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異世界からのギフト  作者: かゆて
1/1

再会

振動。


「そ……う」


頭の中で響く聞き覚えのある声。

そして同時に感じる一定のリズムの振動。


「そう……奏……!」


頭に響く声をよそに振動は強くなる。


「奏!」


叫ばれた自分の名前によって青年は目を覚ます。


「またか……。」


気だるそうにベッドから起き上がった青年はまだ眠そうに目をこすった。

枕の横で振動している携帯の目覚ましを止め、まだ少し幼さの残る顔をした青年は寝癖で跳ね上がった髪を抑えながらため息をついた。


(最近よく見るな、おかげで寝た気がしない)


それほど広くない部屋はすでに朝日の光で満ちていた。ふと壁にかかっているカレンダーを見つめると青年は深いため息をつきながらベッドに勢いよく寝転んだ。


(そっか、ちょうど5年か。)





鳥の鳴き声。流れるニュース。登校中小学生の声。

そんな音が混ざる綺麗なリビングでは1人の母親が朝食を作っていた。


「おはよ。」


まだ寝起きで目が開ききっていない青年はテーブルに着いた。


「あら、おはよ。今日はまたすごいね。」


ツンツンに跳ねた髪を見ながら女性は笑い返した。


「最近暑くなってきたから髪切ったけど、短いとやっぱり跳ねちゃうね。」


「やっぱり髪短いと謙に似てるねー。」


そう言うとまた料理に戻った。


「実はさ、その兄さんの夢見てさ。今日でちょうど5年目だったんだね。」


振り返ることなく母親は言葉を返した。


「そっかー、早いもんだねー。」


普段と変わらない会話。

彼らにとって普通の日常であった。


ある"一点"を除いて。


数年前から日本で相次いだ失踪事件。彼ら篠田家もその被害者であった。

5年前に長男の篠田謙が失踪してから5年が経過していた。

5年経とうとも進行はなく、失踪事件も5年前を最後に起きなくなった。

やがて人々は忘れ、被害者の一族も前に向かって進もうとしていた。

兄が失踪し、幼い頃に離婚した母親と2人で暮らしていた篠田奏も同じである。

彼は1人で2人の息子を育てた母親が、兄が失踪してから少し精神を病んでしまったことを気にかけていた。

5年という月日が流れ、大学2年生になった彼は少しでも母親に負担をさせまいと勉学に励んでいた。



「じゃ、いってくるね。」


そう告げると、奏はいつも通り大学へ向かった。


いつもと変わらない通学。


いつもと変わらない授業。


いつもと変わらないバイト。


日常と言える平和な1日を過ごした彼は帰路で少し頭に違和感を感じた。


(なんか頭重いな……よく寝れなかったからかな。)


授業で少し寝ればよかったと思いながら、玄関の扉を開けた。


「おかえりー、ご飯できてるからね。」


「わかったー。」


そう言いつつも、奏は自分の部屋に行った。


「なんでこんな疲れてんだろ……。」


あまりにも唐突な睡魔により今にも倒れそうなくらい重く感じる体をベッドに放り出し、眠りについた。


「―――――奏。」


「うるさいな、今日だけで何回呼ぶんだよ……。」


「悪かったよ、でもこうしてやっと会えた……ッ」


夢とは思えない感情的な声に意識がはっきりとする。


「……謙?」


夢ではない。本能がそう告げる。


目に見えているわけではない、しかしそこに兄がいるのをしっかりと感じた。


「いろいろと言いたいことはあるけど、時間がないんだ。お前に頼みがある。」


記憶より少し低く聴こえる兄の声は、少しうわずっているように感じた。


「目が覚めたらまずギフト()()()を身につけろ。」


「なにこれ……今どこにいんの……?」


「もうひとつの"世界"にいる。 とにかくギフトを手放す―――」


突然意識を呼び戻されるような感覚。

気がつくとベッドの上で寝ていた。久々に聞いた兄の声に思わず涙が溢れていた。


(くそ、変な夢だった……)


ゴシゴシと濡れた頬をぬぐいながら、起き上がった。

ふと首と胸に違和感を感じ、胸に手を当てる。


(なんだこれ?)


身に覚えのないネックレスを首から外す。

それはネックレスというにはあまりにも綺麗で軽かった。

飾りとして胸に垂れていた部分は見たこともない紫色の宝石で、電気もついていない部屋で輝きを放っていた。


不意に腹が鳴り、空腹を感じネックレスをベッドに置いて部屋を出る。



―――異世界から送られた水と炎を操る魔法のネックレスは、持ち主が部屋に戻るまで爛々と輝き続けた。


まるで早く自分を使えと言わんばかりに。


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