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17話 貴族? 魔王には関係ありません

「マクダウェルさま、こ、困ります」

「うん? それは、グラスが割れたのは僕のせいだと言いたいのかな? 僕はなにもしていないのだけどね」


 フロアに戻ると、先輩のラウラさんがお客さんに掴まっていた。


 ラウラさんは優しい先輩で、とても綺麗な人だ。

 お客さんたちからの人気も高い。

 ただ、リオナさん曰く、『人妻だから看板娘になれないんだよな』……とのこと。


 人妻だと、なにがいけないのかな?

 うーん、謎だよね。


「君が粗相をしたんじゃないか。それを、僕のせいにされても困るな」

「し、しかし……急に手を触ってくるから……」

「なに。これくらい、軽いスキンシップさ。そう、挨拶のようなものだ」


 ラウラさんを掴まえているのは、豪華な服を着た男の人だ。

 人間の服は、よくわからないけど……

 男の人は、本に出てくるような、色鮮やかな服を身につけている。

 ついでにいうと、指輪もこれみよがしにたくさんつけていた。


 ただ……うーん、似合ってないんだよね。


 服を着こなしている感じはしない。

 むしろ、服に着られている、っていう感じ。

 色の組み合わせとかもまったく考えていない感じで、適当に、豪華なものを選びました、という印象がすごく強い。


「貴様、マクダウェルさまに非があると言うか?」

「己の非を認めず、あまつさえ、マクダウェルさまに責任をなすりつけようとは……これだから平民は」


 おつきの人……というか、鎧を着てるから護衛の人かな? ……が、ラウラさんを鼻で笑う。

 マクダウェル、っていう男の人も、二人に続いて笑った。


 むっ。

 なんなの、あの人たちは?


「ちっ。ぼんくらめ、また来たか」


 リオナさんが厨房から出てきて、状況を把握するなり、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「リオナさん、あの人は?」

「この街を治める領主のバカ息子さ。貴族であることを盾にして、ああやって、女に手を出して回ってるんだよ。最近は、ウチに通うようになって、次々とちょっかいをかけてるんだよ。ったく」

「女の敵、っていうやつですね」

「おっ、言うね、ルイフェちゃん」

「あの人、追い払った方がいいですよね?」

「そうなんだけどね……あいつ、あれで頭は悪くないから、越えちゃいけない一線は越えないんだよ。憲兵にしょっぴかれない程度にちょっかいを出してるから、こっちとしても対応に困っててね……」


 典型的な悪人だなあ。

 ああいう人、本でたくさん見た。

 まさか、現実に実在するなんて。


 ある意味、希少な存在かも。

 友だちに……いやいや、それはないか。

 あの人、生理的に無理っぽいし。


 魔王が苦手な人間っていうのも、ある意味、すごい人材なのかも。


「つまり……穏便に帰ってもらえばいいんですか?」

「そうだけど、素直に帰るヤツなら困らないんだけどね……」

「私に任せてください!」

「えっ、ルイフェちゃんが?」

「こう見えて、ああいう相手をあしらうことは得意なんですよ」


 私は、生まれた時からとてもとてもめんどくさいお父さんの相手をしてきたからね。

 面倒な相手のあしらい方は熟知している。


 それに、いざとなれば魔法とか魔王の力とか、それらでなんとかしてしまえばいい。


「ルイフェさま」


 話を聞いていたらしいリリィが、そっと声をかけてきた。


「あのような輩、ルイフェさまが手を下すまでもありません。我が、暗黒の裁きを下し、奈落の底に叩き落としてやりましょう」

「リリィが? ……具体的に、どうするつもり?」

「とりあえず、一秒間に100発ほど殴れば反省するでしょう」


 バイオレンス!?


「いや、リリィならできるだろうし、反省もするだろうけど……暴力沙汰はまずいんじゃないかな? ほら、領主の息子らしいし……『白猫亭』に迷惑がかかっちゃうかも」

「子の不始末の責任をとらず、親も加担するような領主など不要。我がドラゴンブレスにて、その存在をアカシックレコードから抹消しましょう」


 とんでもなくバイオレンス!?


「……リリィは待機してて」

「しかし」

「暴力ばかりが手段じゃないんだよ。そのことを、リリイは学ばないと。いい? 私を見ていてね」


 ワンちゃんに『待て』と言い聞かせるように言って、その場を離れた。


 まっすぐ、ラウラさんと領主の息子のところへ向かう。


「すみません。どうかされましたか?」

「ん? なんが、このチンチクリンは?」


 ち、ちんちくりん……?


 一瞬、極大殲滅魔法を解き放ちたくなる衝動に駆られるけど、ぐっと我慢した。

 よく耐えた。

 偉いぞ、私。


「お客さま。店員に声をかけるような真似は控えてもらえないでしょうか?」

「なんだ、このガキは? マクダウェルさまに、ずいぶんと失礼な態度をとるな」

「マクダウェルさまの邪魔をするな。帰れ。貴様のような胸なしのガキが、マクダウェルさまに声をかけるなんて、100年早いぞ」


 む、胸なし……?


 すー……はー……すー……はー……


 ……よし!

 なんとか耐えた。

 偉いぞ、私。


 危うく、魂さえも分解・消滅させる禁呪を使うところだったよ。


「ラウラさんが困っています。ここは食事をするところであって、女の人に声をかけるところではありません」

「しつこいガキだな。僕は子供が嫌いなんだ……おい」


 マクダウェルが、顎で護衛に合図を送る。

 護衛の一人が立ち上がり、私に手を伸ばして……


「眠れ」


 私に触れるか触れないか、そんなギリギリのところで、護衛は一瞬で眠りに落ちた。

 がたんっ、とテーブルの上に突っ伏した。


「なに?」


 マクダウェルと残りの護衛はなにが起きたかわからない様子で、目をパチパチとさせていた。


 私みたいな子供にまで実力行使に出るなんて……

 ダメだ、この人たち。

 言葉が通じない人っていうのは、こんな人たちのことを指すんだろうな。


 そっちが実力行使をするなら、こちらも、それ相応の対応をさせてもらうよ。

 まあ、リリィに言ったように、暴力は振るわないけどね。


「貴様、今、なにをした?」

「さて、なんでしょう? 私にはわかりかねますが」

「とぼけるな! 僕の護衛になにをしたと聞いている! 答えろっ、この僕が聞いているのだぞっ」

「魅了」


 騒ぐマクダウェルを無視して、私は魅了の魔法を使った。

 文字通り、対象の心を虜にする魔法だ。

 ただ、私の虜にしたわけじゃない。


「……」

「マクダウェルさま! どうされたのですか? 大丈夫ですか?」

「……ああ。大丈夫、僕は平気だ」

「よかった……このガキ、さきほどから怪しげなことを……よくわからぬが、マクダウェルさまに歯向かった罪、その身で……」

「おぉ……我が護衛よ、それほどまでに僕の身を案じてくれているんだな?」

「え? は、はい。それは、もちろん……」

「素晴らしい。その高貴な心に、僕は惹かれてしまった……もう、君以外の何者も見えないよ」

「えっ? えっ? ま、マクダウェルさま……?」


 マクダウェルは頬を染めて、危ない目をして護衛に迫る。

 主の異変を感じた護衛は、一歩、二歩と後ずさる。


「今宵の僕の相手をしてくれないか? もちろん、イヤとは言わないだろうね?」

「あ、相手!? マクダウェルさまっ、いったいなにを……!?」

「ふふふっ、ナニさ。さあ、行こう」

「あっ、まって。そんな、俺は……あっ、あああああぁーーーーーっ!!!?」


 護衛を連れて、マクダウェルは店の外に消えた。


 魅了の対象を護衛にしたんだけど……ちょっと、やりすぎたかな?

 護衛の悲痛な叫びを聞くと、胸が痛む。


 ……まあ、いっか。

 あの人、私のこと、胸なしって言ったもん。

 相応の報いだよね、うん。


「いったい、なにが……?」


 リオナさんたちがポカーンとしていた。

 一方で、リリィは感心したように目をキラキラさせていた。


「おぉ、なるほど。そういう手段もあるのですね。我は、また一つ、賢くなりました」

「今の、ルイフェちゃんが……?」

「ね? 穏便に解決したでしょう?」

「……」

「あれ? もしかして、今のもまずかったですか? 手、出してませんけど……」

「……くくくっ。いや、そんなことはないよ」


 こらえきれないといった感じで、リオナさんは爆笑した。

 つられるように、ラウラさんも笑って……他のお客さんたちも笑い……

 店内が笑い声で包まれた。


「いやあ、久しぶりに良いもんを見たよ。あのバカ息子があんな風になるなんて……くくくっ。あいつ、しばらくは表を歩けないんじゃない? 領主の息子は男色趣味がありました、なんて……あはははっ、ダメだ。これ、腹痛いわ」

「いいぞ、おじょうちゃん!」

「なにをしたかよくわからんが……でも、よくやった! 俺らもスッキリしたぜっ」

「えへへ……ぶいっ!」


 笑顔を浮かべるみんなに、私はブイサインを決めた。

気に入って頂けたら、評価やブクマをしていただけると、とても励みになります。


1月1日の更新は休みます。

次回は、1月2日の更新予定です。

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