1 とりあえず、やってみた。
久しぶりの投稿です。
ぷっと笑ってくれたらありがたいです。
「あらし!敵出てきた!!」
俺達の目の前には5体のドーベルマンっぽい敵がいた。ゲームの中の画像にしてはやけにリアルな画像だ。敵のハッ、ハッ、という息の音もより克明に聞こえる。初めて見るあつしにとってはきっとびっくりする光景だろう。とはいえ、小学生みたいな反応に、ちょっと笑える。
「あつし、見れば分かる!!」
「いっくぞー!!」
ドーベルマンっぽい敵に剣を思いっきりたたきつけているのは、中古品っぽい武具を身につけた親友のあつしだ。見慣れない金髪になっている時点で、なんちゃってRPG感が半端ない。さらに、5体いる敵もゆっくりとこちらにむかってくるので、あまり危機感がわかない。
「んん?斬れないぞ!!」
あつしの足下で伸びているドーベルマンっぽい敵を見ながら、あつしが首をかしげている。
「馬鹿か?剣の向きがおかしいだろ!斬れる方向考えろよ!!」
「はっ!!」
俺の声に目を見張り、剣へ目を向けるあつし。
「気付くの、おせーよ!」
いつものことながら、あつしのマイペースは放っておいて、おれは片手剣に付いている魔石に手をかざしながら呪文を唱える。ローブの下から腰の片手剣を取り出すのはなんだかかっこいいと思っていたが、以外とローブが邪魔だなぁと思っている。でも、温度調節にちょうど良いので脱ぐわけにもいかず、もやもやしている。
「水槍!」
空中から青い光を出しながら現れる水の槍が4つ現れる。ドーベルマンっぽい敵に向かい、胴体を貫くと敵は全て倒れた。5体のドーベルマンっぽい敵は全て倒れたところで、目の前に画面が現れる。どうやら、さっきの敵はブラックドッグA~Eという名前がついていたらしい。そんなに強くない敵らしく、ちょっとだけ経験値が入ったみたいようだ。
「おー!あらし、すげーな。」
4体を一度に倒した様子を見たからか、あつしが感嘆の声を上げてくれた。それにしたって、あつしの剣の使い方はどうなんだろう。本来なら練兵所でチュートリアルをしているはずだから、あんな斬り方にはならないと思うんだが。
「おまえはどうして剣の使い方の練習を練兵所でしてこなかったんだよ。」
「いやいや、ちゃんとチュートリアルはやったよ。でも、本物の敵を前にするとテンションあがって向き間違えた。まあ、ちゃんと倒せたから結果オーライな!」
にかっと笑うあつしに、毒気を抜かれて、俺はため息をついた。
「まあ、おまえがいいならいいけどさあ。」
「っていうか、お前の水魔法なんなの?お前魔法剣士だよな?剣に炎を纏わせるとかじゃねーの?」
あつしが矢継ぎ早に問いかけてくる。とりあえず、右手で倒れた敵を触ると、ドロップアイテムとしてアイテムに登録された。
「そういうのを選択すればできると思う。」
「それになんで水槍って名前つけたんだ?ウォーターアローとか、せめて音読みして「水槍」とかできただろ?なんで訓読み?完全に植物に水あげてんじゃん。」
その場で立ちっぱなしになることなく、あてもなくまた草原を歩く。
「いやあ、魔法をロードするときに、名称は変えることができるってあったから試しにやってみたんだ。音読みから訓読みに。そしたらうっかりそのまま決まっちゃってさ-。」
「あっ、やっぱり水槍だったのか。ほかの魔法はどうしたんだよ。」
「いや、俺の魔法まだこれだけだぞ。」
てくてくと広い草原を歩いていたが、あつしが眉をひそめて怪訝そうに尋ねてきた。
「え?俺より先にこのダイブシステムゲーム、始めてたよな?」
「そうだよ。お前が本体買わずにソフトだけ買ってたなんてアホをしてたから先にしてた。とりあえず、体術アップさせてたから魔法弱いんだよ。」
「なんで魔法剣士なのに、魔法覚えないんだよ。」
「基礎体力ねーと、剣で戦えないんだよ。」
「え?そんなよわっちいの?」
「魔法使いのスペック、すげー弱かったんだよ。魔法剣士になるにはそれなりに経験値積んでレベルアップしないとできなかったから、とりあえず、近距離攻撃出来るように体術やってたんだ。」
「それ、ゲームの攻略法にあってんのか?」
「いや、知らん。今回財田に聞かずにしてるからな。」
「えー、財田やってねーの?」
「いや、たぶんやってるだろうけど、あいつのアカウントとか知らんから連絡とれねー。」
「じゃあ、明日聞こうぜ。大学で。」
おそまつさまでした。