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リスト×リスト  作者: Noisy
7/7

リストバンド×トモダチ

 目を覚ますと、見慣れた天井が、少し離れた高い位置にあった。

 カーテンレールには生成の薄いカーテンがかかり、僕が横になっているベッドを囲んでいた。

 ここは、よく運ばれる病院。

 たしか、数日前にも、こんな感じで、父に怒られた。

 普段は離れて暮らしている父だが、あの時は、急いで仕事を切り上げて駆けつけてくれた。

 別に、そう大したことでもなかったのだから、あんなに慌てなくてもよかっただろうに。

 そのとき、ふと、あの時父に握られた手に意識を向けた。


 ──なにか、圧力を感じる。


 左手の上に、重ねられている。

 おそらく、人の右手。

 この体温は、父のものではない。

 父の手はもっと大きく、堅く、熱いから。

 この暖かい手は、誰のものだろう。

 看護師さんが手を握っているなんて、よほど重傷だったりしないと有り得ないんじゃないかな。

 ゆっくりと瞬きをして、顔の向きを変え、左手に眼を向ける。


 そこには、僕の左手に両手を重ね、うつらうつらと船を漕いでいる彼女が──あのリストバンドの女生徒がいた。

 もちろん驚いた。

 だが、なぜか納得してもいた。

 心のどこかで、この温もりは彼女だと察していたのかもしれない。

 彼女は眠そうに、背を曲げている。

 その顔の目元は、心なしか少し腫れているように感じた。

 一際大きく傾き、ハッとしたように目を見開くと、両手に力を込め、こちらを向いた。


「……──痛いです……」


 その言葉は、静かな病室に響いた。

 小さな声でも、静寂を破るには充分だったようだ。

 今まで気付いていなかった、腕につながれた点滴の音も、共に響いた。

 大きく息を一つ吐いて、彼女は弱々しい声を絞り出した。


「──どうして……?」

「……?」

「どうして、また、あんなことしたの?」


 屋上から落ちたのは、もちろん故意ではない。偶然だ。


「──偶然です」


 その言葉を聞いた彼女の瞳からは静かに涙が零れる。


「嘘。」


 屋上は、人の目が届かない。

 監視カメラももちろんない。

 だから、ありのままの、素の自分が出せる。

 大声を出すとさすがにマズいが、僕の声は学校の敷地内ではどこでも掠れてでないから、大概のことはできる。

 だからつい、ハメを外してしまうのだ。

 生来の不注意な性分と相まって、怪我や青あざが絶えないが。


「その気がないんなら、どうしてあんなとこ行ったの?」


 その気(・・・)とは、どういった意味なのか、尋ねなくてもわかってしまう。

 別にそうなってしまっても構わないとは思っているが、進んでしようとは思わない。


「──行くのは自由でしょう?」


 数日前には彼女もそこにいたのだし。


「……そうだけど」


 何か言いたそうではあるが、うまい言葉が見あたらないようで、女生徒は口を開閉していた。


「……はい」


 そして何を思ったのか、彼女は目元を袖で拭い、鞄からリストバンドをとりだした。

 材質はいつも彼女がしているものと同じだが、その柄のものを彼女がしていたことはない。


「はいっ」


 差し出されたそれを前に意味が分からず首を傾げると、ズイッと顔の前まで持ち上げられた。

 それでも意味が分からず止まっていると、「左手をだして」と言われた。

 大人しく左手を出すと、手首にそれをはめられる。


「目測だったから、ちょっとキツいかな?」


 きつくも緩くもなく、何となく存在が感じられる。

 暖かい。


「これ……」

「あげるよ」

「なぜ……」

「友達だから」


 友達(・・)。その安っぽい言葉に、いったいどんな意味を、彼女は込めているのだろうか。


「あと、この間のお礼も兼ねて」

「この間……?」

「お昼ご飯を分けてくれたでしょう?」


 そういえば、絶対にお礼をすると彼女は言っていたっけ。

 そういうことなら、もらわない訳にはいかないか。

 最近接触がなかったのも、そのせいかもしれない。


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