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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅱ 死神の庭
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チャプター8 命の天秤

 午前10時、本拠地のある会議室にはシロの初任務をサポートするメンバーが集まっていた。といっても、シロを含め三人という少人数であった。シロの教育係である零花、そして大門である。そこでは今日の任務について説明されていた。スクリーンはプロジェクターから発生する光を映し出す。そこには仕事の標的となる人物の写真が写っていた。その人間は木下京谷、年齢は12歳、入院している患者であった。入院先は関東総合病院、世田谷区内の数ある病院の一つ。多くの患者がいる中でなぜこの子供が選ばれたかはこの三人は知ることはできないが、シロは聞かずにはいられなかった。


「なんでこんな小さな子を目標にしたんだ?病状がひどくて先がないのか?」


その問いに答えたのは大門であった。


「いや、病状は回復している。この依頼は天津からの依頼だ。彼に聞かなければこの子にした理由はわからない」


普通は物事には理由というものがあるだからこそシロは不思議でならなかった。シロが感じていたのは不思議という感情のほかに哀れみも混じっていた。これからこの子にとっても長い人生が始まるはずなのに神に目をつけられてしまったがために人生が終わるなど、理不尽の言葉に尽きるからである。そんな彼を哀れむそぶりはシロ以外見せるそぶりもなくミーティングは淡々と進んでいく。ミーティングといっても特に話し合わなければいけない内容はない。任務決行時間からの流れの確認だけであった。


「大門さん、一つ気になったんだけど本拠地にある転送するための石門は転送先は選べないじゃないのか?最悪の場合、総合病院に着くまでに何時間もかかるんじゃないのか?」


それは2回、現世に行って確かめられた事実と零花が教えてくれた知識からきた疑問であった。零花と現世に下りたときは中央区であったし、昨日シロが現世に下りたときは練馬区であった。その疑問については間髪いれず零花が答えた。


「それは心配ないの。今回の場合、天津さんの依頼だから、どんなにかかっても一時間しかかからないように降りれるようになってるの」

「今回は初めての任務だ、いろいろと説明しながら行くつもりだからしっかり私と零花の戦い方を見ておけよ」


そう言った大門はあらかたの説明を終えていたためこの場は解散し、午後9時に本拠地中央に存在する石門に集合することになった。


 夜も更け、時刻は午後9時、この時間に仕事に向かう死神は多かった。夜になれば目標となった人間は眠りにつくためにその場所から動かなくなる分、手間が減るからであろう。50人ほどでごった返す石門前には大門や零花がすでに到着していた。シロは事前に渡された服装は真っ黒いスーツであった。シャツも黒、ネクタイも黒、黒尽くめの中ただシロの髪の毛が白く光っていた。なぜかシロは銀色の髪を有していた。なぜ自分がこんな髪をしているのかは親がいないシロにはわかるはずもなく、その他大勢の日本人が有する黒髪の中に一人混じる白銀の髪は昔からいじられる対象であったので、いつもはフードやなどで隠し、黒っぽい服は目立ってしまうため着ないようにしていた。この格好で人前に出るのが少々いやだったのだろう、シロは少し遅れて到着した。


「遅れてすいません」

「大丈夫だよ、それにその格好…似合ってるね、銀色の髪が良くあってる」


そうほめてくれたのは零花であった。少し恥ずかしそうにするが、ふと過去の記憶が通り過ぎる。過去にも一度だけ自分の銀髪をほめてくれた人がいた気がしたが、初任務の緊張のせいだろうか、その場で思い出すことは出来なかった。


「嬉しいけど…この髪が目立つのはちょっと…」

「じゃあ、これでも着ろ」


そう乱暴に大門から渡されたのはフードつきのローブであった。


「あ、助かります。で、これは有料ですか?」


死力開放の一件から、借神(しゃっかん)の増減にシビアになっているシロは大門に訪ねるのであった。


「俺からのプレゼントだ、安心しろ」

「すっかり疑うようになっちゃったね、シロさん」


と零花は笑っていた。


「さあ、そろそろ行くぞ。ゲートをくぐれ、もう設定は済ませてある」


そういわれたシロは石門をくぐる。大門が言っていた設定というのは過去二度にわたって現世に下りたときは実体を伴う形での転送を実体を伴わない形での転送にしたということである。転送され周辺を見渡すと確かに世田谷区と書かれた道路標識があった。続いて大門、零花がシロの近くに転送されてきた。


「さて、見えるか?一之宮、異形のものたちが」

「異形?んっと…あれか」


そうシロが指差した先には薄く揺らめくものがあった。


「なんだ、まだそれしか見えないのか」

「それしか?まだたくさんいるのか?」


シロの目にはその一体しか見えていない。大門にはまた違う光景が広がっていたのだろうか。


「うん、いるよ。たくさんね」


零花にも見えているようだった。シロはいくら目を凝らしても見えなかった。


「なんで見えるんだよ、俺にはあいつしか見えないし、あいつですらようやく見えるぐらいなんだけど…」

「言っちゃえば、経験とセンスの差かな、センスがいい人はすぐ見えちゃうらしいし」

「とりあえず俺にはそのセンスがないことは確定したのね」

「ま、とりあえず死力開放してみて、大門さんが言うにはできたらしいじゃない」

「出来るには出来たよ?借神(しゃっかん)300年のおまけつきでね」


苦笑いを終えたシロは大門に教えられたイメージを行う。

いやな気持ちと不思議な感覚織り交ざった状態まできたところで目を開けると無事に死力開放が出来ていた。すると今までの光景とはまったく違う光景が眼前にはあった。シロのすぐ目の前を漂う人影、歩いている現実世界の人間に取り付いている光った何か、すべてがぐちゃぐちゃに混ざり合い、時には人の顔、時には人の腕に変化する黒い何か。それは有象無象にそこに存在していた。シロが先ほどまで見ていた一体は死力開放した後では風景との輪郭がしっかりと区別できる状態にまでなっていた。


「これ全部、霊って奴か」

「ああ、そうだ。基本的に奴らは襲ってこないあいつらにとって俺たちは天敵ともいえる存在だからな」


そう大門が言い放った直後、二体の黒い揺らめきが三人を襲ってきていた。よく見ると苦痛の表情を浮かべた人間であるように見えたが正否はわからない。


「ちょっと、待てよ。襲ってこないんじゃなかったのかよ!!」


シロがそう叫ぶと黒い揺らめきが直線的に向かってきたため、トタトタ横に走ってかろうじて彼らをよけた。後ろを見ると二人はよけるそぶりも見せず、静かに死力を開放し大門と零花は彼らに対して迎撃体制を整えていた。どこからともなく二人は武器を取り出していた。大門は刀身が2mほどある日本刀と思われる刀を、一方、零花は少女の容姿には少しばかり大きい鉄扇を手にしていた。零花の持っていた鉄扇は扇面にきれいな蝶と桜吹雪が型取りされていた。


「そんなものどっから持ってきたんだよ」


シロの疑問も当然のものである。零花の鉄扇は持っていても目立たないが、大門が持っていた2mほどの刀は持っていれば集合したときに気づいていたはずであった。


「これも死力の訓練で出来るようになる」


そういいながら大門はその刀を横に一閃、振り切った。近寄ろうとしていた一体の黒い揺らめきはその刀に胴と思われる部分を真っ二つにされると、すぐさま燃え上がり消えてしまった。


「また今度、教えてあげる!!」


そういいながら、もう一体の黒い揺らめきの動きに合わせ、力強く鉄扇を黒い揺らめきの背後で振り払い殴打した。やはり殴打された黒い揺らめきはまた燃え上がり、これまた空中で燃え上がった。


一難去ったシロに対して零花は


「まあ、こんな風に襲ってくることもあるからうまい具合にやっつけて」

「うまい具合にやっつけて、じゃない!!そもそも何で襲ってきた。そしてどこから出したその武器は」


シロはまったく話についていけず、わけもわからずにいた。そんなシロに対して零花は説明した。


「今みたいに襲ってくるのは力の差がわからないほどの低級霊か、すごく強い霊のどちらかしかいない。強い奴ほどはっきりと見えるからそんな奴に目をつけられたら逃げてね。あ、ちなみにさっきのは低級のほうだよ」


続けて武器について零花は説明を行った。


「この武器は簡単にいうと死力をイメージどおりに作ったって感じ。シロさんにはまだ早いから、とりあえずはそんなものがあるんだってことぐらいは覚えていて」


わけもわからず立っていたシロに零花の話に付け足すように大門は説明を行った。


「武器なんてなくてもお前もその状態で殴れば実体のないものは倒せる」


シロには喧嘩の経験などないため、いささかシロは困っていた。武術へのたしなみがあれば戦闘を有利に進められたかもしれないが、そんな経験もシロにはなかった。


「武術も含め今後は訓練だね」


そう話す零花は楽しそうな表情をする。しかしシロはまた面倒なことが増えてしまったことが確定し少しがっかりした。


「さて、とりあえず関東総合病院へ行くぞ」


そう切り出した大門は歩き始めていた。その後を追いかけるようにシロと零花はついていった。


 その後、襲ってくる実体を持たないものはいなかったため、十分ほどで目的地である関東総合病院へ到着した。病院に入ると夜勤を受け持つ看護師たちがいたが三人には当然のように気がつかず、目標のいる木下京谷の病室へと向かう。病院はすでに消灯していたため、院内は暗かった。病院という場所も関係があったのだろう、院内には数多くの実体を持たない何か存在し、病院を徘徊するようにうごめいていた。

実体を持っていない彼らは天敵の死神の登場に慌てふためくこともなく、関係を持たないように道をあけるようにどこかへ消えていくようであった。階段を上り、四階へたどり着くとそこには木下京谷の病室があった。実体を持っていない死神がノックをするわけもなく、入っていくと木下京谷はすでに夢の世界へと旅立っていた。

静かにそして確実にその歩みを木下京谷の下へと運ぶ三人であったが、残り1mというところで突如として、木下京谷の体が光りだす。その場にいた三人の中で今回が初任務となるシロだけがその光景に驚いていた。


「こ、これは?」


そうシロが尋ねると


「守護霊が出てくるの、何が出てくるかはその姿を見てみないとわからないの」


死神の仕事に慣れているはずの零花であったが、そこには緊張の面持ちをした零花がいた。


 部屋全体へその光が広がりそして、徐々にその光は木下京谷へ収束し人の形を取り始めた。そこには見知らぬおじいさんが三人の進行を止めるかのように三人の正面へ立っていた。

はじめに襲ってきた黒い揺らめきとは比べ物にならないほど、おじいさんの輪郭ははっきりと、くっきりと現世の風景との境界線を作っていた。即座に戦闘になるかと思っていたシロであったが予想に反し挨拶を伴う会話からおじいさんとのやり取りは始まった。大門はおじいさんに対して名乗っていた。


「初にお目にかかります。私は大門政嗣、死神です。今日はそこに眠っている木下京谷さんの命を刈り取りにきました」


そう丁寧に挨拶した大門に対しておじいさんも軽く自己紹介をし始めた。


「そうか、わしは京谷の祖父じゃ。病気のことについて詳しいことはわからんが、死神がきたってことは京谷はもう長くないのかい?」

「いえ、そういうわけではありません。世界のために、神のために、そして輪廻のために京谷さんの命を奪いに来たのです」


その言葉を聞いたおじいさんは怒りの感情を含めつつ、木下京谷の生い立ちを説明し始めた。


「京谷は昔から、体調がすぐれないことの多い子じゃった…京谷は医師の言うことはきちっと守り、早く退院できるように努めてきた。他の同年代の子供らはゲームなどして医師の言うことも聞かず夜更かしする中、今日も京谷は消灯時間にしっかりと寝ているじゃろ…遊びも知らず、世の中のこともまだ知らず、このまま京谷を殺すというのか、お前たちは!!!!」


怒号のような声が振動となり体に伝わる。シロはたじろぎながらもおじいさんが放つ言葉を聴き、再び哀れみの感情を木下京谷に抱いていた。そんな怒号を省みず、神経を逆なでするように再び大門はおじいさんへ話しかける。


「申し訳ありませんが、私たちにはまったく関係ありません。ですので木下京谷さんの命を刈り取らせていただきます」


その言葉を聴いたおじいさんの怒りは完全に頂点に達した。


「まだ言うか!!小童!!絶対に貴様たちなんぞに京谷を殺させはせん!!」


その怒号とともにおじいさんの体は強く発光した。その光が発生したとともに大門も声を荒げ後ろにいるシロと零花へ叫んだ。


「くるぞ!!耐えろ!!」


 おじいさんの体からでた光は波動と化し、三人の体を吹き飛ばす勢いで襲ってくる。大門や零花は慣れているようで耐えることはさほど難しいことではなかったが、シロはすでに耐えることのみが精一杯でありおじいさんから目を放してしまった。瞬間シロに飛んできた、避けろという言葉に反応することが出来ず、シロは腹を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けるはめとなった。体の肺にたまっている空気は強制的に吐き出され、苦しみと痛みに耐えかねてその場にうずまる。正面を見ると光の球体が三人に襲い掛かっていた。零花や大門はそれらを身のこなしや、武器で捌ききる。気づけば波動は止み、バレーボール大の光の球体が空中に30個ほど浮き、おじいさんの体を周回し、時折三人に襲い掛かっていた。


「大丈夫!?シロさん?!」


シロを守るように零花がシロとおじいさんを結ぶ直線状に立っていた。零花は襲ってくる光の球体をひらり、ひらりと散っていく桜の花びらのように避け、シロに向かってくる球体を鉄扇で打ち落としていた。


「だ…大丈夫…」


正直、大丈夫ではなかった。鈍痛は今でもシロの体を駆け巡り、息を吸うのもやっとの状況であった。

大門からシロに対して説教が飛んで来ていた。


「相手から、目を離すな!!俊敏に避けろ!!」

「わ…わかりました」


そうシロがいい、立ち上がるとボールは容赦なくシロに襲い掛かる。前には零花がいたが球体は数を増やし、零花は少し厳しそうな顔していた。零花の防御を通り過ぎ飛んできた球体に当然シロは対応できない、そのたびシロは衝撃と鈍痛にやせ我慢で対応せざるおえなかった。

シロがやられている間、大門が球体の攻撃を見切り、スタスタと光の球体の中心にいるおじいさんに近づく。その恐怖に耐えかねたのだろうか?おじいさんを中心に回っている30個の光の球体はすべて大門に向け飛んでいく。そんなことはお構いなしに大門は歩いて近づく。とんでもないスピードで飛んできた光の球体をすべて日本刀で叩き切ると、次の球体を出す間に縦一閃、大門はおじいさんを切り捨てた。


「うがぁああぁあ…京谷ぁ…京谷ぁあああああ」


瞬間、おじいさんの光は大門に切られた傷跡から瓦解し消滅した。


 部屋全体を覆う光はおじいさんの消滅とともに消えていった。シロはまだ鈍痛と戦うだけで精一杯であった。その場は沈黙に支配されていた、光は完全に消滅しわずかに窓辺から際しこむ月明かりだけが病室に横たわる木下京谷を照らしていた。

その場にうずくまり動けなくなってしまったシロを心配し、零花が駆け寄ってきた。


「シロさん!!」

「何とか大丈夫…俺、何もしてないけど、もう終わったのか?」

「うん、終わったよ」


少し悲しそうな零花をシロは感じていた。まだうずくまっているシロに対して、本題である命を刈り取る作業の説明を始める大門がいた。


「立て、一之宮。最後の仕事だ。木下京谷の近くに立て。そして死力を手に集中するイメージをしろ」


シロは仕方なく、痛みの残る体を起し、病室のベッドの前へ行く。そして言われたとおりに死力を手に集中させるイメージを持つと死力はそのイメージに呼応するかのように右手に集まっていた。すると次の指示が飛んできた。


「そして木下京谷の胸部へ死力の集まった手を入れろ」


実体を持つ体であれば自分の右手の指先は木下京谷の胸の皮膚で止まるはずが何も障害物がないかのように入っていく。すると、障害物がなかったはずの指先の感覚に硬いものが触れる。シロの表情を見て大門は次の指示を出す。


「何か触れる感覚があったら、それを抜き出せ」


その言葉に従い、サイコロのような立方体を木下京谷の胸から取り出す。それはガラスのような硬さであるが、同時に流動性を持つような代物であった。立方体の角と角を対角線上に指先で挟み込むように持っていたはずがいつの間にかその立方体は形を変え、指先は面と面を挟み込んでいた。そんな不思議な結晶が何であるかを大門に聞いた。


「これは?」

「存在の結晶と呼ばれているものだ。木下京谷が生まれるにあたり、そこに存在することを許されたという許可証みたいな役割を果たしている。それがなくなれば木下京谷という存在はそこにいることを世界は許さない。つまりは”死”だ」


シロはこの結晶を見て素直にきれいだと思っていた。その結晶を月明かりに照らすと月明かりは結晶の中で反射を繰り返し、一つの光は何千という星のきらめきにも似た光を放っていた。


「それを壊せ、一之宮。それで仕事は完了する」


 シロがその結晶を指先ではさむことをやめ、結晶の所在地を指先から手のひらへ移した。手のひらにあるそれを包み込むように握り締めようとしたとき、シロはふと考え込む。この子の一生は何だったのだろうか…と。この子はおじいさんの話を聞く限りほぼ病院で過ごしてきたに違いない。病院生活は決して楽しいものではなかっただろう。ではなぜ彼は反抗することなく世間一般にいう良い子であったのだろうか?

シロの中に一つの答えが出ていた。彼、木下京谷は自分の病気をしっかりと治し、そして退院し、明るく楽しい世界を自分で築きあげることが彼の夢だったからだろう…それを自分はこの片手一つで壊そうとしている、殺そうとしている。それはどうなのだろう…そもそも殺す…?この子を殺す?あの職員のように動かなくなってしまう?あの運転員のように人を殺す?

気づけば思考の泥沼にいたシロを現実に引き戻したのは大門だった。


「どうした?怖いのか?」


シロは気づいていなかったが、大門や零花の目には全身を震わせて立っているシロがいた。


「怖い…?これが人を殺すってことですか?」


シロは生の重さを感じていた。考えれば考えるほど重さは増す、増した重さは確実にシロの動きを鈍らせ、力を奪う。もはやシロに結晶を握りつぶすほどの力は残されていなかった。そんなシロを悟らせるように大門はシロに語りかける。


「そうだ。生きている人間は何かの命を犠牲にしていきている。それは死神である私たちも例外ではない。存在する以上、何かを犠牲にしなければ存在できない。だが君は何かを犠牲にせず、自分自身の存在を消したいと願うだろうが、それは君が死神として存在する限り不可能だ。自分の存在を消すためにはその握られているものを壊す以外の方法はない」


そう告げるといっそう全身の震えがとまらなくなったシロに30分だけ時間を与えようといったのは零花だった。大門もそれを承認し二人は病室にシロを残し外へで待つことにした。


沈黙の中で全身を震わせ、生の重さと向き合うシロを見て過去を思い出した零花も、初めての任務で生の重さと向き合わされている。シロも零花も自分の生をないがしろにし、死神という形で存在している。自分の生は簡単に捨てたいと願うくせに他人の死は誰よりも重いと感じてしまう点において、死神として働く元人間たちには共通していた。


他人の命の重さと、自分の命の重さに一体どれほどの違いがあるのだろうか。

もう失ってしまった自分の命、右手の中に握られている他者の命、その天秤の中心にシロは震えながら立っている。

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