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婚約破棄の理由【食べ物】

好物というのは止められない。


それがどんなものであっても。


「もう我慢できん!貴様とは婚約を破棄させてもらう!」


「バルドロメ様、お食事中はお静かにですわ」


「俺はバレンティナとの婚約を破棄すると毎日毎日言っているんだ!」


「えぇえぇ、毎食毎食飽きもせずに言ってますわね」


バルドロメが婚約を破棄すると言っても叶わないのは単純にバレンティナの方が爵位が上で金銭的援助の代わりにバルドロメが婿入りするという形だ。


バルドロメは男爵家ではあるが最近までは商人だった。


野心家のバルドロメの父が全財産を使って男爵位を買った。


そこまでは良かったが貴族が商会を運営することは出来ず手放すことになった。


そうなると領地経営などの知識もないからすぐに困窮した。


そこに手を差し伸べたのがバレンティナの父だ。


隣の領地ということと侯爵家でありながら重度のお人好しでもあった。


「わたくしとの婚約が無くなれば明日から無一文になりますわよ」


「それくらい分かっている。分かっているが、その人の食い物じゃないものだけは耐えられないんだ!」


「と言いますけど、わたくしは毎食食べていますわよ。それに美容と健康にも良くて、お通じの改善にも効果的で」


「俺はそんな臭いのものを食べるくらいなら便秘になってもいい」


バルドロメの父は神がかり的に領地経営の才能がなかった。


本人は真面目に取り組んではいるが成果が得られず借金だけが増えていく。


「匂いも慣れれば、どうってこと無いですわよ。一度くらい食べてみれば宜しいのに」


「そんなねばねばした白い糸を纏った豆を食べるくらいなら餓死することを選ぶ」


「強情ですわね」


お人好しを父に持つバレンティナもまた筋金入りのお人好しだった。


毎回、婚約破棄の宣告を受けながら笑顔で諭していた。


バルドロメも実家の状況は分かっている。


「わたくしも鬼ではありませんわ。新しい婚約者候補を探してはいるのですよ」


「すまない」


「いえいえ、これも婚約者の務めですわ。それで、リントン伯爵家はどうかと思いますの」


「リントン伯爵家の名物は豆腐を腐らせたものだろう。あれは人の食い物じゃない」


成金の男爵家ではあるがバルドロメは頭が良く、侯爵家の当主も立派に務まるくらいに優秀だった。


侯爵家の推薦があれば次の婿入り先には困らなかった。


「そうですわね。では、デネット子爵家はいかが?」


「あそこは魚の干物をわざわざ腐らせたものが名物だ」


「よくご存じですわね」


「侯爵家の当主になるなら各地の名物くらい覚えておくものだと言われたのだ」


バレンティナと婚約が決まるとバルドロメは侯爵家に泊まり込みで朝から晩まで当主教育をされた。


「クリップス子爵家ではどうでしょう?」


「そこも魚を腐らせたものが名物だ。しかも米まで腐らせるところだぞ」


「そこもいや、あそこもいや、選択肢が無くなりますわよ」


「バレンティナが腐った食べ物が無いところを紹介してくれたら良いんだ」


「とは言いましても、どの領地にも腐った食べ物を名物にしているわけではありませんし、どれも発酵食品ですわ」


発酵した食べ物の匂いがダメでバルドロメは苦労していた。


バレンティナもできるだけ匂いが少ないものを選んで食べていたが嫌いな人には敏感に感じ取られてしまって成果はなかった。


「発酵とは言い様だな。腐ってるのと何が違うんだ?」


「それはですわね」


「いや、いい」


「そうですか」


いつものやり取りで違いを聞いたことはない。


バレンティナは語るつもりで準備しているが、役立ったことはない。


「ですが、婚約破棄をするには、ギリギリですわね。これ以上は、わたくしもバルドロメ様も行き遅れになりますわ」


「名物に腐った食べ物が無いところに心当たりがある」


「へぇ、どこですの?」


「クリーバリー伯爵家が治めている港町だ。新鮮な魚介が名産だ」


「本当によろしいですわね?」


「あぁ、今までありがとう。感謝してもしきれないな」


「では、わたくしから推薦状を送っておきますわ」


「ありがとう」


バルドロメの優秀さは貴族の中でも有名であるから成金であるということは問題視されていない。


見目も良いから血筋が問題なら親戚から養子を取ればいいという考え方だった。



****************



後日談


「バルドロメ様を我が家にお迎え出来て光栄ですわ」


「いえ、高貴な血を持たぬしがない平民上がりですよ」


「侯爵家のお墨付きである貴方が平民上がりなどと卑下するものではありませんよ」


バルドロメ自身を気に入っており、子どもが出来るのも時間の問題とされていた。


「あとで我が領の名産品の試作品をご覧になってくださいませ。魚の缶詰めですの」


「新鮮な魚を保存するためですね」


「えぇ、でも開けるのにコツがいるようになってしまって」


「コツ?」


「缶の蓋が膨らんでいるので開けると中の調味液が吹き出しますの」


簡単に言われたが、バルドロメには嫌な心当たりがあった。


前にバレンティナが腐った豆を瓶に入れたところ破裂した。


「そうそう、この間、懇意にしている商人に見せたら、この国一番の発酵食品だと言われましたのよ」


その言葉だけは聞きたくなかった。


バルドロメは器用に気を失った。


発酵食品から逃れたつもりが自分から飛び込んでいたことを今になって気づいた。


バレンティナはだから確認したのだろう。


救いはバレンティナの父が婚約が無くなっても援助を続けてくれていることかもしれない。

発酵と腐敗の違いは、人が食べてお腹を壊さないかどうかで決まる


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