思ったのだろう。リィンリンの頭を撫でつつ、言い過ぎたと慰めている(?)が、そのせいでさらにリィンリンの情けなさに磨きをかけている。いや、まあ見方によっては可愛らしい図にも見えるのだが。



 「神属性特攻や耐性の有利不利って、姿勢や状況にまで関係するもんなの? いや、知らんけども…………」



 それはただの恐ろしく開いた実力差じゃないのか? と思っってしまうが、その辺は同じ過去を知る二人にしかわからないのでシンカリアは黙っておく。



 「………………ん? ちょっと待って? 神属性特攻と耐性って事は、私にとっての転生者って事よね?」



 「はい、その通りです。シンカリア程ではありませんが、神属性に対し有利に相対できます」



 「ううう…………だからレスクラちゃんは私とおやつ食べると、私よりも速く多く食べちゃうし、他のお菓子だっていっぱい口の中に確保できるんだね…………」



 「…………それはアンタがノロまなだけなんじゃない?」



 「うええーん! シンカリアさんまで酷いですー!」



 ついシンカリアはツッコミをしてしまうと、再度(何度目だよ)リィンリンは泣き始めてしまった。それを慰めるためレスクラもまたリィンリンの頭を撫でる。



 「そういえばレスクラっていつからここにいたのよ?」



 「シンカリアが「何でアイツには神の力があるの?」と、リィンリンに聞いていた時ぐらいでしょうか。ゼスターという者も話の流れで何者か推測できます」



 「そんな時からいたんかぁ!? よし、それなら話は全部わかってるわね」



 シンカリアは「そん時からいるんならなんか喋っとけや!」というようなツッコミをしたくなるが、話が止まってしまうので喉の奥にしまっておく。



 「ゼスターは神の力を持ってるんだから、神属性特攻持ちのレスクラなら戦える? 私の転生者特攻は無効化されちゃったけど」



 「おそらく無理だと思います。ゼスターは神であり転生者でもある存在です。それに対して私は神属性、シンカリアは転生者属性にそれぞれ特攻と耐性を持っています。それだと、ゼスターが持つ神と転生者の属性がそれぞれ私とシンカリアの特攻と耐性を無意味にしてしまうでしょう」



 そう言うと、レスクラはシンカリアの動きを封じている束縛魔法(グルズム)を素手で切り裂いた。

 「魔法は神属性を持っているようですね。私ならゼスターの魔法に対して有利に対抗できそうです」



 束縛魔法(グルズム)がレスクラのおかげで消え去り、シンカリアは「ありがと」と言ってその場から立ち上がる。



 「私はゼスターの神属性で無理。レスクラは転生者属性で無理か…………」



 シンカリアではゼスターの神属性による攻撃と防御に対抗するのが難しく、レスクラでは転生者属性による攻撃と防御に対抗するのが難しい。そのため、ゼスターはシンカリアとレスクラに対して一方的な展開ができる。ゼスターは最低でもシンカリアの超爆破魔法(ハイ・ブラスト)が全く効かない耐性を持っているのだから。とても戦いと呼べるモノにはならないだろう。



 これでゼスターに挑むのは、クリハラとシンカリアが戦うくらいの無謀さがある。



 「まあ、無理ってわかってて聞くんだけど、ゼスターが持ってる神の力をアンタに戻す事はできないの?」



 「…………予想の通りで申し訳ありませんができません。そうするには、マサノブさんが私に力を戻す意思を見せるとか、マサノブさんの心が折れるくらい叩きのめすといった、『神の力なんていらない』となるくらいの状況や展開が必要です。でなければ、私に神の力は戻ってきません。これはふざけた(チート)も同じです」



 「まあ、そうよねぇ………………」



 マサノブから神の力が無くなればシンカリアで対処できるのだが、思った通りそれは難しい。まあ、それが可能ならとっくに実行しているはずだから予想通りだ。やはり、リィンリンに神の力を戻すにはゼスターを倒す(後悔させる)しかないようだ。

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