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会議 (6月7日)

6月7日

まだ本格的な夏では無いにしても、気温は日に日に暑くなって来るこの季節。


蒸し暑い学校の一室で生徒同士の話し合いが行われている。


風紀委員長の俺を筆頭にしたクラスの風紀委員全員だ。


ちなみに一つのクラスに二人いるのだが、俺のクラスに委員は一人しかいない。


そう、もう一人は俺だからだ。


話し合いの内容は今からちょうど一ヶ月後の七夕祭りの出し物はどのようにするかを決めるものだ。


七夕祭りとはいわゆる文化祭の様なもので、この高校では文化祭が無い代わりに毎年7月7日この祭りが行われる。


文化祭とはいっても文化部の日頃の活動を知ってもらうというのが主な目的であるため、屋台の様なものは無い。


美術部のよくわからない作品展やこれまたわけのわからないパソコン部の日頃の部活内容の発表。軽音楽部の騒音を聴かされたりなどなど。


七夕とは名前だけで実際は七夕の要素などほとんどない祭りだ。


これならいっそのこと名前を文化部発表会に変えて日にちもわざわざ暑い季節にやらずに涼しい秋なんかにやった方がよっぽど利口だと思ったりもするが、そこは俺もあくまで一般生徒の一人。わざわざそんな事を校長先生に言う様なめんどくさいまねはしない。


さて、会議の話に戻ろう。


我らが風紀委員は毎年図書室のいらなくなった本を格安の値段で売るバザーを行っている。


なぜ図書委員ではなく風紀委員がバザーをやらなくてはいけないのかというと、 図書委員は同じ時間帯毎年ゲストとして来ている七夕市の幼稚園の園児に絵本の読み聞かせをしたり、校内の催しものを園児を連れて紹介するというなかなか重要な役目があるのに対し、風紀委員はバザーをしなかったらやることは全くないといった有様だったからだ。


つまり、仕事を暇だからという理由で押し付けられたのだ。


まったく迷惑な話だ。


ちなみにバザーで得たお金は全て学校に取り上げられ、働いた報酬はオレンジジュース一本だ。


せめてジュースの種類ぐらいは選びたかったものである。


会議の内容は出し物は何にするかというものが表向きではあるが実際の内容はバザーをいつも通りやる、と風紀委員の長である俺がクラスの風紀委員に言い。一年生にバザーの流れを説明するというのが毎年の恒例だ。


が、今年の会議は少し違った。

俺が今年もやると言うと三年生風紀委員の一人が突然、


「三年にとっては今年が最後の七夕祭りになるから、バザーはバザーで良いんだけど思い出になる様なバザーにしたいんだけど…」と言い出した。


見ると三年生の吉田太一〈よしだ たいち〉だ。


メガネをかけていて、全体的にさえない風貌をしているこの先輩が珍しく会議で発言した。というより初めてなのでは無いだろうか?


他の風紀委員も目を丸くしている。


本人の目には珍しく力がこもっている。それほどバザーに本気でとりくもうとしているのだろう。


三年間帰宅部で大した思い出がない事に今更気づいて、せめて七夕祭りでは良い思い出を作ろうという魂胆なのだろう。


まあ、もし同じ立場だったらわからなくも無い。


「では、例えばどの様な事をするか考えてますか?」


一応聞いてみる。


「それはまだ考えてないけど、例えばバザーをする図書室の内装にこだわるとか、七夕祭りだから七夕らしい格好をして本を販売するとかはどうだろう?」


まだ考えてないと言いながらなかなか具体的だ。


「他の方はどう思いますか?」


「別に良いんじゃ無いか?最後だし、確かに毎年記憶にも残らないけどその方が思い出にもなるしな!」


皆同じような事を口々に言う。どうやら決まりのようだ。


だが、盛り上がっている所に水を差したくはないが仕方が無い。


この案には重大な欠点がある。


「内装にこだわったり、七夕らしい格好をするのは良い案だと思うのですが、学校側から費用は一切出ません。費用はどのようにしますか?」


そう、バザーは文化部の活動発表では無くそもそもいらない本を処分したいというだけなので、学校側からの費用は一切出ないのだ。


案の定この事を言うと盛り上がっていた会議はとたんに重い空気になってしまった。


すると、吉田が。


「風紀委員全員が一人1000円ずつ出すのはどうかな?1学年5クラスで1クラスに委員は二人いるから合計で3万円になるだろう?もちろん、他の人の同意も必要なんだけど…」


言いながら皆にお金を出させるのに気が引けてきたのだろう。言葉の最後の方はかなり弱々しかった。


皆即答とはいかなかった。


高校生のおこずかいで1000円は意外に大きい。だが最終的には皆出すことに決まった。


三年生が皆出すと真っ先に行ったので下級生はそれに従うしかなかった。


ここで出さないなんて言ったら空気がまったく読めない奴か、勇者のどちらかだろう。


下級生は誰もそのどちらかになろうとはしなかった。


その後、9日の放課後までにお金を生徒会室の俺の所までそれぞれ持って来るように決め。その日の会議は無事終わった。

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