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9.祭りの夜に

連載再開します。




 土の建物から出ると、辺りは夕暮れに染まっていた。建物たちが真っ赤に染まり、鮮やかな景色に見惚れそうな、それでいて危険な香りがするような奇妙な気分になった。


 見渡すと、ここはどうやら街の真ん中だったみたいで、人がわらわらと道に溢れていた。人混みの中をぶつからないように避けながら走った。

 道行く人が、みんな私を見ているような気がして、走って走って走った。ヘトヘトで足に力なんか入らなかったけど、とにかく逃げなきゃって思って。


 八方から降り注ぐ視線を避けるように脇道に入ろうかと思った矢先、前方から「わあ!」っと歓声が沸き起こった。

 人混みの向こう側から大きな船のようなものと、その上に様々な色とりどりの動物を象ったオブジェのようなもの、が見えた。

 犬や猫や鳥やペンギンやパンダらしきものもいる。

 まるで、お祭りの山車のように賑やかで、


「きれい……」


 私の足は逃げるのも忘れて、動物たちのオブジェを見入っていた。



「──あれ? あのこ、もしかして流れ者(マジュラ)?」


 遠くから、そんな声が聞こえたような気がして、ハッと我に返った私は、慌ててその場を後にした。

 本当はもっとあの山車を見ていたかったけれど、今は捕まるわけにはいかない。


 人が多い大通りから脇道に入り、籠らしき物が多く積まれた道の隅に体を滑り込ませ、身を隠した。

 遠くに人々の歓声が聞こえる。あの動物たちの山車を人々が喜んでるのだろう。私だって一緒に声をあげたくなるほど、見事なオブジェだった。まるで動き出しそうな勢いのある躍動感のある細工に、一瞬ビクッとしちゃいそうなほどだった。


「ちゃんと見たかったなぁ……」


 なんてボヤいてみるも、身の危険には代えられず暗い道の隅っこで膝を抱えて蹲った。


「……私……本当に帰れないのかなぁ……」


 鳥人間改めスヌヌとやらが言うには、異世界であるこの世界から、元の世界へは帰れないらしい。

 そんなの、そんなのってないでしょう!?

 私が何をしましたか……何か悪いことでもしましたか?

 会社の帰りに古本屋に寄っただけで、こんな仕打ちに合わなきゃいけないような悪いことでもしましたか!?

 ねえ! 誰か! 誰でもいいから助けてよ!

 ねえ! お願いだから、家に帰して……お願いだから……。


 そんなことを何度も何度も心の中で願ったけれど状況は一向に変わらぬまま、辺りは日が沈んで薄暗くなっていった。



 しばらくして、遠くの方でまだ歓声が聞こえていたけれど、ずっとこんな道の片隅にも居られないから鉄の塊みたいに重い腰を上げた。年寄りみたいに、どっこいしょ、と言いたくなるほど重い腰だった。ああ、こんな時はあったかいお風呂に入って体を休めたいよー。


 鉛のような足を引きずりながら薄暗がりの中をトボトボと歩いた。建物の軒先に飾られた松明の明かりを避けるように、影の中を進んだ。


 気づくと、街の外に出ていたようで、見覚えのある場所に来ていた。

 そう、この世界に来て初めて目を覚ました場所。スフィンクス像の足下に辿り着いていた。



「──そこにいるのは誰だ?」






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