ワタクシ×カノジョ
この後は完結まで定期的に投稿します。
結局昨日は共に朝食をとり、登校することとなった。
移動教室の際に廊下で会うと移動先まで後をつけてきて、帰りも教室の外で待っていた。
それをふりほどいて帰宅し、やっと一息つけると思ったらコーヒーを飲んでいる時に訪ねてきて、泊めてと言い出すのだ。追い返すのに苦労した。
いつもどおり公園へ向かおうと外にでると、あの女生徒が制服のまま庭で寝ていた。
……追い返し切れていなかったようだ。
風邪を引いたりしていないだろうか。
そう思ったら、咳が出た。
寝ている女生徒からではなく、僕から。
今日は寒い。
手に白い息を吐きかけ、軽く握る。
このまま彼女を放っておくわけにもいかないし、どうしたものか。
「あ……おはよう」
迷っていると、女生徒はムクリと起きあがった。
起こしてしまったようだ。
「……。」
無言で見つめていると、照れたように頭を掻き始める。
「ごめんなさい、眠くって、いつの間にか寝ちゃったみたい」
そして、髪に付いた枯れ草や砂埃を払いながら、笑みをつくって言った。
「──寒くないですか?」
大きめの声を意識して尋ねると、大丈夫だよ〜と言って肩を震わせる。
まだ陽がのぼる前である。本当は寒いのだろう。
『昨日から
そこにいるのですか?』
ポケットからメモ帳を取り出して、書いて見せた。
「ん?」
女生徒は近づいてきて、それを読んだ。
「夜までは覚えてるけど、気づいたら寝てたから、多分そうじゃないかな?」
人の家の庭で迷惑な……。
『家に入りますか?』
「エッ?」
『寒いのでしょう?』
「大丈夫だってば」
そう言って胸を張り、また体を震わせる。
……。
『庭にいられても
迷惑なので』
「ぇと、ごめん……。」
目に見えて、わざとかもしれないが俯き、落ち込んだ。
『それとも
帰っていただけますか?』
「お言葉に甘えておうちにあがらせてもらいます。」
そう言って丁寧に礼をした。
即答だった。
……家に帰るのがそんなに嫌なのだろうか。
私の知っている情報では、彼女の家庭はそれほど大きな問題を抱えていない。
もちろん、私の知らないような事情もあるのだろう。
今日は予定を変更し、朝のランニングは中止。
リビングに入って彼女を1人用のソファに座らせた。
エアコンやストーブの類は部屋になく、寒そうだったのでブランケットを渡したら、それを肩から羽織って両足を抱え込み、丸まった。
『シャワーでも
浴びますか?』
一晩中庭にいたのなら食事もとっていないかもしれない。
入浴もしていないだろう。
もちろん着替えも。
「それは悪いよ」
一晩中人の家の庭にいられて何かあったら気分が悪い。
正直にそのまま書いて見せると、彼女はわかった。と言って立ち上がった。
「ねぇ、だけど変なお願いしてもいい?」
嫌な予感がしつつも、無視はできない。
『何ですか?』
書いてみせるとやはり、
「一緒に入ってくれない?」
快くない返答だった。
「……子供じゃあるまいに」
だからその言葉一つを紡ぐのにも時間がかかった。
緊張にかき消されてしまう声の代わりに書き出すことも忘れ、無意識のうちに口からこぼれたその小さな呟きに、彼女は応えた。
「人間誰でも、誰かの子供だよ?」
その言葉には、なるほどと納得させられた。
それを紡ぎだした彼女の顔は、泣きはらした後のようにも見えた。
『そうですね。』
現在の時刻、午前4時37分。
『 では
一緒に入りますか。』
1人にしてはいけないような雰囲気を醸し出していた女生徒と共にシャワーを浴びた。
話しかけられても無言で頷くか首を振るだけの私に、彼女はおもしろそうに話しかけ続けた。
「まさか、本当にオッケーしてくれるとは思わなかったよ。
──君って、意外といい人なのかな?」
我が家では殆ど使われてこなかったドライヤーを使って髪を乾かす彼女の横で、私は無言でバスタオルを使って髪を無造作に拭いていた。
髪はしっかりと乾かした方がキューティクルによく、そのためにはドライヤーを使うべきなのは知っているが、面倒だ。
どうせ自然乾燥でもリンスを使わなくても枝毛など殆ど無いのだし。
私はすでに高校の制服を身につけている。
女生徒もなぜか着替えを持っていたようで、下着だけは変えていた。
時計を見ると時間に余裕がありそうだったから、洗濯機を回している。
「君はドライヤー、使わないの?」
反射的に頷くと、まだ暖かさの残る、髪を乾かし終えたらしい彼女の手が私の耳のあたりの髪に触れた。
「せっかくキレイなんだから、もったいないよ」
なにがだよ。とツッコみたかったが、声は思うようにでてくれなかった。
「さ、座って」
そして今し方まで彼女の座っていた椅子に座らされ、されるがままに髪を乾かされる。
嫌ではないのだが、くすぐったい。
湿った温風から解放されて、壁に掛けてあるアナログ時計を見る。
現在時刻5時58分。
だいぶ長くシャワーを浴びていたようだ。
今月の水道代は大丈夫だろうか。
リビングに移動して、声を出す。
女生徒は先にリビングに戻り、ブランケットを肩に羽織っていた。
「──朝食、食べますか?」
学校にいる間に出せない分、家で出しておかねば。
私は声を出すことが好きなのだ。
学校では緊張のあまり声がでなくなることが多々あるが、殆どいない親しい者との時間は普通に会話する程度ならばできている。
普段あまりにも声を出さないために時々発音を忘れそうになる。
いつもは朝のランニングの時に外でご近所さんと挨拶をすることでこなしている。
「……メニューは?」
眠そうな声が返ってきた。
「麦ご飯、野菜炒めと漬け物、油麩の味噌汁。ついでに酸化したコーヒー。
10枚切りでよければトーストも焼きますし、、インスタントでよければコーンスープなども作ることができます。
プレーンでよければヨーグルトやシリアルなどもあります」
彼女は何も言わない。
顔を向けると、眠そうだった。
「学校の用意は家に取りに帰らなくても平気ですか?」
僅かではあるが、頷いた。
「でしたら少し寝ていても大丈夫ですよ。」
もう彼女には意識がないようだった。
来客用の布団の中から毛布を引っ張りだしてきて肩に掛けてやる。
寒そうに引き寄せ、アルマジロのように丸まって眠るその姿からは、学校での彼女の振るまいが感じられた。
とりあえず7時までは彼女を眠らせておくことに決め、1人で食事をとった。ついでに弁当箱にも同じものを詰めていく。
……迷った末に、手のひらサイズの塩むすびを3つとつけものを袋に詰めて準備しておいた。
時計を確認すると、6時28分。
あと30分なにをしよう。
女生徒がいなければメモ帳の中を確認するのだが。