決着
清一がポケットから取り出したのは愛用のスマートフォンだ。
すると、清一はどこかに電話をかけ始めた。
スマートフォンは俺と吉田に音声が聞こえるようにスピーカーモードにしている。
俺は音が聞き取りやすいように近づいた。
『はい坊ちゃん。どうなさいましたか?』
電話の相手は原田さんのようだ。原田さんの低い声がスマートフォンから聞こえてくる。
「やあ原田さん。今どこにいるんだい?」
『え?坊ちゃんの指示通りゲームセンター七夕で遠藤と茶髪二人組を捕まえましたので今三人と一緒にゲームセンター前にいますが』
吉田の顔から一気に血の気が失せる。
「ありがとう。じゃあ電話を遠藤氏に変わってくれるかい」
『わかりました』
電話越しから原田さんの「おらっ。お前電話に出ろ」と言う声が聞こえてきた。
どうやら手荒な方法で三人を捕まえたようだ。
『…はいもしもし』
遠藤の弱々しい声が聞こえてきた。
「どうも、少し質問したい事があるのですがよろしいですか?」
『はい…』
「あなたはどうして今日学校を休んだんですか?あっ、ちなみに嘘を言った場合は横にいる原田さんからのきついお仕置きがありますのでそのつもりで」
遠藤のひっという悲鳴が聞こえてきた。
『き、今日学校を休んだのは、盗んでねぇのに俺と俺の手下が生徒から金を盗んだっつーデマが学校で噂されてるから、しばらくは学校に来ない方がいいって同級生の吉田に言われたからだ』
吉田は目を見開いたまま氷のように固まっている。
「なるほど、では吉田氏とはどうやって知り合ったんですか?」
遠藤は黙っている。すると後ろから
「何を聞かれたんだ?さっさと答えねえとどうなるかわかってんだろうな」という声が聞こえてきた。
遠藤は怯えたようにして言う。
『吉田とは学校で一緒だけど話した事はなかったんだ。だけど7日の夕方、いつものようにゲームセンターで手下と三人で遊んでたら。学ランと手下の服にジュースをかけられたんだ。かけた奴をみるとそれが吉田だったんだ』
7日は最初の会議があった日だ。吉田は会議のあとその足でゲームセンターに行ったのだろう。
「そして、あなた方は服を弁償しろと言った」
『ああ、あいつが一人5万出すって言ったんだ』
「お金を渡す場所はどこと言われました?」
『9日の夕方5時45分に中庭で渡すと言われた。手下には6時に生徒会室前のトイレで渡すと言っていたみたいだ。手下にはトイレにいる合図として窓を開けてタバコを吸うように指示していたらしい。生徒会は6時にはいなくなるからバレることは無いと吉田は言ったようだな。受け取り場所が別々なのは不思議に思ったんだが。金が手に入るから細かいことは気にしなかったんだ」
「5時45分に中庭にやってきた吉田氏はまず三万円をあなたに手渡したんですね」
『ああ、それも全部千円札でな。吉田は残りの分を教室に忘れたと言って俺を中庭に待たせたまま教室に向かったんだ』
「だけど吉田氏は帰って来なかった。それどころかやってきたのは生徒会の人間だった」
『ああ、あれには本当驚いたな。古村は金を探していたみたいだったな。俺の持ってた金を盗まれた金と勘違いしてたようだが、俺もカツアゲした金だったから詳しく説明も出来なかったんだ』
「手下の方にも吉田氏は来ませんでしたね」
『手下の話によるとそうらしい。トイレにも古村がやってきたらしく、急いで逃げたみたいだな。逃げる途中廊下で吉田と会ったらしいが、吉田から古村が追いかけて来るから今は逃げた方がいいと言われたらしく、あいつらは階段を降りて中庭とは反対方向に走って逃げたんだ。反対方向に逃げるよう前もって指示したのも吉田だ。万が一自分以外の人がやってきた場合絶対中庭だけは逃げるなと言われてたみたいだな』
理由は簡単だ茶髪コンビが中庭に逃げたら俺が追いかけて来る事を遠藤に知らせ、中庭から遠藤が出て行ってしまうからだ。
この作戦は遠藤が中庭にいないと成立しない。
「追いかけられたあなた方は学校を飛び出した。その後吉田氏から電話がかかってきて。その内容は最初に言ったように学校にしばらく来ない方がいいといった内容ですね」
『ああ、そうだ』
「どうもありがとうございました。質問は以上です」
清一はそう言うと電話を切った。
「さて、ここからどうひっくり返しますか?」
吉田を見ると諦めたように肩を落としている。
これで全てが終わったようだ。




