プロローグ.犬丸の場合
とある星のとある山奥での出来事。
そこには顔に火傷と傷を負った青年『剣崎犬丸』と。
「くそ…こっちは崖か…」
「私のせいなのですよ…私を置いていってあなただけでも…」
その犬丸におぶられている少女『九重ナギサ』がいた。
彼らはとある人物から逃げている…というより逃げなければ行けない状況になった。
遡ること10分前、犬丸が偶然訪れたお寺で、ナギサと血塗れの男がいた。
その男の後ろには原型のわからない死体が積まれていた。
犬丸はすぐにナギサを連れて寺から脱出し、山を降りて生き冒頭へ。
「バカ言うな、ほっといたらお前も殺されるぞ!…しかし…」
犬丸はナギサを一旦下ろして辺りを見渡す。
「さっきのやつは…撒けたか…?」
「それはないのですよ」
ナギサがゆっくり立ち上がりながら言った。
「さっきの人は…寺の人達を全員殺すと言っていたのですよ…だから目の前で逃げた私は確実に仕留めるはずなのですよ…」
ナギサは怯えながら犬丸に言う。
犬丸は考える、自分にはやることがあるがか弱い少女を置いていく薄情者ではない。
寺に来たのもそのやることのためなのだが…。
「成り行きに任せるか…おい、歩けるか?」
「はい…なんとか…」
犬丸はナギサが軽くストレッチしてるのを見て少し呆れる。
その時だった、犬丸の傭兵としての感が働いた。
「ナギサ!走れ!」
その言葉と同時にナギサに弾丸が飛んでいった。
*
「…危なかった…」
犬丸はギリギリのところでナギサに飛んできた弾丸を腰の剣で斬った。
ナギサは犬丸に言われた通り逃げていく。
「あーあ、何してくれちゃってんの?」
声の主は左目に眼帯をした血塗れの男、日之影アズマ。
「…」
犬丸はアズマに向かって無言で剣を構える。
「無能力者の傭兵か…生憎俺は大金出されないと無能力者は殺さない主義なんで…」
アズマはナギサの逃げた方へ進む。
「…!?」
犬丸はアズマの横顔を見た瞬間に脳裏にとある記憶が過ぎる。
犬丸の家族が何者かによって殺された時の記憶。
犯人が誰かはまだ判明してない。
だが犬丸は犯人の横顔を見たのだった。
「お前が…」
「ん?」
アズマは犬丸を見た。
「お前が…親父を…」
犬丸の背中には羽の形をした小型兵器、ANSが2つ浮いていた。
「やる気満々か…しょうがない…相手してやる…」
アズマはローブの内側に仕込んだ日本刀を取り出す。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
犬丸がアズマに向かって斬りかかる。
「ANS2個持ちとはなぁ…」
アズマは気だるく犬丸の攻撃を避ける。
「じゃ、こっちの番」
隙だらけの犬丸の背中を刀背打で斬る。
「がっ…負けるか…!?」
犬丸はそう言った瞬間に刀を取り出しアズマを斬る。
「二刀ねぇ…その上ANS2個とは…」
アズマはそういうと刀で攻撃を弾き犬丸の頭を掴み、崖に投げ飛ばす。
「さてと、さっきのむす…」
「まだ…だぁぁぁ!」
犬丸はそう叫ぶとアズマの上空に移動していた。
「羽の形のANSだから予想は出来てたが…2個だとここまで速いのか…」
犬丸はその言葉と同時に落下し、回転を加えながら攻撃しにかかる。
「危なっ…くっ…」
アズマは犬丸の攻撃を受け、倒れ込む。
「しまったなぁ…油断し過ぎたか…」
「終わりだ…」
アズマの首元に刀の刃が当てられる瞬間だった。
「うっ…眩しい…これは…」
日之影アズマは殺し屋。
緊急時の時のために様々なアイテムを持っていた。
「今回は諦めよう…」
「ま…待て!?」
犬丸の目が光になれたころにはアズマはいなかった。
*
その頃のナギサは。
「あ、貴方達何者なのですよ…!」
ナギサは寺に戻り武器を取りに来たのだが、そこには白髪の猫耳少女のミィと白黒の斑模様のツインテール少女の赤木月光がいた。
「こ、ここは…」
「神の使いの集う寺なんでしょう?」
ミィがそう言った、しかし寺についてはほとんど知られることはないのだった。
なぜならこの寺の存在は世間からは抹消され政府の上層部しか知らず、犬丸の様に傭兵ならば元政府の上層部に頼まれて等はありえる話なのだが。
「あなた…盗賊…ですよね…」
ミィは世界的に有名な盗賊だ、しかし盗賊ならば余計この寺の情報が知られるはずが無いのだ。
そう、盗賊だけならば。
「…忍者の赤木月光さん…貴女も有名ですね…」
「…」
「まあ落ち着いて、今回ここに来たのはアナタに会うためなんだから、九重ナギサさん」
ミィがそう言い終わった瞬間に月光はナギサを鎖により拘束した。
「うっ…」
「すまない…逃がさないためにも拘束はさせてもらう…」
「やめ…て、ください…痛い、です…」
しかし月光は拘束を解かない。
そしてそのまま話は進む。
「私達に協力して貰えるかしら?」
「協力…ですか…?」
私に協力出来ることなんてないのですよ、そう言おうとしたが次の言葉に遮られた。
「敵討ちしたくない?」
「なんの、ですか…?」
「この寺に住んでた皆の…ね」
「…」
訳がわからなかった、寺の惨状を見れば分かることなのだがアズマがいた事など誰もわかるはずはなく、ナギサの暴走で納得してしまうはずなのに。
彼女は、盗賊ミィは私を疑わなかった。
「…なんで私がやってないと思ったのですよ?」
「どういうことかな?」
ナギサは説明不足だと分かり言い直す。
「なんで皆を殺したのが私じゃないと思ったのですよ?」
「見てたからね…全部」
見てた?どこから?などと考えるがその前に思ったのはこの言葉だった。
「本当に敵討ちをしてくれるのですよ?」
「ええ、協力してくれるのならね」
寺の皆はナギサにとっては全員が家族の様な物だった。
ナギサには許せるはずがなかった、だけど敵討ちなどナギサには出来るわけがなかった。
でも目の前にいるミィはナギサのために敵討ちをしてくれると言った。
それなら答えはこれしかない。
「…お願いするのですよ…」
*
「くそ!どこ行きやがった!?」
犬丸は下山する様に走ってアズマを探すが、この山にはもうアズマはいないのだった。
「あらあら、君が行くべきはさっきの寺だよ?」
「!?」
犬丸は声のする方向を見た。
そこには黒髪の不思議な雰囲気をした少女がいた。
「まあまあ、そう怖い顔しなさんな」
不思議な雰囲気の少女は犬丸に顔を近づけながら言った。
それと同時に犬丸は剣を抜刀しようとしたが。
「おっと、あぶないことはやめにしよう」
その言葉と同時に犬丸の腰に携えてた剣と刀が消えたのだった。
「なっ…お前、何を…」
「君は大きな戦争に巻き込まれるだろう、だけど安心しなさい、私が終わらせるからね…」
「何が言いたい…」
「なあに、ようするに君は傍観者になればいいのさ」
犬丸には何を言ってるか分からなかった、だが傭兵としての感が教えてくれる。
「お前はなんかヤバイな…」
「ふふっ…忠告が無駄にならないことを祈らせてもらうよ…」
不思議な雰囲気の少女はそう言うとどこかに消えたのだった。
「なっ!?どこに!?」
しかし犬丸は後でこの不思議な雰囲気の少女と出会うことになるが、それはまた別の話なのだった。