2 仲間を呼んだ
ただのおしゃべりです。
「え?二人とも始めたんですか?」
大学の講義室で見つけた財田に声をかけると、きょとんとした。財田はゲーマーだ。茶色のおかっぱ頭に細い眼をしている。細身な身体に丁寧な口調、かなり研究好きな俺達の同級生だ。
「おう、ゲームのことなら財田に聞くのが一番だろ!」
あつしが楽しそうに話しかけるが、財田の表情が少しゆがんだ一瞬を見たので、フォローすることにした。
「いや、財田が物知りで頼りになるからだろ。」
「うん。そうともいう。財田は何でも情報通だもんな。」
あつしが考え無しに言うことは財田もよくわかっていると思うが、言葉が言葉なんだよなぁ。あつしが、うんうんとにこにこ頷く様子を見て、財田も諦めてため息をついた。
「まあ、元木君のことだから何も考えてないんでしょうけど。水守君、保護者なんだからちゃんとしてくださいよ。」
「だから、俺はあつしの保護者じゃねーの。」
「そーだな。あらしは俺の大親友だぜ。」
俺がじと目で、あつしがにっこり笑って見せて、より財田はため息をついた。
「だから、そういうとこだって言ってるんですが、まあいいです。で、何が聞きたいんですか?」
ようやく話が元に戻ったところで、昨日の様子を話してみた。
「・・・うーん、まあ元木君が剣でたたきつぶすのは、本人の勝手だからいいでしょう。しかし、水守君、君は何になるつもりなんだい?」
「え?魔法剣士?」
「普通のRPGは得られる魔法はジョブによって固定化されてますから、使える魔法は限定されますよ。使いたい魔法によってジョブを変えておくべきなんですよ。魔法剣士だとしても、支援系なのか、攻撃系なのか、オールラウンダーになるかによっても変わってきます。ただ、あのRPGは変っていまして、その法則とは違うんですよ。」
「違うのか?」
俺もあつしもきょとんと首をかしげる。普通のRPGもまともにしてないから、なんとも言えないんだが。財田が言うなら違うのだろう。
「一応、ジョブとしての基礎値が決められていますが、強くなろうと思えば、どれだけだって強くなれるみたいです。魔法やスキルの取得制限はありませんが、初期魔法以外はスクロールを買ったり、魔術印を見つけたり、必要なイベントをこなさないと手に入れられないものもあるようです。まあ、のんびりするあなたたちには好きなようにしたらよいと思いますよ。」
「ふーん、じゃあ、別にあらしの筋トレも悪くはないってことだな!」
財田の話を分かったような分かってないような顔をして聞いていたあつしはうんうんと頷いていた。
「まあそうですね。」
「じゃあさ、財田。今日は一緒にゲームしようぜ。」
財田を誘うあつしの笑顔は今日一輝いている。これは絶対財田が断れない奴だ。あつしのごり押しはすごい。たいていのやつはそのまま押される。まあ、あつしの場合、本当にまずいときはわかるらしい。今日の財田はいけそうだっていう感じがあったんだろう。
「・・・どうしてそういう話になるんですか?」
財田がしまった、という表情をしている。財田も気付いたようだ。あつしにターゲットにされてしまったと。これでもう、逃げられないぞ、財田。
「財田はスキルもらえるイベントとか知ってるんだろ?つれてってくれよ。」
あつしの輝くスマイルを受けて、財田が腰を引いている。
「どうしてぼくが。」
「だって、情報通な財田がいれば安心じゃないか!」
あつしがさらに頼りにしているという輝くスマイルを続ける。あの笑顔されると、断りにくいんだよなぁ。あいつ、本気でそう思ってるっていうのが伝わってくるんだよなぁ。財田に後押ししておこう。
「いや、だから・・・」
「財田、安心しろ。旅は道連れって言うだろ。」
「君たちが言う言葉ではないよね。」
俺の言葉に、財田が真顔で言い返す。
「な、頼むっ!!」
「・・・ふうっ。分かりましたよ。その代わり、ぼくが言ったことはちゃんとやってくださいよ。」
とうとう、財田があつしの笑顔に負けた。そうだよな、俺もそうなる。そして、財田が来れば、俺も少し楽が出来る気がする。あつしのフォローの。
「うん、わかった。」
あつしが頷くけど、信用はできない。いや、別にあつしが嫌いな訳でも、遊びたくないわけでもないんだ。ただ・・・あつしは基本的にやらかしちゃうやつだから。本気で。
「で、財田のジョブは何なんだ?」
気を取り直して財田に聞いてみた。
「ぼくは僧侶です。」
「僧侶?回復系か?」
あつしがない知識をしぼって答える。必死そうだ。
「そうですね。戦う僧侶です。」
「かっこいいな、戦う僧侶!怪我しても自分で回復できていいな!」
「元木君、別に戦士でも回復しないわけではありませんよ。スキルをとれば。」
「おれは自分で回復するより、攻撃したい。」
「あー、そうでしたね、君は。」
あいかわらずの脳筋ぶりに、財田は呆れながらも返事をしていた。
「じゃあ、今日はいつからできる?」
あつしの邪気のない笑顔が財田に炸裂する。財田はスケジュールを携帯で確認して淡々と答える。断る、という選択肢はない。
「そうですね。夕方からならよいですよ。」
「じゃあ飯くってからやろうぜ。」
「あ、教授来たな。」
俺が出入り口から入ってくる教授の姿を見て、つぶやくやいなや、授業が始まっていった。
ありがとうございました。