襲撃
電話を切った後、不意にドアが開く。そこにいたのはフィリスさんだった。
「どうしましたか?」と俺は内心焦りながら聞いた。
「あの・・少しお話があったんですけど、誰かと話していたんですか?」
「いや、特に」
「そうですか・・・おかしいな・・」
誤魔化しきれてないが、このまま押し通そう
「それで、話ってなに?」
「えっはい、さっきまでのことについてなんですが」
「うん」
「その、よそよそしい態度をとってしまって」
「いや、気にすることないよ。種族違うし、戦争中だし」
「でも、」
「いいのいいの、その代わりこれからいろいろ教えてくれると嬉しいな」
「そうですか、わかりました」
そう彼女は笑顔で返してくれた。
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数日間彼女に食材の取り方や井戸の場所などを教えてもらいながら、この村の住人と仲良くなっていった。フィリスは最初こそ、びくついていたが次第に普通に話すようになってきた。それは、村の住人も同じであった。
俺が最初にあったギルさんはこの村のエルフの中でも、人の内面を見抜く力があるらしい。そんな彼が認めた人間であるからこの村の人間と親しくなることができたのだ。
次に、エルフの国について、エルフの国は昔多くのエルフが集まっていたそうだが、戦争で人間を攻めたのに対し領土を盗られてしまったことが原因で、今は部族ごとに村を作り分散してしまったようである。中には、人間と有効な関係を結んでいる(表では、隠している)村もあるらしい。この村が人間にあまり排他的でなかったのもそういうことらしい。しかし、エルフの王には一様どこの村も従うようだ。
そんな話をしている時、ギルさんは
「ものを売りにほかの国に行ったことがあるが、どの国でも魔王を倒して元の平和な国々に戻りたいと考えている人が多いよ。もちろん、人間も」
そう悲しそうに言っていた。
やはり今、この状況をよく思っている人はいないらしい。というのも、魔族が使う巨大生命体がこのエルフの国を含め多くの国に甚大な損害を出しているのだ。特に、商人の流通を邪魔する巨大生命体のせいで、どこの国も食料などの蓄えが少ないらしい。しかし、巨大生命体は強力でなかなか歯が立たないのが現状であるようだ。
そんな話を聞きながら数日間俺は自分のやるべきことを考えていた。
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ある日のことだった。夕飯の食材をフィリスさんと森で探していた時である。
「あっ、ライカさんそのキノコは毒ですよ」
「え、あっ本当だ!ごめん」
「気を付けてください。私たちの中でもそれを食べて死んだ者もいるんです。人が食べたらどうなるか」
エルフというか亜人は全般的に、人より長く生きる。たとえ人が死ぬような怪我でも致命傷でなければ死なない。その亜人が簡単に死ぬほどの毒なのだから心配されて当然である。普段なら自分の能力で見分けることができるのに、気を抜いていたようだ。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
そう彼女が言った時だった。
「なぁ、煙が見えないか」
「え?」
明らかに異常な量の煙が村の方から上がっていた。
「!!!父さん」
フィリスさんが駆け出した。俺もそれを追うように走った。
俺たちが付いたころには戦闘が始まっていた。襲ってきたのはゴブリン、人型の魔族の中で一番知能が低く、自身の種を増やすために、人型の雌(人、亜人、魔族関係なく)襲うらしい。
木の上に家を立てるエルフを炙り出すために森に火を放ったようだ。そのため、ゴブリンから住人を守る人、火消し、何もできない子供などを非難させる人などに分かれてしまったため劣勢になってしまったようであった。火消しでは、水の魔法や雨を降らす魔法などを用いているが、ゴブリンたちに矢で攻撃され、詠唱もままならない状態になっていた。
「どうしよう」とフィリスさんは困惑していた。幸い戦闘は始まったばかりなのか、被害は少なく死人も出ているようには見えなかった。
「フィリスさん、魔法で火を消していってください。俺はゴブリンを倒します。」
「ゴブリンは強いです。並みの人間では「大丈夫です」」
フィリスさんの言うことをを遮って、俺はこう言った。
「その代わり、この戦いが終わってもいつも通り接してください」
そう言って俺は自分の腕を"異形"に変えた。
「嘘…何それ」
フィリスさんは呆気にとられた顔をしていた。俺はそれに答えずにゴブリンたちのいるところに向かった。
…
ギルは焦っていた
なぜなら負傷者も増えてきたからである。普段ならゴブリンごとき、木の上から弓矢魔法で仕留めるものの火を放たれたことで、いやでも地上戦に持ち込まれてしまったからである。剣が使えぬわけではない。しかし、多くのゴブリンを相手にするには、火消しに人が割かれすぎていた。エルフの魔法は、詠唱に時間が掛かりその間は、術者を何としてでも守らなくてはならない。火を消すのは間に合っている。攻撃魔法を詠唱を行っているエルフも間に合っている。しかし、それを守る人が圧倒的に少ないのだ。ましてやその中に剣を真っ当に使えるものなど戦争経験者であるギルを含めてたった数人しかいない。そんな中次和爾派と押され始めてきたのだった。
「くそ、きついな」
「ギルさん、まずいぜ。だいぶ押されている」
「こっちも、負傷者が多くなってきた」
「どうすれば」ギルがそう言った時であった。
ゴブリンの何体かが吹っ飛んだのだ。そしてそれはだんだんギルたちの方に近づいてくる。もう駄目かと思ったその時
「大丈夫ですか!」
とても聞き覚えがある声がした。
…
「大丈夫ですか!」
そう俺は声を掛けた。
「あぁ、まだ大丈夫だがお前、その腕はどうした」
ギルさんは化け物を見るような目で僕を見る。
「…隠してましたがこれは僕の持つ力です」
そう、"ゴリラの腕"となっている自分の腕を見た。
「お前は…一体」
「俺も加勢します。今は信じてください」
そう言うと、ギルさんの目の色が変わり俺をにらんだ。にらんだ後
「わかった。だが、後で聞かせてもらうぞ」
「ありがとうございます」
「お前ら!こいつは仲間だ。間違って攻撃すんじゃねぇぞ」
「おぉー」と声を上げ周りのエルフは了解してくれた。その声を聴いて
「(ここで負けてられないな。絶対に、守るぞ)」
と心に決めた。
まず、ゴブリンのペースを崩すために、12羽のハシブトガラスを体から取り出し、ゴブリンを襲わせた。このカラスのくちばしは強力であり、攻撃力も高いため牽制には充分であると考えた。
統率が乱れたところで、次は俺が突撃した。ゴリラの腕を元に戻し、ヤマアラシの針でゴブリン達の目と胸を刺していった。針にはさっき気付かずに入れていたキノコの毒を盛ってあり、刺されたゴブリンたちは苦しむ者もいれば、死んでいった者もいた。
「誰か助けてくれ」とエルフの声が聞こえれば、五本の指がタコの足に変わり、それを伸ばして襲っているゴブリン5体をまとめて捕まえ地面に叩きつけた。
もちろん俺だけが戦っていたわけじゃない。ギルさんたちも、前線が回復しゴブリンを俺以上に切り伏せていった。その動きはまさしくベテランであり、俺が一回の攻撃で1体なのに対して、一振りで3体も切り伏せていた。
木上から「魔法放ちます」と聞こえると、ギルさんたちは素早く離脱した。しかし、俺はギルさんたちの背中を守るために敵陣に残って戦った。
「お前も早く戻るんだ」という声が聞こえるが、限界まで戻る気はなかった。
「ライカさん戻ってください!!」
しかし、その声も無視する。
「もう時間です。放ちます。『レイニィアイス』」
詠唱を終えたエルフたちがそう唱えると、たくさんの氷の針が空から降ってきた。そのため、着弾する前に自分の足をチーターの足に変え、急いで離脱した。
突き刺さった氷の針は地面ごとゴブリンを凍らし、砕けっ散った。そのあとには、何も残らなかった。
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「で、お前は何者なんだ」
村の者みんなが、両腕を縛られた俺を見ていた。あれからすぐに捕まりこのような状況となってしまったのだ。
「正直、僕もわかりません」
「力を十分に使えるのにか」
「はい」
これは本当だ。自分の力であるのによくわからないのだ。これを聞いて、ギルさんはどうしたものかと頭を抱えた。
「ただ、」
「ただ?」
「この力は"キメラ"と呼ぶそうです」
「キメラだと?」
キメラ・・・ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持った怪獣であるキマイラのことである。 また、生物学では異なる遺伝子型の細胞が共存している状態の一個体のことであるとしている。
「僕は、生き物や植物を形、細胞、遺伝子、性格、記憶、経験などすべてを見ただけでコピーすることができるみたいなんです。そして、それを複製したり、変身したり、自分の体の一部で再現することもできます。ただ、どうしてこのような能力を持っているのか分からないんです」
村人たちはざわつく。当たり前だ。こんな異常な化け物などなかなかいないだろう。
「ちなみに、エルフの言葉を喋れるのもこの力のおかげです」
そう言うと、男の一人が質問した。
「人や亜人にも化けることができるのか」
「人や亜人は一部の再現はできますが、複製や変身することはできません」
そう、この力の不自然なところの一つとして、人や亜人などには化けられないことだ。もちろん、人と遺伝子が97%同じであるチンパンジーには化けることができる。だからこそ、それが不可解であった。
「じゃあ、俺たちを襲う気はないんだな」
「はい」
僕は力強く答えた。
「・・・嘘はついてないな。解放しろ」
その言葉に村の緊張は解けたようであった。その後、村のみんなは戦いの後処理を始めた。俺もそれを手伝っていたが、フィリスさんを手伝っていた時ギルさんが来た。
「今回の件で話したいことがある」
「何でしょうか」
「単刀直入に言うと、お前の面倒を見ることができなくなった」
「!!お父さん、それどういうこと」
「村の備蓄庫がやられた。それに、焼き討ちで森の植物にも少し影響が出てしまってな」
「得体の知れないものはあまり置きたくないということでしょうか」
「そんなことは…」
フィリスさんがそう否定しようとするが
「それもある。しかし、それよりも前者の方が大きい。幸いにも家は無事だし、おまえの荷物や着ていた服も無事だ」
「そうですか。…わかりました」
「待ってください。ライカさん!」
「フィリスさん、残念ですがこれ以上村の人に迷惑をかける訳にはいかないんです。」
「でも」
「フィリス、これは仕方のないことなんだ。わかってくれ」
フィリスさんは何も言わなくなってしまった。そして、俺たちは早めに上がらせてもらうことになった。俺はその日の内に旅立つ準備をした。異世界探索用の服を準備し、携帯や手のひらに載るほどしかない収納ボックスのほとんどない空っぽさ(本来は回復薬と食料を入れてある)にガックシしながら、その日は寝た。
朝早く、村の人たちは人の国がある平原に抜けることができる村の出口に俺を見送るために来ていた。
「すまないな、こんなことになってしまって」
「いえ、仕方ないですよ」
「これからどうするんだ」
「人の国に行ってみようと思います。魔王のことや他の国のことについて何かわかるかもしれませんし」
「そうか、期待しているよ。お前なら、何か変えることができるかもな」
「じゃあ、さようなら」
「元気で「待って」」
そこにはリュックを背負ったフィリスさんがいた。
「ライカさんに付いて行ってもいいですよね」
「フィリス(さん)!なぜ(どうして)」
「父さん、昔困っている人は助けてやれて言ったよね」
「だが」
「それに、ライカさんは人の国までの道順は知らないから、誰か案内しないと駄目なんじゃないかな」
「フィリスさん・・・なぜ」
「うーん、面白そうだからかな」
「面白そう?」
「うん、それに村を救ってくれたお礼ができてないし」
「フィリス…わかった。行ってこい」
「!ありがとう」
「行ってらっしゃーい」の声を背に俺たちは歩き出した。これから向かう人の国どのような国か全く情報がない。そんな不安を抱えながら俺はフィリスさんと共に向かうのであった。
「あっ、そうだ。フィリスさんじゃなくてフィリスでいいよ。それにため口でいいよ。こっちが疲れるし」
「そうですか、じゃあ俺もライカでいいです。よろしく、フィリス」
冒険の滑り出しは順調であった。
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ノートパソコンでライカの動向を見ていると不意に
「紫龍、ライカの試験は順調そう?」
普段、他人のことを気にしない蒼龍がライカのことを心配していた。珍しいと思いつつ、蒼龍も初めての後輩が可愛くて仕方がないんだなと思った。
「いまから、人のいる国に向かうようだ。」
「へぇー、てことは島の中心に向かうんだね」
「地理的には、人の国は山を囲うように麓に作られているな、しかも山の斜面と頂上に城が立てられている。この山から町に、水が四方に流れるようにしている」
「この水が町の人の生活水と郊外の農耕用の水になっているようだね」
「山の頂上は城とダムの機能を持っているようだな。山の斜面の建物でも中に水路を通したり床と屋根だけの通路では見栄えをよくするために芸術としての水路があるみたいだ。滝として流すための水路もあるるように見える。だが、どの水路自体も広く深く細分化することによってダムの決壊対策をしているみたいだ」
「一見すると山自体が城のように見えるね。ふもとの町もかなり大きいようだし」
「それに、郊外の治安もよさそうだ。ほかの国との貿易品をうまく加工できるようになっている」
「東に食品の加工拠点を、西には蚕や綿の加工拠点があるな、それに北にも何かの加工拠点をおいているようだ。南には何もないな」
「ほんとだ気になるね」
「まぁ、それ以上に」
島から視点を外し大陸の方を見る。そこには、少なくとも中世でも、近代でも、現代でもない軍服を来た人間たちがいた。
「この人たちは?」
「別の世界の人間だ。どうやら、この大陸の人間は異世界にゲートを繋ぎ人を転移させたり、大群で押し寄せて人攫いなどもしていたみたいだな」
「てことは、この軍服着ている着ている人たちは報復しに来たのかな」
「だろうな、現にそのゲートを繋いでいた主犯国家とドンパチしているようだ。だがこれはチャンスだ。うまくいけばこちら側に引き込んで協力者になってくれるかもしれない」
「ふーん、じゃあいつ行く」
「とりあえずは、ライカの試験の結果を受けてからだな」
「そっか、楽しみだなそれは」
「じゃあ、お先」と蒼龍は手を振って帰ろうとしたので、「奥さんは元気にしているかと」聞くと「いつも通り、あんまり喋んないけど元気にしているよ」と言って去っていった。
再び、ノートパソコンに向き直り、ライカの動向を見ようとするとブーブーと携帯のバイブが鳴った。どうやら妻からのようだ。
[今日の晩御飯はグラタンだから早く帰ってこい。じゃなきゃ コ ロ ス ]
[了解]
そう打って少し名残惜しいが、帰ることにした。
「ライカ頑張れよ。お前が今以上に強くなれるかどうかが掛かっているんだからな」
片付けをして帰ろうとした時、偶々リョウマが14年前にライカと共に持って帰ってきた資料の解析結果が書いてある報告書が目に入った。
「全環境対応生物 通称"キメラ"の開発資料か」
そこにはこう書いてあった。
第一実験 遺伝子の上書きと複数の保持
被験者 3億人 うち適合率が高い子供が2億人
適合者 1名 被験者は成功者を除き死亡
鎮静剤を使っても、暴走が止まらなかったため冷凍カプセルに封印
第二実験 成功者のクローン制作と欠点の改善
結果 第一実験と同じように暴走したため冷凍カプセルに封印
見てるだけでひどいが、これらの非道な研究をしていた研究員がまた、別の研究を行っていたようだ。本来その資料は、ライカが10歳の時、彼の世界の再調査を私が行った時に見つけたもので、ノートに日記のように書かれていたものだが、この報告書についでに入れてあるようだ。
ノアの箱舟計画
これまでのキメラでの研究を生かし、大量虐殺兵器とその汚染による人類の滅亡を止めるための計画である。ノアの方舟はこの世界ではないどこかの世界の言葉であり、人や動物が生き残れた要因であることから、この名を付けた。
この計画で必要なのは、人をコピーできるキメラである。したがって、この計画の最終目標は人用のキメラである"ヒューマンキメラ"を作る事であるとする。
中略
ついに完成した。最初の犠牲者である。2999999999人の遺体と魂を用いることによって完成したのだ。しかし、遅かった。完全に人類は消えてしまった。私ももう持たない。どうするべきか。
このノートを見たものへ、頼む彼を外に出してやってくれ
これがノートの最後に書いてあった言葉であった。
今彼はこことは別の世界で暮らしている。どんな生活を送っているかは、把握していない。しかし、問題は、クローンの方である
。いまだに見つかってないのだ。もし仮に、蔑世界に行ってしまったとしてそこで問題が起きてないかとても心配である。
さっと報告書を目に通し、私は事務所の電気を消して出た。帰る途中、今度ヒューマンキメラの彼を見に行こうかどうしようか考えていた。
最後に出たキメラは、いつか書こうと思います