第一章 3 「真神」
私は新田智和を殺した。
初めて人を殺したが残った感触はこれから始まるであろう異世界生活への期待によるワクワク感で後ろ向きな気持ちは全くなかった。
彼を体育館裏の地で少しぬるくなったコンクリートの上に置いたまま家路についた。
夜になると窓には赤色灯の灯りがちらつき、この街にいったいどれだけのパトカーがいるのだろうかというくらい忙しなく騒音が鳴り響いている。
いつもなら鬱陶しいと感じるこの音も今は心地よい。
私はいつか母親に歌ってもらった子守唄を聞いているような心地で眠りについた。
--ふと、目を開けると私は『そこ』にいた。
ここに来るのはこれで二回目だが、やはり自分に実体がないというのは慣れない。
そして目の前にこの前と同じあの『女』がいた。
「こんばんわ千穂さん。えっと…昨日ぶりですね」
こんばんわ、えっと…
「そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね…私はシンジンといいます。いちおう神様的なことをやっています」
シンジン…?そうだろうなぁとは思っていたけどやっぱり神様でしたか。
ちなみになんの神様か聞いてもいいですか?
「簡単に言うと真実の神です。シンジンという呼び方は真実の真と神から来ています」
なるほど…真実の神様ですか。二つ質問いいですか?
「なんなりとどうぞ」
ありがとうございます。
では、真神さま…真神さまは時には嘘をつくことも必要だと考えますか?
「私は必要だと思います。なにも真実を言い続けることが良い結果を生み出すとも限りません。
時に嘘は真実よりも真実になりうることができます。なので一概に嘘は悪というのは言えませんね」
なるほど。そう……ですよね。
では、もう一つの質問です。
なぜ新田くんを私に殺させたんですか…?
「彼は嘘をつき続けてきていたことで、自ら死を選ぼうと考えるくらい自らの嘘につぶされていました。嘘を守るために嘘をつく。彼の嘘は真実になりうることのない悪い嘘ばかりでした。なので一旦リセットしてこちらの世界でやり直してほしいと思ったのです」
その…新田くんは今どうしているんですか?
「生まれ変わりを果たして今異世界に赤ん坊として生まれたところですね。自分の置かれた現状を把握したようです。さすがですね」
さすがなのかなぁ…新田くんのことはわかりました。では自分はこれからどうなるんですか?
新田くんと同じように赤ん坊からですか?
「えぇそうなります。あなたは新田智和が生まれ変わった家のお隣で生まれてもらいます。そして彼と一緒に生きてください。」
彼と一緒に?
「はい、そして15歳になったら王都で、ある女の子と接触してください。そこからがあなた達の物語が始まります。」
ある女の子…名前はなんていうんですか?
「そこまではいえません。私から伝えられる情報はすべて渡しました。二度目の人生謳歌してください。」
知りたいことがまだまだあるけど分かりました…
二度目の人生頑張ります!
また…会えますよね?
「えぇ、いつか…」
そうシンジンが告げると、途端に視界が歪み真っ暗になり意識が消滅した。
──
目を開けると聞いていた通り赤ちゃんになっていた。
周りが柵で囲われた立派なベッドで寝かされていた。
だが、どうも様子がおかしい。産まれたばかりの赤ちゃんをほっぽり出して誰もいないのだ。
そんな状況に少し動揺していると頭の方にある扉から怒号が聞こえた。
身をよじり音の方に顔を向けると少し開いている扉から見えたのは、一匹の熊と馬を合わせたような背たけは1mほどだろうか少し小ぶりな赤い毛をした獣だった。
少しするとさっきまでの怒号が嘘のように静まり獣が部屋の中で何かを引きずっているのが目に入った。
人間の腕だった。
獣は赤い毛ではなく返り血を浴びて赤く染まっていたのだ。
それに気付いたとき自分は、次は私がやられるとなぜか自然にわかった。
だがこんなところでやられるわけにはいかない。
折角つかんだチャンスなのだ。一匹の獣になんかに無駄にされたら死んでも死にきれない。
そしてどうあの獣から逃げるかを考えた。
だがどれもこの赤ちゃんの身体では実行できない。
どうする…なにか…なにか…!
すると生暖かい風が頬を撫でた。
その方向を見るとあの獣が柵を挟んですぐ横まで来ていた。
この獣を刺激するのは良くないと分かっていても迫り来る死の恐怖に耐えられず失禁し泣き叫んだ。
そして遂にその時は来てしまった。
獣が柵を壊すことに成功してしまったのだ。
私は目を瞑った。
確実に迫ってきている「死」は数秒後に来るだろう。
どうやって殺されるのかな…喉を掻っ切られるのかな…それともゆっくり噛みちぎられていくのかな…怖いな……
新田くんも私に殺された時はこんな風に恐怖したのかな。悪いことをしたな…こんな思いをさせたなら謝りたかったなぁ……
その時だ。
「エル・ラーニャ!」
その声に目を開けると横にいた獣は壁際に吹き飛ばされ飾りの剣に突き刺さって死んでいた。
そして声の主は死んだ獣の方にはひと目もくれずこちらに駆け寄ってきた。
「ティナ…よかった無事で…」
そう言うと壊れてしまった柵に手をかけて泣きだした。
私もこの人が誰だか分からないけど「死」の恐怖から解放されたと分かり安心感とさっきまでの恐怖で泣き叫んだ。
こうして私の異世界生活は始まった。
ほんと小説書くの難しいですね笑
頑張ります(っ `-´ c)マッ‼