さらわれた野口さんを救い出せ!
か、か、か、空⁉︎
そんな!あんな短時間で盗まれるなんて。
まずい、風紀委員になんて説明したらいいんだ。こうなったら自腹で出すか。いや、確か俺の貯金は一万円。貧乏人の俺が三万なんて出せるはずがない。
頭の中がパニックになっている。
「………くん…」
「こ……くん…」
ん?何か聞こえる。
「古村くん!聞こえてるかい!」
目の前に吉田がいた。目の前にいたのに気がつかなかった。
俺はいったいどこを見てたんだ。
「どうしたんだい?帰ろうとしたらまた大きな声が聞こえてきて。それも生徒会室から。心配になって戻ってきたんだけど、声をかけても反応がないから立ったまま死んでるのかと思ったよ」
心配そうな顔で一気にまくしたてる。
どうやら、俺は数秒間死んでいたらしい。
「それにしても、何かあったのかい?」
どうする?言うべきか?ありえないだろうが吉田が、犯人の可能性もある。だが、俺一人で抱え込める状態ではない。
仕方ない。正直に話した後、断りを入れて体を調べさせてもらおう。
幸い吉田はバックなどは持っていない。
「実は、トイレに行った隙に風紀委員のお金を誰かに盗まれまして、それで…」
「えーーーーーーーー!」
今度は吉田が驚いた。
「盗まれちゃったのかい⁉︎」
「はい…。あの、疑うわけではないのですが、一応身体検査させてもらっても構いませんか?」
「ああ、それは構わないけど」
吉田も自分への疑いを晴らす為に了承してくれた。
今は6月、制服も夏用のシャツに薄手のズボンなので上から触ればすぐにわかる。
了承を得た俺は早速始めた。上から下まで丹念に触りまくった、なりふり構っていられない俺は大事な部分まで確認した。
まあ、あったのはあったが違うものだ。
「古村くん!もう良いだろう⁉︎」
流石にやりすぎた。だが、そのおかげで吉田が盗んでいない事ははっきりした。
「疑ってすみません。そういえば吉田さんは廊下にずっといたんですよね。誰か生徒会室に出入りする人は見ませんでしたか?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。
だが、吉田は首を横に降った。
「僕は生徒会室とは逆の方を向いていたからね、生徒会室に誰かが入った所は見ていないよ」
それはそうだ、吉田は生徒会室から出て歩いている途中電話がかかってきたのだ。
顔の向きは生徒会室とは逆側だ。
残念な事に俺は生徒会室のドアを開けっ放しにして出たので、ドアを開閉する音もしない。
「あっ、だけど僕を後ろから走って抜いて行った茶髪二人組なら見かけたよ」
トイレにいた一年生二人組だろう。
俺が脅したあと吉田の横を通り抜けて逃げて行ったに違いない。
まさかあいつら逃げる途中生徒会室に入り、俺への仕返しとして金を盗っていったんじゃないか?
「吉田さん、その横切っていった二人組はどこに行ったかわかりますか?」
「廊下を真っ直ぐ抜けて階段の方に行ったよ。一階の中庭にでも行ったんじゃないかな?」
こうしてはいられない。急いで追いかけてお金を奪い返えさなければ、俺が痛い目を見る事になる。
「俺は今からその二人を追いかけます。吉田さんは生徒会室に近い階段と、一棟と二棟を結ぶ渡り廊下を誰か通らなかったか調べて下さい」
犯人が茶髪コンビでは無い可能性もある。一応確認しておいた方が良いだろう。
二棟と三棟の渡り廊下は誰も通った人はいない。
二棟と三棟の渡り廊下の途中にトイレがあるのだが、俺が中に入った時から入口のドアを開けっ放しにしていた。
茶髪コンビは入口のドアに近いとこでタバコを吸っていた。
トイレの前を誰かが通ったら俺がすぐ気づく。
従って女子トイレから出てきて生徒会室のお金を盗る事は不可能だ。
タバコの注意をしていた時に窓から生徒会室が見えなかったのかと、読者から質問されそうだが、窓は目線より高い位置に取り付けられていて、開けるには背伸びをして開けなければならない。
「わかった、盗まれたのは皆のお金だ。僕も協力するよ!」
吉田は快く了承してくれた。
今はメガネをかけたさえない吉田の顔が神に見えてきた。
古村と吉田は生徒会室を飛び出した。
ここで反則かもしれないが皆さんに状況がわかりやすいように、俺が紙で書いた校舎の見取り図を見てもらおうと思います。
言葉で説明するのがめんど…
忘れて下さい。
ちなみに見取り図でいう生徒会室の下にある5個の教室は、机と椅子が普通の教室のように設置されてはいるが使用されていない。
生徒会がたまに使用したり、吹奏楽部が個人練習部屋として使用したりする。
吉田の話によると、茶髪コンビはトイレを出た後生徒会室の前を通り、吉田を追い越し音楽室の前の階段を降りて中庭に行ったようだ。
吉田は追い越された時生徒会室横の部屋の前に立っていた。
俺は二人を捕まえるために同じルートを使い、中庭に向かって走り出した。