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六つの運命  作者: 柿音
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第4話「他国」

第4話



「リリア。大丈夫だった?」

ルミーナはリリアの結果を早く知りたくて焦っていた。バジビアの町の宿。一つのある部屋。メイラとルミーナ、アリマと、そして、リリア。4人がこの部屋に居たのだ。

あの、工場事件の後、リリアは王族達に今回の件に関しての報告をしなければならなかった。なのでリリアとメイラ達は「バジビア」で、また合流することにしたのだ。リリアは全て報告をするらしい。他の者達に助けられたことを…。


「本当に、その、言うの…?」

ルミーナは心配そうにリリアに問いかけた。ハーライド工場からもう外に出て、4人、工場の目の前に立っていた。もう工場に入った時から、かなり時間が経っていて、空はオレンジ色に光輝き、夕陽が差しこんでいた。その夕陽は、メイラ達を明るく照らす。

ルミーナは恐れていた。リリアに何かあったらどうしよう。そう思うと、心臓がバクバクなって、心の底から苦しかった。

「言うよ。事実だもの。私は嘘をつかない。そう、決めているの…。」

リリアはその強い瞳で囁く。

「私は、嘘をつきたくない。自分に甘えているのと同じだと思うから。私は、今の私の実力を、しっかり、王族に言う。」


「心配してくれてありがとう。ルミーナ。それに、メイラ、アリマ。」

はぁーと、ため息をつくと、ルミーナは話を続ける。

「私に、チャンスをくれたの。もう一回、命令をもらった。」

リリアはそう言うと、ルミーナ達を見つめる。この、透き通るような、青い瞳で。決心したかのように。

「私に与えられたのは、「私を助けてくれた者の、手助けをすること。」」

「「「!」」」

その言葉に3人は驚きを隠せないでいた。

「お願い!私もあなた達の旅に連れてって!つらい旅でもいい!私はあなた達の役にたちたい!貴族に端の者としてじゃない!人間として!リリア・ルーラとして!お願いします!」

リリアは頭をさげながら、叫んだ。今にも泣き出しそうな声で。

少し経った。リリアは”ダメか”と、そう思った。返事が怖い。怖くて、全身が振るえる。強く握られているその拳も、小刻みに震えていた。

その時だ。

「!」

リリアのその拳に温かいぬくもりが重なった。

「そんなお願い、」

ポツリ、涙を流しながら、ルミーナは口を動かす。涙が止まらない。でも、嬉しくて。嬉しすぎて。

リリアはその言葉にゆっくり顔をあげる。ルミーナはニコッと、笑いながら言った。自分の思いを。叫んだ。

「いいに決まってるじゃん!」




完全に運命は4つ。繋がった。残りは…。





「そういや、」

宿の部屋で、4人は話している。急に言葉を言い始めたのは、リリアだった。リリアはルミーナと一緒にベッドの上に座っている。メイラはドアに寄りかかって立っている。アリマも、壁に寄りかかって立っていた。今は春の終わり頃。もう外は暗く、部屋の窓からは、太陽の光が反射する下弦の月が、この世界を照らしていた。今日はとても綺麗な夜だ。

「みんなアルリア人なの?」

「!」

その言葉に鳥肌がたったのはアリマだ。よくよく考えてみれば、自分はユルエリア人で、その国の王子。リリアはアルリアの、端だが、一応貴族。他国の王族と貴族がこう一緒に旅をする。アリマは思う。自分はアルリアも、自分のユルエリアも、救いたい。だけど、リリアはどう考えているか分からない。もし自分がユルエリア人だとリリアが知ったらどう思うだろう。どんな反応をするだろう。受け入れてくれるかな…?それとも、やっぱり…。

「みんなアルリア人に決まってるじゃん。」

ルミーナが焦ってリリアに伝えた。

「そ、そうだぞ。リリア。」

メイラも、ルミーナも、かなり焦っていた。

もう気づいている。貴族に自分の存在を明かしてはダメなんだと。アルリアとユルエリアの存在。差別。そんなもの、分かっている。でも、それでも、俺は…。

「リリア。」

ポツリ、赤髪の青年は口を開いた。その一言で、部屋はシーンと、静まりかえる。

「どうした?アリマ。」

リリアは首をかしげ問いかけた。アリマは壁から背を離し、リリアの目の前へと立った。そして、ゆっくり口を動かそうとする。少し戸惑い、そして、足が震えた。でも、それでも、言うべきだ。このことは…。そして、”今俺が気になることも、伝えたいことも”、全て言うべきだ。

「俺はユルエリア人だ。」

「!」

リリアは目を丸くして疑う。

「ユル・・・エリア・・・人・・・?」

まだ理解ができてない状態だった。リリアは震えて、その言葉を囁いた。

「俺は、俺のフルネームは、アリマ・ルツ・ステーブ・ユルエリア。ユルエリアの第2王子だ。」

アリマは自分の正体を明かした。リリアはアリマを見て、ゆっくり口を動かした。

「ユルエリアの王族なのに、どうして「バジルビア」を簡単に通ることができたの…?」

リリアは冷静にアリマへ問いかけた。アリマも、怖いという感情を、表にださぬよう、冷静に答えた。

「ユルエリアの王族の顔なんて、アルリア人やユルエリアの一般人は見たことないよ。だから気づかれないし、あと、少し質問したいんだ。リリアに。」

「何?」

リリアがそう言うと、アリマは話を続ける。

「アルリアは、一般人に嘘を言ってるだろ。」

「嘘?嘘なんて、」

「ユルエリアの貴族、王族のことで、嘘のことを言っていると、俺は思う。」

「どうして?」

リリアは目の前で立っているアリマを、ベッドに座ったままの状態で、下から少し睨んだ。アリマはそのリリアの青いサファイヤのような瞳を、見つめて、先ほどの話しを続ける。

「ユルエリアは、代々、赤い髪に緑の瞳。こんな有力な情報があるというのに。なぜ、アルリア人は何も俺を見て反応しないか不思議だったんだ。一応、髪を隠すためのフードが、この服にはついてるけど、」

アリマは右手で、後ろについてるフードを持ち、リリアに見せた。

「俺はここに来るまで、フードを一切つけていない。だから、きっとユルエリアの貴族、王族は赤い髪の緑の瞳。と、いうのではなく、違うことを教えている。かな?」

アリマはそう言うとメイラとルミーナの方へ、顔を動かす。

「メイラ、ルミーナ。2人も、どうして赤い髪と緑の瞳がユルエリアの王族だって分かったの?」

メイラとルミーナの表情が変わった。焦っているような表情だ。前々から気になっていた。どうして2人はユルエリアの髪と瞳を知っていたのだろうかと。

「大丈夫だよ。今話したくないなら。でも、いつか聞かせて。」

アリマがそう言うと二人の顔は少し和らいだように見えた。アリマは微笑むと、一瞬にして目つきが変わり、リリアを見つめる。

「今俺が不思議に思っていることはそれだけ。そして、君達のこのアルリアに俺は何も被害を与えない。いや、与えたくない。」

アリマは数歩後ろへ下がり、3人の顔が見える位置まで下がると、ピタリッと、止まった。

バサッ。

アリマはその頭を下げた。

「俺も、ユルエリア人だけど、一緒にいさせてほしい…!」

その姿に3人は驚く。

ポツリポツリと、青年の下に温かい液体が溢れ落ちるのが見えたのだ。しっかりしたその肩は小刻みに震えていた。

リリアは思う。どうしてこんなにも、震えてるの?どうして、あなたは、他国の者だと言うのに…。どうしてあなたは…。

「アリマ。アリマのいうとおりだよ。」

リリアはポツリ、呟いた。ゆっくり立ち上がり、アリマの目の前へ立つ。

「顔を上げて。アリマ。あなたの方が確実に身分は高い。」

「んっ……。」

アリマは恐る恐る、顔を上げた。その姿に少しの驚きがあった。だって、悲しそうな顔を、君はするんだもの…。

リリアは下をうつ向き、ゆっくり口を動かす。

「アルリアの一般人には、ユルエリアの貴族は緑の髪、王族は自然の草々のような緑の髪に暗く、漆黒の光をもつ、紫の瞳だと。そう言っているわ。」

アリマは、”やはり嘘を”

そう心の中で呟く。

「俺てきには感謝している。ここに普通にいてもバレないから。俺はただ、俺が認めてほしいのは違うんだ。」

アリマは力強くリリアのその細く、白い右腕をつかんだ。

「!」

リリアは驚き、顔を上げ、目を丸くして、アリマを見つめる。

「君に、君達に許しがほしいんだ。」

「!?ゆ、許し…?」

リリアはあまりに理解できなく、アリマに問いかけることしか出来なかった。

「俺は、君達の国を一度壊してしまった暗殺団に所属をしていた。いや、暗殺団と名乗っているが、なんか違う。あんなに事を大きくしてしまった。3人の王子達にも、申し訳ないと思っている。俺は、このことについて許してほしいとは思ってない!ただ、ただ、一緒にいていいかどうかのことで、許しがほしいんだ…!」

アリマは思い思いに叫んだ。

アリマは今思っていることを全て打ち明けた。本当のところ、怖かった。返事が。自分は3人とは違う。3人とは違う国の者なのだ。何もかもが、違うのだ。俺なんかが、ここにいちゃ。

”俺は君達が思っている以上に、いい人ではない”

「そんなことで、悩んでたの?」

「!」

アリマが思っていなかった言葉が、アリマの耳には入ってきた。どうして。どうして、それだけなのか?君が俺に言い返すことは。本当にそれだけか…?

「そ、そんなことって…。」

「そんなことだよ。私は、他国だって関係ないと思ってる。私は、アリマが悪い人には見えない。」

「り、リリア…。」

アリマは今にも泣きそうな声で、彼女の名前を囁いた。

「私も、差別なんてダメだと思ってる。私はアリマに嫌なこそはしないよ。私は、あとで後悔するようなことはしたくないの。“後悔は苦しいから…”」

少し下をうつ向き、声のトーンが低くなった気がした。気のせいだろうか?

「アリマ。これから王族とか、貴族とか、関係なくて、平等に接してほしい。私は、アリマと、もちろんメイラとルミーナ。最高の仲間でありたい。だから、」

リリアはその細い右手をアリマの前に出す。

「私と一緒にいて。私をアリマの側にいさせて。」

「!!」

アリマの心の中で何かが動いた。“自分の側にいさせて” ”私と一緒にいて”

そんなこと生まれて初めて言われたからだ。

あの頃の記憶がよみがえる。父上と母上。そして兄上。全てが遠い過去のように思える。血が繋がった者からも、こんなことを言われたことないのに。ここで、こんなに嬉しい言葉を聞けるなんて…。

リリアの姿がぼやける。目に何か透明な液体がたまっているからだろうか。その液体はポタリッ。頬にかかるように落ちる。少ししょっぱい透明な液体。アリマは彼女の瞳をまっすぐ見つめ、こう言うのだ。

「ありがとう。」」

その細い右手をアリマは優しく握った。アリマはその一言を、静かに。ゆっくり。心を込めて。感謝をこめて。

生まれてきて良かったと思った。




「隊長。」

少し低めの男の声がその部屋には響いた。その男は、誰かの前へ立っていた。その目の前の男は夜の漆黒の影で、顔はよく見えなかった。“隊長”と言葉を発した男は目の前の男に何かを言おうとしていた。優しくサラサラとした緑の髪は肩につこうとしている。緑の髪の男はその明るいイエローダイヤの瞳。な、はずだ。しかし、そのイエローダイヤには、暗闇しか持っていなかった。

「なに者かが、動いている用です。」

その声はトーンを変えず、彼は無表情で目の前の男に囁いた。

「なるほど…。」

影がかかっている男は、静かにその低い声で呟いた。

以前、コメありがとうございます。参考にさせていただきます。

誤字脱字がありましたらすいません。

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