悲痛な叫び
「どうして、遠藤と茶髪コンビを退学にさせようとしたんですか?」
俺は尋ねた。
茶髪コンビも今日学校を休んでいるようだ。茶髪コンビも退学になる所だったのだ。
吉田はうつむき何も答えない。
「あの時母親の看病をしていたと言うのも嘘だったんですか!」
自然と声が大きくなってしまう。
ほとんどの生徒が下校してしまった。俺の声が校舎に響く。
「本当だよ」
吉田がポツリとつぶやく。
「僕が彼らを退学にしたかった理由は。僕の母親が関係してるんだ」
吉田は悲しみを堪えたような表情で静かに話始めた。
「ある日、僕の母親が夜道を歩いていると後ろからバックを狙った2人組のひったくりが走って来たんだ」
「なかなかバックを離さなかった母はひったくり犯から突き飛ばされた。倒れこんだ母はアスファルトに体を強く打ち付け打撲や捻挫、骨折をしてしまったんだ」
「たまたま近くに人がいたからその人のおかげでひったくり犯は何も取らずに逃げて。母もすぐ救急車に運ばれたんだ」
「処置が早かったから大事には至らなかったんだけどしばらく入院する事になった。だけど体の傷なんかよりももっと大きな傷を心に負ってしまった」
「突き飛ばされた拍子に首にはめていたネックレスが外れて溝に落ちてしまったんだ」
「そのネックレスは死んだ僕の父が高校生の時、付き合っていた母に送った誕生日プレゼントだったんだ」
「母は父がまたいなくなったように思い、毎晩病室で静かに泣いていた。食べ物も喉に通らず日に日に衰弱していく母を見て僕はネックレスを探そうとした」
「でもいくら溝を探しても見つからなかったんだ」
「そんななか、遠藤が手下を使って遊ぶための金を集めているという噂を聞いた」
「僕は独自にその事を調べたんだ。すると、あの日ひったくりをしたのは遠藤の指示のもと動いた手下だという事がわかった」
吉田は目に涙を浮かべている。
「だから。だから!僕は母をあんな目に合わせた三人に仕返ししてやろうと思ってこの計画を実行したんだ!」
吉田の悲痛な叫び声が生徒会室にこだまする。
「あの日廊下で電話していたのは電話をしているふりだったんだけど、看病する為に早退したという話は本当なんだ。母はあの日全く食事を取らなかったらしくて病院から連絡があったんだ。母は僕がいると少し落ち着くから先生に頼んで早退させてもらったんだ」
「古村君。君を巻き込んでしまって本当にごめん」
吉田は俺に頭を下げた。
7日の会議の日。吉田が力強い目で案を提案したのは初めから遠藤達に復讐するためだったのだ。
そう思うとやりきれない気持ちになる。
俺は何と言っていいのか言葉が見つからず。ただ頭を下げる吉田を見つめるしかなかった。




