13話 弟子と一緒に寝る
リリィは南の小島を縄張りにしてたドラゴンだから、当然、この街に住む家はない。
人間のお金も持っていない。
なので、アストさんとミリアさんに、リリィも一緒に……とお願いした。
もちろん構わないと、笑顔で了承された。
二人が優しい人で良かった。
というか、人間が優しいのかもね。
盗賊とか、中には悪人もいるけど、そんなのは少ない気がする。
良い人の方が圧倒的に多い。
そんな人間を滅ぼそうとするなんて、お父さん、頭がおかしいのかな?
今度、精密検査を受けるように勧めてみよう。
「これが、ルイフェさまの部屋ですか」
リリィは珍しそうに部屋を見回していた。
ドラゴンとしての生活が長いから、人間の暮らしに興味があるのかもしれない。
「二人で使うから、ちょっと狭くなっちゃうけど、我慢してね」
「我は問題ありません。気になさらずに」
「そういうわけにはいかないよ。うーん、ベッド、一緒に寝れるかな?」
「我は床でも構いませんが?」
「そんなことさせられないよ」
自分は良いところを独り占めして、弟子に冷たい待遇を強いるなんて、おかしいよ。
師匠として、そういうところはちゃんとしないとね。
「あ、そっか。魔法で大きくしちゃえばいいんだ」
「え?」
「んー……拡大」
えいやっ、と魔法を使う。
ベッドが一回り大きくなった。
「これでよし。って、どうしたの?」
「ぶ、物質に干渉……? そんな無茶苦茶な……新たに創造するならばともかく、既存の物質を変化させるなんて……構造を解析して、魔力で変化を? いや、しかし、早すぎるような……」
「ねえ。私、なにか変なことをしたかな?」
「ある意味では、ものすごく変です」
弟子にひどいこと言われた!?
「あっ、いや。悪い意味ではありません! むしろ、とんでもないと驚き、改めて、ルイフェさまを尊敬した次第であります、はい。さすが、我が偉大なる師」
「なんで褒められて、尊敬されているのかな?」
「ルイフェさまは、自分の偉業を理解していないのですか? 物質に干渉するなど、そんな魔法、我は見たことありませんよ。我が邪眼をもってしても、解析不能です」
「そうなんだ。そんなにすごいことなんだ、あれ」
「ルイフェさまは、どのようにして、あのような魔法を編み出されたのですか?」
「えっと……なんとなく?」
「ものすごい適当!?」
「人間の書いた本に、物が大きくなったり小さくなったりするシーンがあったから、魔法ならできるかも、って思って……試しにやってみたらできた!」
「また人間の本ですか!? 人間の本、すごいですね!?」
「そうだよ、人間はすごいんだよ。リリィも、人間の見方を変えた方がいいよ」
「人間というか、ルイフェさまが規格外な気がしますが……はい、師がそう言うのであれば」
こうして、リリィに人間の良いところを理解していってもらえば、クロエちゃんと仲良くしてくれるよね。
私の友だちだからという理由じゃなくて、リリィ自身が、クロエちゃんの友だちになってほしい。
そうやって、誰かに心を許すということを覚えたら、私に対しても親しくしてくれるかもしれない。
そして、いずれは友だちに!
ふっふっふ。
この計画、完璧だね!
こんなことを思いついちゃうなんて、自分で自分が恐ろしいよ。
――――――――――
クロエちゃんの快復祝い……本当に快復したか怪しいところなんだけど……として、今日の夕飯はごちそうだった。
たくさんの料理に、焼きたてのパン。
そして、搾りたてのフレッシュなジュース。
すごくおいしくて、お腹がいっぱいになるまでおかわりしちゃった。
リリィも気に入ったらしく、私の倍くらい食べていた。
太らないのかな?
「それじゃあ、そろそろ寝ようか?」
「はい」
今日は、クロエちゃんとは別だ。
クロエちゃんは、アストさんとミリアさんと一緒に寝るらしい。
今までは、病気……というか、呪いが移るんじゃないかと気にして、なるべく一緒にいないようにしてたらしいんだけど……
その必要がなくなったから、一緒に寝て、甘えたいらしい。
よかったよかった。
クロエちゃんが幸せだと、私もうれしいな♪
ニコニコになっちゃう。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
リリィと一緒にベッドに入る。
「お? おおおぉ」
「どうしたの?」
「これが、ベッドというものですか……ふふふ、心地いいです。我が体を光のオーラが包み込むように、ふわふわとしていて……あふぅ」
「もしかして、ベッドは初めて?」
「はい。いつもは、そこらの大地か、葉を集めた寝床で寝ていましたから」
言われてみれば、そうか。
ドラゴンが寝るとなると、そういう形になるよね。
「おおおぉ……とても良い感触ですね。さながら、悪魔の誘惑のように魅力的で……はっ、もしかして、これは罠!? 我を堕落させようという、神の陰謀では!?」
「ないない」
「ですかー」
リリィの目は、とろーんとしていた。
よっぽど気持ちいいらしい。
ドラゴンも気に入るなんて、人間の発明はすごいなあ。
「ねえ、リリィ。もうちょっとそっちにいってもいい?」
「はい、どうぞ」
「おじゃましまーす」
ぽよん。
「おぉ」
リリィのおっぱい、大きい!
すごく柔らかくて、温かくて、ふわふわで……
「うーん、すごいね」
「あ、あの……なぜ、我の胸に触っているのですか?」
「本能?」
ぽよぽよ。ぽよぽよ。
触り心地も抜群だ!
対する私は……
すとーん。
もしくは、ぺたーん。
「……どうしたら、こんなに大きくなるの?」
「すみません、わかりません。人間の姿になるのは、今日が初めてなので……」
「神さまは不公平だね……」
「もしかして、ルイフェさまは胸のサイズを気にしているのですか?」
「当たり前だよ! おっぱいを気にしない女の子なんて、この世にいないんだよっ!!!」
「おおぅ……そ、そうでしたか。失礼な発言、許してください」
「あ、ううん。怒っているわけじゃないから。ただ、うらやましいだけ」
ふにふに。ふにふに。
ホントに大きいなあ。
触っても触っても、ぜんぜん飽きないよ。
「そのうち、ルイフェさまも立派になられるかと」
「そうかな?」
「ルイフェさまの母君はどうなのですか?」
「お母さんは、すごく大きいよ」
「ならば、娘であるルイフェさまも、いずれ成長されるでしょう。焦ることはありません。まだ、10歳なのですから」
「そうかな?」
「そうですよ」
「……うんっ、自信出てきたよ! ありがとう、リリィ」
私も、いずれ大きくなるよね。
すとーん、から、ぼーん! になるよね。
「それにしても……」
「どうしたの?」
「し、失礼かもしれませんが……ルイフェさまは、とても良い匂いがしますね」
「そう?」
「我ら竜族の近くを狂わすというか、本能に訴えかけるというか……あぁ、抱きしめたいです」
ぎゅう。
言いながら、リリィが抱きしめてきた。
でも、イヤじゃない。
むしろ温かくて、気持ちいいくらい。
「おぉ、なんという抱き心地!」
「えへへ。リリィに抱きしめられるの、気持ちいいかも」
「はっ!? し、失礼しました。つい……」
「いいよ、気にしないで。っていうか、このまま抱きしめてほしいな。私を抱き枕にしてもいいよ」
「る、ルイフェさまを抱き枕に? ……はぁはぁ」
えっ?
今、なんで息を荒くしたの?
「ルイフェさま、とても温かいです……もふもふです……もふもふ最高です……もふもふ、もふもふ、もふもふ……」
「え? あの、ちょっと、リリィ? 目が……」
「あぁ、この感触! 我の暗黒の血が疼く! 止められない、止められません! ルイフェさま、もっと……!」
「ひゃあああああっ!?」
……どうやら私は、魔王だけじゃなくて、抱き枕の才能もあったらしい。
そんな才能いらないよっ!!!
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