12話 呪いが解けた……かもしれない
「よっと」
街の手前まで来たところで、魔法を解除して、地面に降り立つ。
いきなり街中に降りたりしたら、他の人が驚いちゃうかもしれないからね。
私は、そういう気遣いができるえらい子なのです。
えっへん。
「ルイフェさまは、今、この街に滞在を?」
「うん。とても良い人がいて、部屋を貸してもらっているんだ」
「なるほど。ルイフェさまに部屋を提供するとは、人間にしてはなかなか気がきいていますね」
「友だちのクロエちゃんのおうちでもあるの」
「我も一緒してもよろしいですか?」
「もちろん。断る理由なんてないよ」
一応、リリィは弟子だからね。
放っておくようなことはしないよ。
「じゃあ、行こうか」
「はいっ」
街の中に入る。
確か、クロエちゃんのおうちは……
ちょっと迷いながらも、『ハーヴェイ商店』に到着した。
裏手から家に入る。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「あっ、ルイフェさま。おかえりなさいませ。それと……?」
リリィを見て、クロエちゃんが不思議そうな顔をした。
「そなたが、クロエという人間か?」
「はい。そうですが……お姉さんは?」
「我は、破壊と混沌を司る最強……の次の存在。そのあまりの力に、神々にさえも恐れられし者。そう、我の名は、エルダー……」
「はい、ちょっとこっち来てね」
「え? え? ルイフェさま?」
おもいきり正体を暴露しようとしたリリィの首根っこを掴んで、部屋の端に連れていく。
そのまま、ヒソヒソと内緒話。
「正体を明かすのは禁止だからね」
「えっ、ダメなのですか?」
「驚かせちゃうかもしれないでしょ」
でも……クロエちゃんなら、受け入れてくれそうな気もする。
なんとなくだけど、そんな気がした。
とはいえ、楽観的な考えは禁物だ。
友だちを怖がらせるかもしれないことは、避けておくに越したことはない。
「そうだなあ……リリィも、旅の魔法使い、っていうことにしておいて。角と翼は、そういう種族、っていうことで」
「も、ということは、ルイフェさまもそういう設定なのですか?」
「うん。田舎で暮らしてた魔法使いの一族で、修行のために旅をしてる……っていう設定なの」
「ならば、魔王ということも伏せておいた方が?」
「絶対に口にしたらダメだからね」
魔族なんて知られたら、友だちをなくしちゃうかもしれない。
それだけは、絶対に避けないと!
「我々の正体は秘密なのですね。まあ、我が暗黒の力を、軽々と見せつけるわけにはいきませんからね。納得です」
リリィって、ちょいちょい、言動がおかしくなるんだよね。
やっぱり、お父さんと同類なのかな?
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
ごまかすように笑顔を浮かべながら、クロエちゃんのところに戻る。
「えっと……この人は、私と同じ、旅の魔法使いのリリィ。色々あって、意気投合したんだ」
「クロエさまがルイフェさまのご友人だというのなら、我にとって師に等しい存在。敬意を持って、接しさせていただきます。よろしくお願いします」
「師? ルイフェさまは、リリィさまのお師匠さんになられたのですか?」
「うん、まあ。色々あって」
『色々あって』
これ一つで、説明を省いてごまかすことができる。
とても便利な言葉だ。
「見て、クロエちゃん。これがエリクシル草だよ」
「まあ、これが……」
「クロエちゃんの呪いは、きっと解けるからね」
「ルイフェさまのご友人のため、我も協力しましょう」
「……ありがとうございます」
ちょっぴり涙を浮かべながら、クロエちゃんがにこりと笑った。
――――――――――
夜。
仕事を終えたアストさんとミリアさんが、リビングに戻ってきた。
エリクシル草を採取したこと。
ついでに、リリィが弟子になったこと。
それらのことは、すでに説明済だ。
あとは……クロエちゃんの呪いを解くだけ!
「よしっ、完成!」
エリクシル草を使い、薬を作った。
すり潰して水で薄めて、魔力をちょちょいと込めるだけだから、素人の私でも簡単にできる。
エリクシル草は食べるだけでも効果があると言われてる薬草で、複雑な作業を必要としないんだよね。
簡単に使うことができて、効果は抜群。
だからこそ、価値が高騰してる、っていうわけ。
「クロエちゃん。ちょっと苦いかもしれないけど、平気?」
「はい、大丈夫ですわ。これを飲めば?」
「うん。その上で、私が治癒魔法をかけるから。エリクシル草と魔法の相乗効果で、呪いは解けるはずだよ」
「わかりました……では」
長年、体を蝕んでいた呪いが解けるかもしれないと、クロエちゃんは緊張気味だ。
大丈夫。
私は、にっこりと笑いかける。
クロエちゃんは、笑顔で応えた。
そして、薬をそっと飲み込む。
「んっ」
コクコクとクロエちゃんの喉が鳴る。
そうして、全部飲み干したところで……
「癒やしよ」
クロエちゃんに治癒魔法をかけた。
光の粒子がくるくると舞い、クロエちゃんの体に吸い込まれていく。
すると今度は、ふわっと、虹色の光があふれた。
私の魔法とエリクシル草が反応した印だ。
これで、治療は完了。
特になにもないっていうことは、うまくいったはずなんだけど……
「クロエちゃん、体の調子はどう……?」
「えっと……」
クロエちゃんは、体の調子を確かめるように、手足を軽く動かしてみる。
その場で、ぴょんぴょんと跳んだ。
「すごいですわ……とても体が軽くて、さわやかな気分です」
「それじゃあ!」
「おぉっ、さすがルイフェさま! ご友人の体をなぶる魔の刻印を打ち払ったのですね!」
「ありがとうございます、ルイフェさま」
「ルイフェさん、私からもお礼を言わせてほしい。本当にありがとう」
「ありがとう、ルイフェちゃん」
「い、いえいえ。友だちのためですから」
「あぁ、なんて軽やかな気分なんでしょう。今なら、空も飛べそうなごほぉっ!?」
「えええええぇっ!?」
また吐血!?
「クロエちゃん!? 大丈夫!?」
「はい、問題ありませんわ」
「あれ? い、意外と元気なのですね……?」
初めてクロエちゃんの吐血を見るリリィは、唖然としていた。
「どうして、また血を……うまくいかなかったのかな? でも、どうして……?」
「ルイフェさまの治療は、うまくいったと思いますわ」
「でも……」
「これは、私の体が弱いだけですから。ルイフェさまが気にすることではありません。現に、今までと比べると体が軽くなっていますから。今なら、運動をすることもできそうです」
「よかったね、クロエ」
「クロエが元気になってくれて、お母さん、うれしいわ」
えっと……
一応、クロエちゃんの体を調べてみると、呪いの反応は消えていた。
治療は成功していた。
つまり……吐血することは、クロエちゃんの体質……?
やっぱり、わけがわからないよ!
「呪いは解除したのですから、ひとまずの危機は去ったのでは?」
「成功……で、いいのかな?」
「ありがとうございます、ルイフェさま」
「うーん、素直に喜べない……」
吐血の方もなんとかしたい。
きっと、クロエちゃんも困ってるだろうし……
……何より、私が困る。
吐血されたら、すごく驚いちゃうんだよね。
まあ、ちょっとずつ慣れてきてもいるんだけど……
どうにかしたいけど、原因はさっぱりだ。
「そのうち、血を吐いちゃう問題もなんとかしてみせるからね?」
友だちのためにがんばろう!
私は、強く決意するのだった。
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