14話 学校に行きたい
チュンチュン。
小鳥の鳴き声で目が覚めた。
「……暑い」
がっちりと、リリィに抱きしめられていた。
「ふふふぅ……ルイフェさま……我の暗黒の力で……もっと、もふもふを……もふもふぅ……」
「起きてっ、リリィ!」
「すぴかー……すぴかー……」
ぎゅううう、とリリィが抱きしめてくる。
すごく幸せそうな顔をしてた。
関節技を極められているみたいで、抜け出せない。
人間の姿をしていても、力は変わらないらしい。
まあ、私が本気になれば抜け出せるんだろうけど……
そんなことをしたら、家が壊れちゃうよね。
「はぁ……」
仕方ない。
リリィが起きるまで、おとなしく抱き枕になっていよう。
――――――――――
「「「いただきまーす」」」
ようやく目を覚ましたリリィに解放されて……
その後、リビングでみんなで朝ごはんを食べる。
焼き立てのミリアさんのパンをぱくり。
うーん、おいしい♪
こんなおいしいものが作れるなんて、やっぱり、人間はすごいなあ。
ミリアさんとも友だちになりたいな。
なれるかな?
今度、機会を見つけてお願いしてみようっと。
「それじゃあ、私たちは先に店に出ているよ」
「クロエたちは、ゆっくりごはんを食べてちょうだい」
アストさんとミリアさんが店に移動した。
「今日は、朝から忙しそうだね?」
「週に何回か、忙しくなる日がありまして……その日は、私一人でごはんを食べていたのですが……今日からは、ルイフェさまとリリィさまが一緒でうれしいですわ」
「うん♪ 私もうれしいよ。ねっ、リリィもそう思うでしょ?」
「はぐはぐはぐっ! んぐっ! ごくんっ! ぱくぱくぱく!!!」
……リリィは夢中になってごはんを食べていた。
普段、ロクなものを食べていなかったのかな……?
スルーされた怒りを通り越して、哀れみを感じてしまう。
「ところで……今日のクロエちゃんの服、あまり見たことないね?」
「これは、学校の制服ですよ」
「学校っていうと……あの学校? みんなで勉強をして、運動をして、遊んで……その学校!?」
「はい、そうですよ」
「おーっ」
ちょくちょく本に出てきたから、学校のことは知っている。
人間の子供が勉強のために通う施設だ。
そこで、『青春』を体験できるらしい。
かけがえのない『思い出』を作ることができるらしい。
そして……『友だち』ができるらしい。
学校。
なんてすばらしいところなんだろう!
「今までは、体の問題があって休学していたのですが……ルイフェさまのおかげで、再び通うことができるようになりました」
「そうなんだ……おめでとう!」
「ありがとうございます。本当に感謝していますわ」
「……」
「どうかしましたか?」
「あのね、ちょっと聞きたいんだけど……私も学校に通えないかな?」
私も学校に通いたい。
そして、友だちを作りたい!
ついでに、かわいい制服を着てみたい!
そんな希望を胸に抱いて……欲望というかもしれないけど……クロエちゃんに尋ねた。
「はい。それは問題ないと思いますが……旅の方はよろしいのですか?」
「あっ、うん。旅ね。問題ないよ? うん、問題なし!」
旅人っていう設定、すっかり忘れてた。
「学校に通うことで知識を深めることができるからね。いわば、修行の一環。なにも問題ないよ」
「でしたら、ルイフェさまと一緒に学校に通えるのですね! 楽しみですわ♪」
「私も楽しみ♪」
「あっ、しかし……」
「なにか問題が?」
「手続きなどは問題ないと思うのですが……お金の問題が」
「学費、っていうやつ? どれくらいするの?」
「ルイフェさまは、今、どれくらいの額をお持ちですか?」
「この前、アストさんにもらったので全部かな」
「でしたら、授業料は支払えると思いますが……それとは別に、教科書や制服を買うお金が必要になってくるので、倍はないと難しいですわ」
「倍かあ……」
アストさんにもらった報酬を、全部、学費に充てることはできない。
生活に必要なものはまだ足りていないから、どこかで買わないと。
それらのことを考えると……三倍は必要かな?
でも、なんとかなると思う。
私は子供だけど、魔王だからね。
力はあるから、お金になる仕事もできるはず。
無理無謀、っていうわけじゃない。
「うん! 私、がんばってお金を稼いでみるよっ」
「応援していますわ」
「ありがと」
「ところで……リリィさまは、どうされるのですか? リリィさまも一緒に学校へ?」
「あっ」
リリィのことを忘れた。
「ねえねえ、リリィは……」
「ぱくぱく! あむっ、はむっ、あむっ! んぐんぐんぐっ、ごくん!」
「まだ食べていたの!?」
食欲旺盛なドラゴンだなあ。
これが伝説のエルダードラゴンなんて……
威厳もなにもあったものじゃないね。
――――――――――
「……と、いうわけで仕事を探すよ」
朝食を終えて、リリィと一緒に外に出た。
そこで、改めてお金が必要なことを説明した。
ちなみに、クロエちゃんは学校に登校した。
送っていこうか? って言ったんだけど、丁寧に断られた。
一緒に行くのは、私が学校に通えるようになってからの方がいい……って。
クロエちゃん、ホントに良い子だなあ。
あんな友だちができるなんて、私、すごい幸せ者だ♪
「我も学校へ通うのですか?」
「私はその方が良いと思うんだけど……強制はしないよ。どうする?」
「ふむ。人間の学校ですか……興味はありますが、我の修行の役に立つでしょうか?」
「得られるものはたくさんあると思うよ。強くなるのに力だけが必要なことなんてないからね。知識とか経験とか、そういうのも必要だよ」
「なるほど。さすがルイフェさま、深い考えを持っていらっしゃるのですね。そういうことならば、我も学校に通いたいと思います」
「うん、了解」
となると……
リリィの分を含めたら、もっとお金を稼がないといけない。
大変かもしれないけど、がんばろう。
「良い仕事はないかな?」
「我が暗黒のオーラを振りまくことで信者を得て、貢がせるというのはどうでしょう?」
「却下」
それじゃあ、怪しい宗教じゃない。
邪教と判断されて、冒険者に討伐されちゃうかもしれないよ。
「ん? ……そうだ、冒険者だよ!」
人間の中には、色々な仕事を引き受けてお金をもらう『冒険者』がいる、って本で見たことがある。
冒険者の仕事の中には、魔物退治や護衛などがあるらしい。
私たちにぴったりの仕事じゃないだろうか?
「リリィ、冒険者の仕事をしてみよう」
「なるほど、それは名案ですね」
「れっつごー!」
――――――――――
「まさか、年齢制限があるなんて……」
冒険者ギルドを、とぼとぼと後にした。
元気に冒険者ギルドの門を叩いたのはいいんだけど……
冒険者になれるのは、18歳から。つまり、大人。
考えてみれば当然の話だ。
魔物と戦ったりするから、冒険者は危険が伴う。そんな仕事を、普通は子供に任せたりしない。
「まいったなあ……冒険者になって、たくさんお金を稼ごうと思ったんだけど」
「お? 二人は仕事が欲しいのかい?」
「え?」
ぼやきをこぼしていると、ふと、そんな風に声をかけられた。
気に入って頂けたら、評価やブクマをしていただけると、とても励みになります。