婚約破棄の理由【派閥】
世の中には絶対に譲れない趣味趣向というものが星の数ほど存在する。
そして、それは度々、論争に発展することもある。
「あぁタマ、お前は何て可愛いの」
「あぁポチ、お前は何て賢いんだ」
タマ、白い毛色に茶色とオレンジの斑模様を持つ耳が立ち長い細い尻尾を持ち爪で毛糸玉を転がす生き物。
つまりは、ネコ。ネコ科ネコ属に与するイエネコ。
ポチ、茶色の毛に立った耳と尻尾を持ち、飼い主が笑うと同じように真似する生き物。
つまりは、イヌ。イヌ科イヌ属に与するイエイヌ。
これは人類が永遠に解決できない永遠のテーマ。
犬派か、猫派か。
猫派か、犬派か。
そして、それは結婚するうえで大いに重大な極めてすこぶる考えさせられることである。
「ほら、ポチ。いくぞ」
「あぁタマ、お前は本当に丸いものが好きね」
ポチの飼い主が投げたボールがタマに取られて心なしか寂しそうにするポチとじゃれるタマを見て目尻を下げるタマの飼い主。
「おい、アイリシア」
「なんです?今、とてもいいところですのよ。邪魔しないでください。ジャンドゥーヤ」
お互いが幼いときから一緒にいて、爵位も同じであるから上下関係がない気さくな婚約者だ。
だが、お互いのペットのことに関しては盲目的ではあるが。
「他人の物を盗らないようにとしつけもできないのか?」
「まぁネコをしつけるだなんて、自由なのがいいのではありませんか」
「何を言う。飼い主の言うことに忠実で、今もおとなしく伏せをしているポチを見習え」
「はぁ、まぁこのボールがポチのものなのは間違いないですわね。タマ、放しなさい」
爵位が上の者は下の者に何をしてもいい。
だが、爵位が同じ場合は、歴史が長い方が上という暗黙のルールはあるが、公式のものではない。
本当は早々に婚約破棄をしてしまいたいが、爵位が同じであるから、一方的な宣言ができない。
これが爵位が同じであることの弊害で、なぜかきちんと手続きをしないといけなかった。
「はぁどうして婚約者がネコ好きなんだ」
「それはわたくしも同じですわ。イヌ好きだなんて」
何度も自分たちの親に婚約解消を願い出ているが、それくらい我慢しろと言われてしまい叶っていない。
今から探すというのは確かに大変だ。
親の言うことも分かる。
それでも譲れないものはある。
「ねぇタマ?お前はネコなのだから、わたくしの良縁を招き寄せてちょうだいな」
「おいポチ?お前はイヌなんだから、俺の良縁をここほれワンワンと掘り当てろ」
無茶ぶりをするところは似た者飼い主だった。
諦めるしかないと、思い始めたころだった。
アイリシアがある雑誌のページを広げたまま恒例のお茶会に走ってきた。
「ジャンドゥーヤ!これを見て」
「うん?ドッグ好きご令嬢婚約破棄?・・・・・・婚約破棄!」
「この方ならジャンドゥーヤと趣味が合います。だから今すぐ、この方に婚約を申し込んでください。しかも相手は、公爵家ですよ。うまく婚約にこぎつけられれば、お父上もきっと認めてくださいます」
ジャンドゥーヤは同じ結婚生活を送るためなら趣味が合う人がいいと、早速、手紙を送った。
普通は公爵家に中継ぎもなく手紙を送るのは失礼だが、婚約破棄されたために婚約者を探しているときには少しだけ無礼が許される。
だが、公爵家なら宣言できるのは王族くらいなのに婚約破棄されたというところに少しだけ疑問があった。
「良かったですわね。無事に婚約が結べて」
「あぁアイリシアのお蔭だ。それで俺のツテでアイリシアと同じキャット好きの人を探した」
「まぁ!」
「相手は侯爵家だ。きっと君のお父上も納得してくださると思う」
上の者から申し出があったことで二人の婚約はあっけなく解消された。
円満解消であるから幼馴染としての付き合いはあるし、双方の婚約者の家も不倫しなければ構わないという返事を貰っている。
今更、会話をしないというのも変な感じがする。
格上の家と結婚できたことで玉の輿と世間では騒がれた。
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後日談~ジャンドゥーヤ編
「まぁまぁジャンドゥーヤ様!こちらの子を見てくださいまし。とても可愛いでしょう?」
「あぁ」
「この子の可愛さを分かってくださる方と結婚できて幸せですわ」
「そうか」
「えぇ、このプレーリードッグの可愛さが分からないということで、前の婚約者とは破棄となってしまいましたし」
プレーリードッグ。リス科プレーリードッグ属。
けして、イヌではない。
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後日談~アイリシア編
「どうだ?可愛いだろう」
「えぇ」
「そうかそうか。君にはこの子たちの可愛さが分かるか。ミーアキャットの可愛さが」
ミーアキャット。マングース科スリカータ属。
けして、ネコではない。
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これなら婚約破棄をせずに、結婚してればよかったと思う二人は、伴侶に自分の趣味を隠したまま子どもと孫に看取られた。
日向千夏さま
犬派と猫派のネタを使わせていただきました。
ありがとうございました。




