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私と一緒に一生に

作者: 軽銀

 



 私と一緒に遊びましょ。

 私と一生に遊びましょ。

 私は私と遊びましょ。


 一人遊びが大好きな私と一緒に遊びましょ。










 あの子はいつも笑っている、笑って、私に話しかけている。とても可愛くて、可憐で、同じ血がながれているとは思いたくもないくらいに尊敬の対象だ。彼女が笑えば皆も笑い、皆が笑えば彼女も笑う、軋みもなく需要と供給が成り立っている、天秤の釣り合いが取れている証拠。

 皆の中心の彼女。誇らしい彼女。彼女すら全国に一人いれば、世界平和も夢ではないんじゃ……と思ってしまうくらいに、私達は平和だ。

 中学校、中学校で彼女は変わった。ニッコリと不得意そうだった笑みが、中学生になって自然で緩やかな笑みを出来るようになった。そのまま皆の支持を中学校、高校と集め続けている。

 疲れないのだろうか、家族として不安に思っていたが彼女の笑みの前ではかなわなかった。


「お菓子美味しい!! ケーキも美味しい!! コンビニスイーツ最高!!」


 とても美味しそうに、彼女は机の上に並んだ数々のスイーツを頬張っている。菓子クズを一つもこぼさずに、綺麗に、幸せそうに頬張っている。


「昼食の後によく食べられるものだ……スイーツは別腹ってか?」


 そう。彼女は昼食を平らげた後にスイーツを食べている。一つや二つではなく、三つ四つ五つ、どれだけ食べるのかお前の胃袋は大丈夫かと、胃袋の心配までしてしまうほどの量を幸せそうに食している。彼女の友人一人がそれを心配し、呆れたようにそう言った。

 むふっとドヤ顔するのはいいが、両手にスイーツを持っているその状態では尚更滑稽だ。


「スイーツはお口直し!! そのお口直しのお口直しにスイーツを食べてたら、いつの間にかこの量だよ。参ったねどうも」


 コロコロと変わる表情も愛おしい可愛らしい。自嘲気味の笑みを浮かべつつもスイーツを頬張るその様がまた、母性を酷くくすぐった。


















 深夜1時。トイレに目覚めた。

 暖かい布団から這いずり出るのはとてもきつい……寒い。ブルッと刺す寒さに身体を震わせ、トイレに向かう。向かう途中、ドアの隙間から差す光が、彼女がまだ起きているのだと分かった。

 用を足し、キンキンな水で手を洗っていると、彼女がキッチンに向かっていくのが見えた。彼女は夜食をいつもしているから、今日もまた食べるものを探すのかな、と気にも留めず、暖かい布団を求め自室に戻った。









「なんだぁ? 今日はマカロンとクッキーだけか?」


 昼食を終え、いつものようにスイーツを取り出した彼女に、友人が話しかける。様々なスイーツが満遍なくあった昨日とは違い、今日は色とりどりのマカロンと香ばしく甘い匂いのするクッキーだけだった。

 そういう気分だったから、と笑ってかじかじ頬張る彼女はまた美しい。





 深夜0時。小腹がすいたのでキッチンに向かう。

 珍しく勉強をしていた今日は、どうにも小腹がすいてしまったので食べ物を探しに行った。と、先客がいたようで。

 彼女はお菓子を入れている棚から取り出し、机の上に広げこれまた可愛らしく食べている。私に気付いた彼女はパァッと顔を明るくし、隣の椅子をポンポンと叩き座ることを促した。


「珍しいねー、夜食なんて」

「勉強をしててね……お腹空いちゃった」


 彼女とお菓子を楽しく啄ばんだ。


 ーーいつもよりも、一層と美味しく思えた。







 少し肌寒い朝、休日土曜日。

 朝食のトーストは、彼女はチョコにイチゴジャムを塗って、私は普通にバターを塗った。サクサク。


 昼食。ゲームで対戦して見事に負けてしまい、今日は私が昼食を作ることになった。取り敢えずうどんあるしうどんでいいや。

 うどんに七味をかけて二人で身体の中から温まった。というかむしろ暑いかもしれない。


 夕食は食べに出かけた。そこでもやはり彼女は、しっかりと食べた後にスイーツ全種を平らげた。見てるこっちは、ちょっと……吐きそうだった。

 そうして土曜日が終わろうとする。

 家に帰り、久々に一緒にお風呂に入った。湯船に一緒に入ったはいいけど、結構きつかったのはなんとも……。それはそれで、彼女と笑い飛ばした。

 むふふと笑う彼女は、とても楽しそうだった。





 深夜0時。

 彼女の夜食は止まらない。夕べにあれだけ平らげてまだ食うのか、よく飽きないなぁ……と感心してしまう程に頬張り、舌鼓を打っている。

 これだけ食べて菓子のストックは減らないのかと不思議に思う人もいるかもしれないが、彼女はバイトをしている。そしてそのバイト代が、殆どスイーツに溶けている、と言うわけだ。

 私にお金を借りたこともなく、健康を維持したまま欲望のままにかっ食らう彼女が、やっぱり羨ましい。


 寒いのかある程度を平らげると、まだあるお菓子を自室に持って行くと言い二人して自室に戻った。少し冷えた布団に身体を潜り込ませ寝ようとすると、チリッとした違和感を感じ、身体を起こした。虫の知らせだろうか、不安になってきた。

 私は彼女の部屋のドアを開けた。


 びっくりした表情で固まった彼女が可愛らしい。でもそんなことは今どうでもいい、可愛らしい人形をまた可愛らしい彼女が抱き締めながら、お菓子を頬張っている。


 泣いている彼女も可愛らしい。























 酷く後悔した。一緒にお菓子を食べながら、赤裸々に語り始める彼女の顔は、苦しそうに笑い、しゃくりあげ、中学校のそれによく似ている。





 冷え性気味の彼女の身体を、人形ごと抱き締めて、絞り出すように囁いた。





「私がいるから」





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