婚約破棄の理由【身長】
ある侯爵家の庭で少年一人と少女二人が追いかけっこしながら遊んでいた。
それを微笑ましく見守る二組の夫婦と使用人たち。
「あまり急ぐと転びますよ」
「子どもはあれくらい元気な方がいい」
「まぁ!」
貴族教育というものが始まり出した時期で子どもらしさが残った最後の時期でもあった。
少年はこの庭の持ち主の侯爵家の嫡男であり、少女二人は年齢の近さから婚約者候補でもあった。
だが有力なのは長女の方で、そのことを三人とも感じ取っていた。
「話がある」
「どうしましたの?ノビオ様」
「父上も母上もギジェルミーナ、君が婚約者だと思っている」
「そうですわね。わたしが十歳で、ノビオ様が九歳ですからちょうどいいですわね。妹のマドラインが七歳ですものね」
「だが、俺はギジェルミーナを婚約者にはしない」
「あら、どうしてですの?」
「どうしてってそんなことも分からないのか!お前が、お前が、俺を見下ろすからだろうが!」
少年には重要なことなのだろう。
自分の婚約者となる少女が自分よりも身長があるということは由々しき事態なのだろう。
ほのぼのと見ていた夫妻たちは驚いて何も言えなかった。
「では、婚約はどうしますの?」
「マドラインを婚約者とする。同じ家なのだから妹を婚約者としても問題ないだろう」
「本当によろしいのですね?」
「あぁ本当に腹立たしいな。俺を見下ろすな!」
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後日談
「・・・だから申しましたのに」
「何をだ!」
「本当によろしいのですね?と」
「それで分かるわけないだろうが!」
成長期を向かえたノビオは好青年になった。
同時にギジェルミーナの妹のマドラインも成長期を向かえた。
「わたくしはお母さまによく似ておりましたけど、マドラインはお父さまによくよく似ていますのよ」
「だからなんだ」
「マドラインはノビオ様の二歳下ですのよ。身長が低いのは当たり前ではありませんか」
ノビオとそう変わらない身長を持つマドラインは幼い頃からのノビオのコンプレックスを常時刺激していた。
ギジェルミーナは成長期を向かえても背が伸びるよりも女性らしい体型になった。
「ギジェルミーナ」
「お断りしますわ。同じ家だから姉が婚約者になっても良いだろうという言い訳は聞きませんわよ」
「お姉さま、ノビオ様、何のお話をしていましたの?」
「ノビオ様がマドラインと婚約をして正解だったという話ですよ」
「まぁ!ノビオ様!あちらに美しいバラ園がありますのよ。一緒に行っていただけます?」
「あぁもちろんだよ、美しいマドライン」