7話 解呪の方法は?
ごはんを食べた後、私はクロエちゃんと向かい合うようにして、椅子に座る。
アストさんとミリアさんは、心配そうに私たちの様子を見守っていた。
「今から魔法でクロエちゃんのことを調べるからね? 特になんてことはないから、リラックスしてて。あっ、もしも痛いとかあったりしたら、すぐに言ってね?」
「はい、わかりました」
言われた通りに、クロエちゃんは肩の力を抜いた。
私のことを信頼してくれている証だ。
こんな時になんだけど、ちょっとうれしい。
「探知」
探知系魔法を、クロエちゃんそのものに対して使う。
探知系魔法は、魔力の波を飛ばして、人や物を調べる魔法だ。
でも、ちょっと魔法の構成を組み替えると、物質じゃなくて、目に見えないものも探知できるようになる。
今回の目標は、魔力だ。
クロエちゃんに呪いがかかっているのなら、なにかしらの魔力反応があるはず。
私は、それを探した。
「……あった」
ほどなくして、クロエちゃんから魔力の反応を感知した。
これは……肺の辺りかな?
怨念のように暗い魔力が、どんよりと絡みついているのがわかる。
ただ、これは……
「ふう」
私は、一度、探知系魔法を解除した。
「なにか、わかったのですか?」
「うん。クロエちゃんは病気じゃなくて、呪いをかけられているみたい」
「呪い……ですか?」
「命の危険はないけど、定期的に苦しみを与えるっていう、すごい悪質な呪い」
「そのようなものが……」
「ルイフェさん。娘が呪いをかけられているというのならば……助ける方法は?」
「そのことなんですけど……その、ちょっと聞きづらいんですけど、クロエちゃんに恨みを持っているような人はいますか?」
おたくの娘さんは、誰かに恨みを買うような人ですか?
そんな質問をしているのと同じだから、ちょっと気後れしてしまう。
でも、アストさんは気にすることなく、真剣に考えてくれた。
その上で、首を横に振る。
「いや……私には心当たりはないな。親バカと言われるかもしれないが、娘は真面目で優しく、誰かの恨みを買うような子じゃない。ミリア、お前はどうだい?」
「私もわかりません……」
「そうですか……うーん、まいったなあ」
「なにか問題が?」
隠していても仕方ない。
私は、わかったことを素直に告げる。
「クロエちゃんにかけられている呪いって、すごい高度なものなんですよ。えっと、わかりやすく言うと、上級魔族にしか使えないような呪いなんです。だから、ちょっと私には荷が重くて……犯人がわかっているなら、締め上げるのが手っ取り早かったんですけど」
知識はあるけど、実際に呪いの魔法を使ったことなんてない。
当たり前だよね。
そんな物騒な魔法、使う機会なんてないし。
あっ。
一度だけ、使おうと思ったことあったっけ。
お父さんが私の本を捨てようとした時は、本気で呪いをかけてやろうかと思ったよ。
って、そんなことはどうでもいいの。
問題は、私が呪いの魔法を使った経験がないということ。
使ったことがないから、呪いに関する魔法……解呪も含めて、苦手なんだよね。
簡単な呪いなら、強引に解くことができると思うけど……
クロエちゃんの呪いは複雑で、下手に手を出したらどうなるかわからない。
体に悪影響が出ないとも限らない。
だから、強引に、っていう手はナシ。
「ルイフェさんでも、どうにもならないのか……」
「いえ。まだ手はあります」
落胆するアストさん、ミリアさんを励ますように、私は言った。
「私の魔法で解呪することはできませんけど、それなら、他の方法で呪いを解けばいいんですよ」
「他の方法というと?」
「ずばり、薬草です!」
人間の暮らす大陸には、色々な薬草が生えているらしい……ということを、魔王城の書物で知った。
単純な傷薬から、どんな病も治すものまで、様々な種類がある。
「クロエちゃん。エリクシル草、って知っている?」
「はい。どんな病も治すと言われている薬草のことですよね?」
「正解! そのエリクシル草を使えば、クロエちゃんの呪いも解けると思うんだ。あれは、呪いの浄化作用もあるからね」
「しかし、エリクシル草はとても貴重なもの。滅多に市場に出回りませんし、例え売られていたとしても、手の届くような値段では……」
「買う必要なんてないよ。採ってくればいいんだよ」
薬草が買えないなら、採ってくればいい。
たった、それだけのことだ。
「ま、待ってくれ。ルイフェさんは、エリクシル草がどこに生えているのが知っているのかい?」
「うん。この前、本で見たんだけど、私のおうち……じゃなくて、魔王城の近くの小島に生えているんだよね?」
「よく知っているね……しかし、あの島は危険なところだ。常に海は荒れていて、船が転覆する恐れが……」
「忘れたんですか? 私、飛べますよ?」
その場で、ふわっと浮いてみせた。
「……いや、危険はそれだけじゃない。あの島は、ドラゴンの縄張りになっているんだ。下手に近づいたら、ドラゴンの餌食になってしまう」
「ドラゴンなんて、大したことないですよ?」
あっさりと言い放つ私に、アストさんとミリアさんが、ぽかんとした。
一応、私は魔王だからね。
ドラゴンなんかに負けていたら、魔王は務まらない。
相手が、最強種と言われている、エンシェントドラゴンだとしても、たぶん、負けないと思う。
というか、ドラゴンなんかに怖がっていたら、魔王城で生活できないよ。
あそこは、ドラゴンより強くて怖い人がたくさんいるからね。
四天王のみんなとか、お父さんとか……
あと、怖いっていう意味では、お母さんが一番……これ以上、考えるのはやめておこう。怖いことを思い出して、震えちゃいそう。
「そんな……ルイフェさま、危ないですわ」
「大丈夫、大丈夫。私、強いよ? クロエちゃんも知ってるでしょ」
「それは、そうかもしれませんが……ですが、私のために友だちが危険な目に遭うかもしれないなんて、そんなこと……どうして、ルイフェさまはそのようなことができるのですか?」
「クロエちゃんのためだから」
「私の……?」
「私たち、友だちだよね?」
「はい、もちろん」
「友だちのためなら、ちょっとくらい危険なことでも、どうにかしたいと思わない?」
「あ……」
「だから、私はがんばるの。クロエちゃんの……友だちのためだから」
「ルイフェさま……」
じわりと、クロエちゃんの瞳に涙が滲む。
「え? え? ど、どうしたの? なんで泣いて……も、もしかして呪いが!? それとも、私の魔法、痛かった!?」
「い、いえ……そうではありません……ルイフェさまの気持ちが、本当にうれしくて……それで、つい」
「そうなんだ……よかった。ほっとしたよ」
「余計な心配をかけてしまい、すみません」
「ううん、気にしていないよ。それに、また一つ、クロエちゃんと仲良くなれたみたいで、私はうれしいな」
「はい。私もうれしいです」
「えへへ」
「ですが、どうか、無理はなさらないでください」
「大丈夫! クロエちゃんのためなら、ドラゴンなんてちょちょいのちょいだよっ!」
気に入って頂けたら、評価やブクマを頂けると、すごく励みになります! よろしくお願いします。