始まり
一話から14年後の話です。
「今日は次元の壁の調子がよくないな」
朝、作った朝食を並べているときに親父はそう言った。
「そんなのいつものことじゃん。別に気にすることでもないと思うけど」
「うーん、いつもならそれで流せるんだがなぁ~」
うーんと唸りながら親父は俺の方を見て
「多分、お前の試験が今日あたりになりそうなんだ」
俺にとってとても重要なことを言った。
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親父は先に徒歩で会社に向かい、俺は食器を洗ってから自転車で向かう。
あの日、5歳だった俺をリョウマは拾い、ライカと名付けて家に入れてくれた。そして、小学校に入れてもらうと同時に俺が持つ特殊な能力を制御できるようになるまで特訓することになった。
そのとき、僕は親父の圧倒的強さと社内見学の時に見た仕事に対する真面目な姿、そしてなにより誰にでも優しいところがとてもかっこよく見えた。その姿をみて俺は親父のようなかっこいい人になりたいと思った。親父が俺に手を差し伸べたように、俺も誰かに手を差し伸べる事ができるようになりたいと願った。
中学、高校を出た後すぐに親父が務める次元旅行会社の入社試験を受け無事に入社した。研修期間中ではあるが先輩方が手取り足取り教えてくれたおかげで本来3年後にあるはずの昇格試験が入社して1年経った今日あるというのだ。俺はとてもうれしくて自転車を速く漕いで会社に向かった。
「おはようございます!」
「おう!いつもより元気じゃないか」
「おはよう」
「おはよう…朝からなんかいいことでもあったか」
「おはよう。いい声ですね」
俺の挨拶に返してくれたのは指導してくださった先輩方で返答した順に、
白龍煌介
赤龍遥
紫龍望
蒼龍卓也
である。先輩方は俺と同じく異世界から来た人達で、訳あってこっちで仕事をしている。
「はい、実は今日あたり試験があるらしいんです!」
「おぉ!よかったじゃないか!たった1年で受けられるなんてすごいぞ」
煌介さんが頭を思いっきりなでる。それを見てほかの先輩もみんな嬉しそうにする。
「それで、みなさんに聞きたいのですが試験ってどんな風に行われるんですか?」
「う~ん、それがな人によって別々なんだよ」
「えっ!人によって変わるんですか!」
「あぁ、例えば私の時はそこの仕事用のゲートを普通に通っていったぞ。」
先程まで、一言も喋ってなかった望さんが急に自分の時のことを話した。それに続いて
「俺はいきなり落とされたな」と煌介さんは言い、
「俺は望と同じく普通にゲートを通ったよ」と友貴さんは言い、
「僕は攻撃してきた奴を追っていたら、ソイツごと落とされた」と遥さんは言った。
「う~!!自分がどんな風に受けるのかもっと想像できなくなりました」
そう言うとみんな笑った。そして、仕事の時間になった。
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書類仕事と先輩方と過去に調査した世界を報告書にまとめているとあっという間に終業時間を迎え先輩方は帰る準備をしている。今日は過去に調査したものをまとめて別の部署に出すだけなのもあってギリギリ定時に終わらすことができた。だけど…
「結局、何も起きなかった」
俺はぐでーんと伸びため息をつく
「まぁまぁ今日が終わったわけじゃないし、明日かもしれないじゃん」
「少なくともあるのはわかっている。そのときを待てばいい」
「がんば」
「今、情熱を失ったら冷めていく一方だよ」
「そうですよね!よーし、がんばります」
と残して俺は事務室を出って行った。
「がんばれよ」
望さんの呟きが聞こえた。
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「今日も平和だな」
町を見ながらそう呟く。周りには帰宅途中であろう人や学生が数人集まって話しながら歩いているのが見える。この町に来てから何度も見てきた日常の風景である。昔、親父に連れられて行った最も現実に近い地球の日本という場所で見た景色とよく似ている。まぁ、こっちには立体映像の広告やホログラムの掲示板などがあるが、それでもあの光景と通じるものがそこにあった。
しばらくして、きょうの晩御飯を何にしようか考えながらスーパーに向かっている時
「強盗犯は今すぐ投降しなさい!」
と銀行の方から聞こえてきた。それと同時に[パンッ!パンッ!]と銃声が聞こえる。よくは聞こえないが、警察と強盗は怒鳴りあって一触即発の状態だった。これはいけないと思い俺は………
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強盗犯達は焦っていた。店員を数名人質として盾にすることができたが、警察の突撃部隊は人質を救出と現場の制圧を行えるのでその部隊が来ない内にさっさと逃げることが出来なかったからだ。彼らには職がない。明日も生きているか分からぬ所に一人の男が現れ、自分たちに強盗をさせ、手に入れたお金を私たちに渡せば、君たちを仲間に引き入れようと言ったのだ。彼らはどうせ明日も分からぬならと死ぬ気で受けることにした。
途中までうまくいったが、お金を鞄に入れる作業に時間が掛かり、警察が到着してしまったのだ。
「どうする?このままじゃ捕まるぞ」
「どうするって、何か手があるのか?」
「いっそ、このまま人質ごと死ぬか?」
「警察のお世話になるくらいならいっそ死ぬってか、それもいいかもな」
「元々死ぬかもしれない毎日だったからいっそ死ぬのもありだな」
警察との言い合いで男たちは怒鳴りあっていたが、ほぼあきらめていた。突撃部隊が来る時点でもう無理なのである。この世界では、強盗と人質などの重犯罪は大罪であり、禁固100年以上か死刑になる確率が高いのである。ましてや、死刑は執行日が知らされずに行われるので、とても耐えられたものではない。だからこそ、死ぬ瞬間くらい自分で選びたいのかもしれない。
「それじゃ、やるぞ」
男がそう言ったときだった。[チューチュー]とネズミの鳴き声が聞こえたのだ。強盗犯達はネズミの鳴き声がする方を見ると一匹のネズミがいた。そのネズミは強盗犯達をじっと見ていた。
「なんだよ」と強盗犯の一人が言うと
「お前たちを捕まえに来た」とネズミが喋り強盗犯達に向かっていった。
ネズミを打とうとしたが、不意にネズミの姿が人の姿となり強盗犯の一人に[なにか]を腹に突き刺した。そんなものを見てしまったせいで、戦闘中の危険な行為のひとつである硬直してしまった。
そこが彼ら強盗犯達の運のつきであっただろう。刺された仲間が倒れ動かなくなったところを見て恐怖してしまったのだ。それがいけなかった。硬直した瞬間に、強盗犯達のうち二人があっという間に刺されてしまった。このミスで五人から二人になってしまったのだ。強盗犯は人となったネズミに銃を連発するが、軽くかわされ、仲間を動かなくさせた[なにか]を投げさせる隙となってしまった。それは一直線に仲間に刺さり仲間は倒れてしまった。
それを見て次は自分かと覚悟を決めたが、その時一瞬だけ[なにか]は動きを止めた。男は「(今だ!)」と銃を向けたが、[なにか]が襲ってくるのに恐怖して乱発したのが不味かった、6発しか入らないリボルバーには弾がもうなかった。
ネズミから人になったものはゆっくり近づいてくる。装飾のない白い無地の仮面のせいで表情は見えない。
「俺たちを殺すのか?」男は聞いた
「いや、ただ眠ってもらうだけだから安心して」ネズミから人になった者はそう答え
最後の一人に[ヤマアラシの針]を刺された。強盗犯は、急に激しい眠気に襲われ、仲間が刺されたのはこれだったのかと思いながら意識を失った。意識が途絶える直前に、
「自分達のやったことを悔いるといいよ」
と冷たい声が聞こえた。
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警察が突入し無事に事件は終わった。銃を使われた時は焦ったけど、初心者だったから当たらなくてよかった~。とにかくこれで安心して帰れるな。でもちょっと時間掛かったから裏道を通って近道をしようかな。
そう思って裏道に入った時だった。いきなり[パシュンッ!]と音がして右肩に激痛が走った。自転車のバランスを崩しアスファルトの上に左肩から落ち、自転車でスピードを出していたのでそのまま体はアスファルトの上を滑っていく。ザラザラのアスファルトによって左頬と左手は傷つき血が出ている。左肩は落ちた衝撃によって痛み、右肩はなにかが肉の内側にえぐり近できたかのように痛い。
「だめですよ、あの男たちの邪魔をしたら」
「おまえは……一体……」
「知る必要はありませんよ」
そう言って、俺に近づき仰向けになって苦しんでいた俺の胸にサプレッサーを付けた拳銃で弾を打ち込んだ。激しい痛みが俺を襲い苦しく悶えていると男は返り血を靴や足元、服に多く浴び、笑いながら去っていった。
「いやだ……死に…たくない…」
「誰か……誰か……」苦しみ意識が途絶えそうになった時
「あ…」
目の前にゲートがあった。記憶に残っているあの神々しさを纏って俺の前に現れた。俺はそれに向かって必死になって手を伸ばした。激痛走る体を無理やり動かした。這いつくばりながら何とか扉の前につきその扉を押して開けた。そしてどこまでも先が見えない真っ暗な扉の中に体を入れていった。
そこから先は覚えていない
次回から試験開始