4.エジプトにトリップ!?
みなさんは、エジプトに行ったことはありますか?
私はない。でも知ってはいる、エジプトがどんなところなのか。
一面の砂漠。
どこまでも広がる空。
果てしなく続く砂漠。
地平線の彼方まで砂漠。
砂漠、砂漠、砂漠。
そして、砂漠。
エジプトのイメージと言えば、砂漠でしょう。
それから勿論、砂漠の上に聳え立つ巨大建造物。あれがあったら間違いなくエジプトだと思う代物。
エジプトのイメージシンボル。
三角形が組み合わさった謎の建物。
王家の墓?
そう、ピラミッド!
砂漠とピラミッドが揃えば、そこはもうエジプトだと思うでしょう?
ところがどっこい、そこはエジプトではなかったのであります。
「──……み……きみ……」
薄ぼんやりとした世界の彼方から声がする。
「──…きみ……ねぇ、君ってば……」
耳馴染みのない声が、誰かを呼んでいる。
「──…ねぇ、君。起きてってば、ねぇ……」
誰を呼んでいるの?
私はまだ眠っていたいの。
寝不足なのよ、昨日も持ち帰った書類を夜遅くまでパソコンでまとめていたから寝てないの。
寝かせて、あと5分でいいから寝かせて……。
「起きろってば! 邪魔なんだって言ってんじゃん!」
ゲシッとお尻を蹴られた。痛い。
うっかり脊髄損傷したらどうしてくれるんだ。
お尻の痛みと降り注ぐ罵声に驚いて目を見開くと、私の目に異様なものが飛び込んできた。
目の前には、異様な姿をしたものがいた。
異様、つまり異形。
目の前に、私の顔と同じ大きさの巨大な鳥がいたのだ。
ギョロッとした大きな両目。
それよりも大きな嘴。
それらが目の前で動いている。
巨大な鳥が私を見下ろしている。
ああ、まだこれは夢なんですね。早く覚めないかな。
「まったく、どこの管轄のヤツなのさ? 神殿で居眠りなんて信じられない」
巨大な鳥が何やら喋っている。
え? 鳥って話せたっけ?
声帯器官どうなってるの?
両目を擦ってもう一度目の前の鳥を見て、私は唖然とした。
鳥に、体があったのだ。
……何を言っているのか分からないって?
ちょっと待ってください、私も動揺して上手く説明ができないのです。
鳥に、体があるのです。
何度も言うなって? だって、そうとしか言えない。それ以上何と言えばいいのやら。
鳥の頭の下に、人間の体がついているのです。
「ちょっと聞いてんの? おたく、どこの部署? まさか不法侵入?」
それはまるで鳥人間。
両手も人間、胴体も人間、両足も人間、頭は鳥。
人間の体に鳥の頭。
異様で、異形で、異常。
私の手は未知との遭遇に、驚きと恐怖とで小刻みに震え上がった。
「なんで喋んないわけ? 黙秘? いま警備隊を呼ぶから、絶対にそこから動くなよ!」
乱暴に言い捨てて、鳥人間が二足歩行で走り去って行く。
異様な生き物が軽快な足取りで駆けていくのを、私は呆然と見送った。
「な……何だったの、今の……」
この世に鳥人間なんて存在したんだ。
それともこれはまだ、私の夢の中?
試しに頬を抓ってみる……痛い。
手の甲を抓ってみる……やっぱり痛い。
痛いということは、さっきのは夢じゃなかったっていうの?
夢じゃないということは、鳥人間はいたんだ、現実に。
今思えばあの鳥人間の姿は、まるで古代エジプトの神である『ホルス神』みたいだった。
『ホルス神』とは、鷹を神格化した神であり、王の象徴とされていて、頭部が鷹の男性で描かれることが多い神様。
頭部が鷹……さっきの鳥人間、鷹だったかな? どっちかと言えばツバメみたいな顔だったような……。
私は先程見たビックリ人間を頭の中に思い浮かべようとしたけれど、衝撃のほうが強くて上手く思い出せない。
そういえば、鳥人間が去り際に何やら言っていたなぁ。
『不法侵入』がどうとか。『警備隊』がどうとか。
…………もしかしなくても私、捕まえられちゃう!?
ぎゃー! どうしよう!? 悪気は無かったんです。悪意も無かったんです。そんなつもりは無かったんです〜。
……なんて心の中で叫んだところでどうしようもない。
私はとりあえず横たえていた体を起こし、服に付いた砂埃を手で払った。
「ていうか、ここ……どこ……?」
視界いっぱいに広がる砂の海。
燦々(さんさん)と降り注ぐ眩いばかりの太陽の光。
明らかに、私が住んでいた街ではない。
こんな砂がいっぱいある場所って……もしや鳥取砂丘!? ……なわけないか。地平線の向こう側まで砂漠じゃないだろうし……。
じゃあ、ここはどこ?
そもそも私、古本屋さんにいなかったっけ?
辺りを見回と、早速見慣れないものが視界に捉えた。
巨大な石の像。
いつかの昔にエジプトを旅する番組内で映ったスフィンクス像にとても似ている。けれど細部が違う。私が見たことあるスフィンクス像は、“ここまで細かい彫刻が掘られていない”。
正確に言えば、年月と共に風化して、本来の姿を留めていないはずだった。それがエジプトのスフィンクス像。
もう一度石像を仰ぎ見る。記憶の中のスフィンクスと異なるそれは、見事な飾り模様を身に宿して堂々と寝そべっている。
もしかして……ここは過去のエジプト?
私……古代エジプトにタイムスリップしたの!?
夢のようなバカげた考えが頭の中に過ぎる。
まさか、でも、いやそうかも、やっぱり違う?
いろいろ考えてみるけれど、答えなど出るはずなく。
悶々と悩んでいる内に時は過ぎ去り。気づかない間に結構な時間が経っていた。
「──あそこ! あそこです!」
遠くから声が聞こえる。あの声は、さっきの鳥人間!
ヤバい! 捕まる! 不法侵入ってエジプトだと懲役何年!?
私は慌てて立ち上がり、声とは逆の方へと体を反転させた。そしてまたもや唖然とした。
振り返ったそこには、巨大な建造物。
石で造られた巨大モニュメント。
聳え立つ巨大四角錐。
そう、ピラミッドが私の背後に佇んでいたのです。