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(4)

 その日の夕時になって、さっそく彼からラインメールが来た。

「ラーメンの麺を作ったので、試食してくれませんか?」

そう言って、たぶん彼が作ったと思われるラーメンの画像も添付さ

れていた。私は、

「君が作ったの?美味しそうだね」

等閑(なおざり)に返すと、彼は、

「もし、今日会えませんか?」

私は、別に予定があるわけではなかったが、そんな気にはならなか

った。

「え、今夜?」

「ええ!」

「何処で?」

「ぼくの家に来てくれませんか?」

彼は、就農の際に役所が手配した空き家に暮らしていた。

「ちょっと考える」

ほとんど断りのつもりで送った言葉を、彼は本当に考えてると誤解

した。その後、おざなりにスル―していると何度も、

「もう考えました?」

と催促のメールが届いた。私は仕方なく、

「分った、仕事が終わったらまた連絡する」

と、彼の執拗な誘いに根負けしてしまった。

 すでに人工物に上に積もった雪は融けて、運よく木々や枯野の上

に堕ちたものたちだけが夕暮れにひときわ鮮やかな白を映していた

。車を走らせながら、「そうか、彼はラーメン屋に居たんだ」と思

いながら、教えられた道を飛ばした。

 彼の家は、まあここら辺りでは何処にでもある農家の一軒家で、

ただ独りで暮らすにはあまりにも広すぎた。私が家の前に着くと、

わざわざ通りにまで出て迎えてくれた。彼は私の逡巡などまったく

気に掛けずに、私を家の中へ誘った。ただ家の中は広すぎて寒かっ

た。そして、しばらく空き家だった民家は、もちろんそれが彼の趣

味だとは思えないが、台所の茶箪笥の硝子戸の中には全国各地の民

芸品が並べられ、知る術のないかつての住人の在りし日の息を感じ

た。私はその前を通って板張りの食堂のテーブルに案内された。既

にコンロには青い火が鍋の底を温め、立ち上がる蒸気が黴臭い部屋

をいっそう息苦しくしていた。住み慣れた彼は、私の戸惑いを気に

も掛けずに、

「ほら、あの時、ピーナッツ祭りで色んなアイデア料理があったで

しょ」

「ああ」

「あの後、ちょっと閃いたんですよ、ピーナッツをラーメンの麺に

練り込んだら、面白いんじゃないかって」

そう言いながら、その麺を私に見せてから、鍋の中へピーナッツを

練り込んだ麺を投げ入れた。

「これは、あくまでも試作なので、市販の中華スープを使いますが

、できたら麺だけの感想を訊かせて下さい」

そして器に中華スープの素と塩を入れて熱湯を注いでかき混ぜた。

間もなくして麺が揚ると、彼は慣れた手つきで平ザルで掬って湯切

りをして器にしずかに泳がせた。

「スープは無視してくださいね、麺だけですよ、麺だけ」

「ああ、分った」

その麺は、本来の中華麺よりも茶色掛っていて如何にもピーナッツ

が練り込まれているのが窺えた。私は、その麺を箸で二三本持ち上

げて啜った。するとピーナッツの香りと濃厚な麺の食感に、これま

での所謂「麺」との違いに多少の違いを感じたが、

「うん、もうこれはラーメンとは言えないけど、でも美味しい」

そう言いながら、空腹だった私は、カーター・ピーナッツ・ラーメ

ンをすぐに完食した。

「どうです?売れませんか?」

「売れるかどうかは分らないが、新しい味なので食べてみたくなる

ことは間違いない。で、これをどうするつもり?」

「できたら、秋のピーナッツ祭りに出したいと思っているんですが

「ああ、それは面白いね」

「まだ試作段階なんで、ピーナッツペーストの割合だとか水加減だ

とか、いろいろ究めなければならないことがいっぱいあるんですけ

ど」

彼が言うには、練り込んだピーナッツは湯煎すると油が流れ出てし

まって思い通りの麺にならないらしい。その割合を決めるために何

度も試行錯誤を繰り返して、やっとここまでたどり着いた。そして

、どうしても製麺所に頼んで量産したいんだけど。私は、彼の言葉

を遮って、

「つまり、出資して欲しいんだろ?」

「お願いできませんか?」

「いったいどのくらい要るんだ?」

私は、彼の申し出を快く引き受けた。そして、彼が作ったカーター

・ピーナッツ・ラーメンの商品化に協力することになった。

「まずはピーナッツ祭りに出せるように仕上げないとな」


                       (つづく)

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