11話 友だちじゃなくて、弟子ができました
「どうか、我を弟子に!」
「え? いや、その……どうしてそんな話になるの?」
さっきまで、あんなに尊大な態度をとっていたのに……
今は、ものすごく低姿勢だ。
どういうこと? ワケガワカラナイヨ。
「我は思い上がっていました。我こそが最強、我に敵うものはいない……しかし、ルイフェさまは、その慢心を打ち砕いた。おかげで目が覚めました。我が最強を謳うなど、おこがましい。まだまだ修練を積まなければならない……と。そのために、ルイフェさまの元で色々と学ばせていただきたい!」
「えー」
私、友だちが欲しいんだけど……
弟子なんていらないよ。
「ごめんね。弟子とか、そういうのはよくわからないから」
「そのようなことを言わず、お願いしますっ」
「えっと……弟子じゃなくて、友だちはダメ?」
「滅相もありません! 我などが、ルイフェさまの友になんて……どうか、弟子に!」
「いや、だから……弟子はいらなくて……」
「お願いしますっ!!!」
ぐぐぐっと、おもいきり接近されて頭を下げられた。
大迫力だ。
うーん。
ここまでしているのに、断るのはちょっとかわいそうかな?
弟子とか、よくわからないけど……
でも、一緒にいたら友だちになるチャンスがあるかな?
そのうち気が変わるかもしれない。
そう考えると、そんなに悪くないかもしれない。
「うん、わかったよ。弟子にしてあげる」
「本当ですか!? ありがとうございますっ」
ドラゴンは器用にお辞儀をした。
よっぽどうれしいのか、尻尾がフリフリと揺れている。
犬?
「でも、強くなる方法とか、よくわからないからね? 教えられることはあまりないと思うけど、それでもいいの?」
「構いません! ルイフェさまと一緒にいるだけで、色々と学べることはありそうなので。傍にいることを許していただけるだけでも、とても光景なことです!」
傍にいるだけでいいなんて、健気なドラゴンだなあ。
なんか、ますます犬っぽい気がしてきた。
「あなたの名前は?」
「リリィと言います」
「あれ? もしかして、女の子?」
「はい、そうです」
なんだ、女の子だったんだ。
服が燃えて裸を見られちゃった、って焦ったけど、女の子なら問題ないや。
「これからよろしくね、リリィ」
「はい! よろしくお願いします、ルイフェさま」
握手……はできないから、私の手の平の上に、リリィがぽんと爪先を置いた。
「さてと……それじゃあ、クロエちゃんのところに帰らないと」
「そのクロエというのは、さきほどの話にあった、ルイフェさまのご友人ですか?」
「うん。大事なお友だちだよ」
「ルイフェさまのご友人ならば、我にとって師と同等の立場であり……失礼がないように気をつけます」
「そんなにかしこまらなくてもいいんだけどなあ」
いずれ、リリィとも友だちになりたいから、最初から、こんなに固い態度をとられても困る。
まあ、仕方ないか。
竜族も魔族と似て、強い者に従う傾向があるんだよね。
リリィが私の弟子になりたいっていうのも、理屈はわかる。
「あっ。でも、どうしよう? 街中にリリィを連れて行ったら、大騒ぎになっちゃう」
人間のことは詳しくないけど、それくらいの常識は持ち合わせていた。
「それならばご安心を。変身の魔法を使いましょう」
「え? そんなものがあるの?」
「はい。見ていてください……ていっ!」
リリィが光に包まれた。
シュルシュルと光が小さくなって……
やがて、人の形をとる。
「どうですか、ルイフェさま!?」
光が消えて、15歳くらいの女の子が現れた。
金髪のロングヘアー。
肌は陶器のように白い。
八重歯が特徴的で、元気な印象を受けた。
ただ、完璧に変身できるわけじゃないらしい。頭の上に、ちょこんと角が残っている。あと、背中に小さな翼がぱたぱたと。尻尾もある。
ちょっとドラゴンの要素が残っているけど……すごくかわいい。
リリィが人間になると、こういう風になるんだ。
でも……
「裸! 裸だよ!? 服は!?」
「ふふんっ。王者である我に、人間の服など必要ありません」
「必要あるからね!? 恥ずかしくないの!?」
「いえ、まったく?」
「私の方が恥ずかしいから、服を着て! 今すぐ着て!」
「むぅ。よくわからないことを仰りますね。まあ、ルイフェさまがそう言うのならば」
リリィが手をかざすと、光があふれた。
光がリリィの体に絡みついて、衣装に変わる。
私と同じように、魔力を使って衣装を作ったんだろう。
「これでよろしいですか?」
「うん、よろしいです」
フリフリのドレスだ。
すごくかわいい。
「似合っているね」
「ふふふっ。せっかくなので、我にふさわしいドレスを選びましたからね。これは、我がオーラを包み込むにふさわしい衣装と呼べるでしょう」
リリィって、たまに、変なことを言うよね。
もったいぶるというか、変に格好つけているっていうか……
中二病?
「基本的に、私と一緒にいる時は人間の姿でいてほしいんだけど、平気?」
「どうしてですか?」
ドラゴンと一緒にいたら、人間の友だちは作れないと思う。
そんな自分の都合なのだ。
でも、そんな理由で、リリィが納得してくれるかな?
ここは、もっともらしいことを口にしておこう。
「えっと……修行だよ」
「修行ですか!?」
「ほら、その……そう! あえて人間の姿をとることで、力をうまく制御する方法を学ぶの! なんていうか、ギプスみたいな? あんな感じ!」
「なるほど! そんな修行があるなんて、盲点でした。確かに、それならば、より強い力を得ることができるでしょう。さすが、ルイフェさま!」
納得しちゃったよ……
自分で言っておいてなんだけど、いいのかな?
うぅ、ちょっと良心が痛む。
まあ、人間の姿になると、色々と苦労するのは確かだ。
その困難を器用にくぐり抜けることができたら、スキルアップに繋がるだろうから……ウソはついていないよね。うん!
そういうことにしておこう。
「じゃあ、クロエちゃんのところに帰ろうと思うんだけど……ついてこれる? その状態で、空は飛べる?」
「すみません……滅多に人間の姿になることはなかったので、飛行魔法はまだ習得していなくて……」
「なら、私が連れて行ってあげる。はい、手を繋いで」
「失礼します」
リリィと手を繋いだ。
飛行魔法の範囲を、私一人じゃなくて、リリィのところまで広げる。
「飛行」
ふわりと飛び上がる。
リリィは……うん。問題なく、一緒に飛んでいた。
「誰かと一緒に空を飛ぶなんて、初めてだからちょっと緊張したけど……うまくいってよかった」
「ルイフェさま? もしも、我が落ちていたら、どうされるつもりだったのですか?」
「……」
「ルイフェさま? その沈黙は……?」
「冗談だよ。絶対に成功する自信があったから、大丈夫!」
「本当でしょうか……?」
「師匠の言葉を疑うつもり?」
「そ、そんなっ、滅相もありません! 失礼な口をきいてしまい、申しわけありませんでした!」
罪悪感が、さらにプラスされていくよ……
ごめんね、リリィ。
今度、真面目に強くなる方法を考えるから、それで許して。
「じゃあ、いくよ」
リリィと一緒に、空高く舞い上がる。
島が小さくなるくらい飛翔したところで、くるっと方向転換。
クロエちゃんが住む街に向けて、空を移動する。
「ところで……リリィさん、って呼んだ方がいいのかな?」
「えっ!? ど、どうしたのですか、突然」
「だって、私より年上だよね?」
「おそらくは」
「いくつ?」
「303になります」
ものすごい年上だった!
まあ、竜族の平均寿命は三千って言われてるから、リリィはまだ若い方だ。
「私、10歳になったばかりなんだけど……」
「そのようなこと、気にしないでください。我は、ルイフェさまの弟子。師が弟子にどのような口をきいても、問題はないでしょう」
「でも、リリィって伝説のエルダードラゴンなんだよね? 伝説の存在が、10歳の女の子に呼び捨てにされて、周りに対する示しはつくの?」
「我は、孤高の存在故、他のドラゴンとの関わりはあまりありません。なので、ルイフェさまがそのようなことを気にされることはありません。呼び方などは気にせずに、我は、ルイフェさまの弟子なのですから」
「うーん……じゃあ、呼び捨てにさせてもらうね」
その方が距離が縮まるかもしれないからね。
もっとも……
『弟子』としてかしこまるリリィを見ていると、友だちになるのは、なかなかに骨が折れそうだなあ……なんて思ってしまうのだった。
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