10話 魔王VSドラゴン・2
「は?」
ドラゴンがぽかーんとした。
「私、本気を出してないの。だから、勘違いさせてごめんね」
「ふっ……ふははははは! そのような負け惜しみを口にするか。くくくっ、我が絶大な力に恐怖し、己を偽ることを覚えたか? だが、悔しがる必要はないぞ。我は、天地万物を統べるエルダードラゴン也。魔王程度が、我に敵うわけがないからな」
「えっと……」
このドラゴン、話を聞いてくれない。
やっぱり、脳筋なのかなあ……?
というか、ウソはついてないんだよね。
力が強すぎるから、普段は、リミッターをかけてるんだ。
そうでもしないと日常生活がままならない。
水道の蛇口を文字通り捻り潰したり、ドアノブを引っこ抜いたり、ぽんと手を置くだけで相手がものすごい勢いで吹き飛んだり……
『魔王の力』に目覚めてからは、そんなことばかり続いて、大変だったことを覚えてる。
なので、力を制御するために、本を読み漁り、リミッターをかける方法を学んだんだよね。
以来、いつでもどこでもリミッターをかけるようにしてる。
リミッターかけたままでも、けっこうな力を発揮できるんだけど……
それじゃあ、このドラゴンには勝てないみたい。
なら……やるしかない。
「見てて。今、リミッターを少しだけ解除するから」
「くくくっ、まだ言うか。小娘よ。今なら謝れば許してやらんことも……」
「一部解除!」
「っ!?」
ドラゴンの言葉が途中で止まる。
気づいたんだろう。
私の体からあふれる魔力が、何倍にも増したことに。
「なっ……ま、まさか……そのようなことが……」
「いくよ!」
「くっ!」
魔法で空を飛んで、ドラゴンの元に駆ける。
速度は三倍くらいかな?
そのままの勢いで、ゴンッ! とドラゴンの頭を殴る。
「ぐおっ!!!?」
苦しそうにうめいて、ドラゴンが墜落した。
力も増しているから、相当に痛いはず。
よし、効いてる!
なら、このまま追撃だ。
「重力よ」
ブゥンッという音と共に、見えない圧力がドラゴンにのしかかる。
ドラゴンの周囲だけ、重力を10倍にしてみた。
これなら、自重を支えるのも辛いはず。
「ば、バカなっ……重力制御だと!? そのような魔法、聞いたことが……ぐうううっ! き、貴様……どこで、このような魔法を……?」
「えっと、人間の書いてる本にこういうシーンがあって、すごくかっこよくて……私にもできないかなー? って試してみたら、できた!」
「そんな適当あってたまるものかあああああぁっ!!!」
なぜか怒られた。
理不尽だ。
「グォオオオオオオッ!!!」
「うわっ、気合で魔法を跳ね除けたの? すごいね」
「この我が……全てを統べるエルダードラゴンである我が、貴様のような小娘に負けるなど……そのようなこと、あってはならぬ! くらえっ、ルナティクス・ブレスッ!!!」
地面に立つドラゴンが、天を貫くように、空を飛ぶ私にドラゴンブレスを放つ。
迫る破壊の光。
でも、これくらいで慌てていたら、魔王は務まらない。
……まあ、まともに魔王らしい仕事をしていないから、元々務まっていないのかもしれないけど、それは言わないで、ということで。
「盾よ」
魔力の盾を展開して、ドラゴンブレスを防いだ。
わりと、あっさりと防いだ。
「なぁっ!!!?」
「これがあなたの必殺技だよね? もう打つ手はない?」
「ば、バカな……このようなこと、ありえぬ……」
「おーい、聞こえてるー?」
「夢だ……これは悪い夢だ……夢に決まっている……」
「聞こえてないかー。仕方ない。きついの一発、いこうかな」
闘争心を満たしたい、って言っていたし……
それに、乙女の肌を見られた恨み、晴らさないと。
「風よ」
魔法で風を操作して、私はさらに高く舞い上がる。
高く。
高く。
高く。
そして……ドラゴンが豆粒ほどの大きさになったところで停止。
くるっと反転して……
急降下!
上から下へ。
巨人が鎚で叩きつけるように。
直上からの極撃の蹴撃を叩き込む!
「えいやっ!!!」
ゴォオオオオオオオォッッッ!!!!!
大地が震えた。
地面に特大のクレーターができた。
私の必殺の一撃……ただの勢いをつけた蹴りなんだけどね……を受けたドラゴンは、くるくると回転して吹き飛んだ。
ドーン、と頭から地面に落下。
そのまま気絶したらしく、完全に目を回していた。
「えへへ。私の勝ちだね、ブイ!」
とりあえず、勝利のブイサインを決める私だった。
――――――――――
「えっと……これがエリクシル草だよね?」
しばらく待ってみたんだけど、ドラゴンはなかなか目を覚まさなくて……
待ちきれなくなった私は、勝手にエリクシル草を採取することにした。
勝負に勝ったから、問題ないよね?
本の知識を元に、七色の薬草を採取する。
「それにしても、たくさん生えているんだね」
森に入ると、あちらこちらにエリクシル草が生えていた。
なかなか見られない光景だ。
まあ、伝説のエルダードラゴンの住処となれば、あふれる魔力の影響で、エリクシル草が大量に生えても不思議はないか。
感謝、感謝。
「これで十分かな?」
念のために、少し多めにエリクシル草を採取して、森を離れた。
もっとたくさん採取して、街で売れば相当なお金になるんだろうけど……
いつかまた、必要になるかもしれないし、必要な分だけに留めておこう。
「そろそろ起きたかな?」
戦いが終わって、それなりの時間が経った。
そろそろ目を覚ましているかもしれない。
てくてくとドラゴンのところに向かう。
「エルダードラゴンかあ、強かったなあ」
リミッターを解除しないといけないなんて、初めてだ。
お父さんが相手でも、リミッターをかけたままでも十分だったのに。
まあ、お父さんも、娘相手にいきなり本気は出さないだろうから、あれが全力じゃないと思うけどね。
それはともかく。
伝説上の存在と思われていたエルダードラゴン。
すごく貴重な存在だ。
できれば、仲良くなりたい。
友だちになりたい。
珍しい、っていう理由もあるんだけど……
それよりも、このドラゴンとならうまくやっていける、っていう直感を覚えたんだよね。
クロエちゃんと出会った時のような感覚。
友だちになれないかな……?
「むぅ……」
「あっ、起きてる。おーい、体の調子はどう?」
ドラゴンは目を覚ましていた。
近づいて声をかけるけど、反応がない。
「もしもし? どうしたの?」
「むううう……」
「あっ、もしかして、勝手にエリクシル草を採取したから、怒っちゃった? でも、私が勝ったから……あ、勝ち負けの問題じゃないんだっけ。戦いに満足することができたら、っていう話だったっけ」
「……」
「ご、ごめんね。早とちりしちゃって……でも、あれだけ派手に戦ったんだから、満足した……よね? もしかして、していない? だとしたら、私、すっごい困ったことに……」
「……我は十分に満足した。エリクシル草は好きにしていい」
「ホントっ? ありがとう!」
「ただ、条件がある」
「え? まだなにか?」
「魔王ルイフェよ……いや、魔王ルイフェさま! 我を弟子にしていただきたいっ」
「……はい?」
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