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女王と道化師 (6月9日)

6月9日

会議から二日後の夕方。


皆それぞれお金を生徒会室に持ってきた。


会議があったその日のうちに持ってきた人もいれば、次の日の昼休みに持って来る人もいた。


おかげでいつお金を持って来るかわからないので、授業以外の時間は生徒会室にとどまり続けなければいけなかった。


こんなことになるなら時間と日にちの指定をしておけばよかった。


さらに困ったのはそれだけでは無い。


お金を俺に渡して出て行く風紀委員の姿を見た他の生徒達から「闇金の正信」と噂されるようになった。


確かに俺は多少強面だが、黒いジャージを着たらあのダンスグループのメンバーにいてもおかしくない程度の顔だ。


闇金とまではいかないはず。


「今では闇金の正信は学校で有名よ」


そう俺を馬鹿にしながら笑うのは生徒会のトップ生徒会長の鳴海杏子〈なるみ きょうこ〉だ。


現在生徒会室には二人しかいない。


生徒の自主性を重んじる我が七夕高校は生徒会の権力が他の学校よりも強い。


それは、生徒自身で学校を作り上げていくという理念のもとなのだろうが、そのおかげで一人の王を生み出してしまった。


いや、女だから女王か。


ロングヘアーでなんでも見透かしそうな透き通った瞳、眉は細く整っており、身長は女子にしては高い方だろう。


すれ違った人が一度は振り返ってしまうほどの美女で、噂では学校内にいる熱狂的なファンが6メートル先にいた杏子の姿を見て嬉しさのあまり気絶したという話も聞く。


あくまで噂だから真偽のほどは分からないが。火のない所に煙はたたない、それに似たようなことは事実あったのだろう。


それだけではなく、頭の出来も良くテストでは毎回1位、2位争い。


また、小さい頃から合気道を習わされているらしい。


まさに物語に必ず一人は出てくるような完璧人間である。


実際に物語に出てきているのだが、その事に関してツッコミを入れるのは勘弁していただきたい。


あまりの完璧さに生徒からは尊敬と憧れ、その容姿の意味を込めて「クイーン」と呼ばれている。


俺のあだ名とは違いなかなかかっこいい。羨ましい限りである。


実は俺を生徒会に無理やり入れたのは他でも無いこの杏子だ。


その理由は説明すると長くなるのでまたいつか話すことにしよう。


ちなみに、この時にあった出来事のせいで俺は杏子の事を腹黒女と認識している。


「杏子は良いよな。クイーンなんてかっこいいあだ名でよ」


「あら、正信もかっこいいじゃない。まるでどっかの漫画の題名にでもなりそうなあだ名で」


ニヤニヤしながら言う。


全く。色んな意味で笑えない冗談だ。


杏子の笑えないジョークにうんざりしていると生徒会室のドアを開く音がした。


入ってきたのは一つ上の先輩。生徒会のナンバー2副会長の大和進一郎〈やまと しんいちろう〉だ。


大和さんは去年の生徒会長だったのだが、何故か次の生徒会長選挙には立候補をしなかった。


そのせいもあり、対抗馬がいなかった二年の杏子が楽に生徒会長になった。


理由はわからないが生徒会自体を抜けようとしていたらしいが、杏子の強い要望により現在副会長の地位についている。


ボサボサ頭でいつもやる気がなさそうだが身長もそこそこ高く顔立ちも悪くはない。


また噂で聞いた話だか、この人もなかなか頭がキレるらしい。


ただ傍目からはそんな風には全く見えない。能ある鷹はなんとやら、という事なのだろう。


何を考えているかわからない所から裏で「ジョーカー」とあだ名されているのだか、これは杏子の「クイーン」に対して無理やり関連づけさせられただけだろう。


「お、巻き上げた金を持って何に使うつもりだ?まさかパチンコにでも行くのか?」


机の上に置いた封筒にいれてある札束を見ながら言った。どうやらこの人の耳にも噂は届いているらしい。また顔をしかめる。


「違いますよ。これはバザーで使うお金で。そもそも高校生なのにパチンコなんて行けるわけ無いじゃないですか」


「まあまあそう怒るなよ。冗談に決まってんだろ」


少しムキになったのが面白かったのか笑いながら言う。


「話はクラスの風紀委員の奴に聞いたぜ。三年最後の思い出になるような事をしたいんだってな。責任重大じゃねーか」


「そうなんです。そもそもあのバザーを皆の思い出にする事自体難しいと思うんですけど」


「もともとかなりしょぼいし客も沢山来るわけでもないしな。あのしょぼさを思い出に残るようなもんにするには骨が折れるぜ。まあ頑張れよ」


当たり前だが完全に他人事だ。


くっそ、バザーの準備の時に装飾の手伝いなんかをさせてやりたい。


「ん?そういえば他のやつは来てないのか?」


生徒会はここにいる三人以外にあと三人いる。庶務、会計、書記の三人だが今日は来ていないようだ。


杏子が今日は来ていない事を伝えた。


「そうか、俺も今日は顔を出しに来ただけだからもう帰るか。二人は帰らないのか?」


「私も今日は何も無いから帰ろうと思っていた所です。正信はどうするの?」


「いや、俺はまだ帰れないんだ。一人だけお金を持って来てない人がいてその人が来るのを待たなきゃいけない」


そう、9日の夕方期限ギリギリになってもまだお金を持って来てない奴がいた。


それが、よりにもよってあの吉田である。

一番やる気を見せていた奴がまさか一番最後になるなんて。


いったい俺を待たせて今頃何をやってるんだ!


「そう、じゃああたし達はもう帰るから。戸締りはやっといてね」


「わかった。じゃあな」


「最後の取り立てがんばれよ」


大和さんが最後に余計な事を言って二人は生徒会室を後にした。


バザー会場の装飾を大和さんに絶対手伝わさせる事を心に決めた。


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