5.ピラミッドって大きいね
私は走った。走って走って走った。
逃げていた。逃げて逃げて逃げていた。
迫り来る恐怖から。襲い来る脅威から。
そう、鳥人間から逃げていた。
謎の生物、鳥人間もといホルス神もとい燕頭から逃げるため、私は前方に聳えるピラミッドへと走っていた。
それが全ての間違いだった。
近くに見えたはずのピラミッド。なのに走れども走れどもピラミッドに辿り着かない。
遠近法がおかしくなったのかと思うほど、ピラミッドは近く見えるのに遠くにある。
毎日会社と家との往復しかしていない鈍りに鈍った脚とアラサーの体力に、砂漠はキツかった。
靴の中に砂が入って気持ち悪いわ、安定しない足場に足をすくわれるわ、もう散々。
おまけに燦々(さんさん)と降り注ぐ陽の光の熱いこと暑いこと。
捕まえられたほうがマシだったのではないかと一瞬考えてしまうほどの辛さだった。
けれど立ち止まってはいけない。なぜなら鳥人間が追いかけて来ているから。
振り返ってもいけない。なぜなら鳥人間が追いかけて来ているから、そんな現実見たくない!
やっとの思いでピラミッドの麓まで辿り着き、肩で息をしながらチラッと背後を見た。見たくない見たくないと思っているものほど、怖いもの見たさで見たくなるものなのです。
チラ見したその先に鳥人間は……いませんでした。
よかった、鳥の餌にならずに済んだ。じゃなくて、罪人にならずに済んだ。済んだ……のよね?
無知とは罪、って昔の人も言ってた気がするから、知らぬとは言え居ちゃいけない場所に勝手に居たら罪は罪になるのだろう。
けど、居たくて居たわけじゃなくて気が付いたらそこに居たんですー!
と声を大にして弁明したいけれど、果たしてどこまで話を聞いて貰えるのだろう。弁解の余地なしでいきなり牢獄行きになったら……。
憶測で考えるのは止そう、泣きたくなる。
私があれこれと最悪なケースを想定している間にも、日は燦々(さんさん)と私を照らし続け、汗だくの汗まみれになっていた。
とりあえず、どこでも良いから日陰に行きたーい!
と私が思った瞬間、突如目の前にあったピラミッドの石崖に穴が開いた。音もなく、突然に。
「えっ……」
人間驚くと声を出せないと聞くが、私の口からは一音出たので、厳密には『人は驚くと一音しか出せなくなる』が正解かもしれない。
などと思考に逃げていると、穴の奥、ピラミッドの奥から涼しい風が吹いてきた。
肌を撫でるひんやりとした空気。懐かしの冷風。我が友。
私はその風に誘われてピラミッドの中へと入っていった。
知らない場所に勝手に入ることが不法侵入だと知っていたはずなのに……。