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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅹ 死神の夢
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チャプター67 望月と暴食

 暴食の悪魔、ベルゼブブは横たわる。自分の子供を消失させられたことで彼は失意のどん底にいる。そんな悪魔に容赦なく望月みなもは針を作り出し投げつける。失意のどん底にいようともその攻撃をよけれないわけではなかった悪魔は飛んできた針をはじくと立ち上がる。


「私の子供がぁぁああ!!どうしてくれるんだよぉおおお!!」

「知らないわよ、そんなに大事なら戦闘につれてこなければよかったじゃない」


そう冷たく囁いた死神を悪魔は睨み付ける。


「だからさぁあ!!言ったじゃないか!!生物が一番輝くのは捕食してるときだってさぁ!!」

「だからなに?」

「自分の子供がさぁ、大きくなろうと一生懸命死力を食べてる姿みたいじゃないかぁ!!」

「そもそも、悪魔って生き物じゃないでしょ?」


望月はこんな茶番に付き合ってられないと即座に死力を開放する。それに呼応するように悪魔もまた怒りをぶつけるように悪魔の力を増幅させる。


「ゆるさねえぇぇぇええ!!こんなにかわいい子供たちをぉぉおお!!何だとおもっている!!」

「なんだと…って最初から言ってるでしょ、気持ちが悪い蛆虫。というか、これをかわいいとか思ってるなんていったら私の人格が疑われるわ」

「そこまでいうことないだろぉおおお!!」

「そうね、害虫はさっさと駆除しないとね」


先に攻撃を仕掛けたのは望月、今までは彼女が作り出す針には制限があった。それは自分が作り出せる死力に限界があったから。しかし、今はシロによって作り出されている死力が確保されている。しかもそれは尋常な量ではないために制限は消えていた。本来であれば彼女は針を的確に敵の急所に命中させるように戦うが望月にとって相手は急所もわからないような悪魔である。それゆえにとりあえず針を数百本ほど作り出し、投げ込んだ。

悪魔はそれを回避するが一部はよけきれず被弾する。悪魔は少し痛そうに顔をしかめたがそれほどまでの怪我ではなかった。


「なかなかやるなぁ…体に刺さるだけの鋭さはあると…」


自分の体に刺さった針を抜くとそれを口に運び込む。


「これだけの純度の死力…ああ息子たちに食べさせてあげたかったなぁぁ…」


悪魔の体が少しばかり振るえはじめる。当然望月も何が起ころうとしているのかわかるはずも無く、注意深く悪魔を観察するほかなかった。


「さあて、遊んでると神の遺産を持っている死神がきそうだし、さっさと食い散らかしてやるぅぅうう」


悪魔の体がその言葉とともに変化する。骨格が巨大化し、当初よりも大きくなっていくのだった。ゴキッメキッといったような骨が壊れる音が響く。


「暴食とは変成、それが私の本質だぁああ!!」


異形の形は肥大化を続けていく。あまりの恐怖に望月は針を射出しながら後退する。しかし、すぐさまその攻撃が失敗だったことに気がつくと攻撃を中止し立ち止まる。悪魔の肥大化はとまらない。目の前に存在する悪魔が現在、世界に存在しているどの生き物でもない形状を取り始める。元の大きさの10倍ほどに巨大化したところで悪魔は巨大化するのを止めた。悪魔の体は背中に触手をはやし、重量の増えた体を支えるために4足で立ち上がる悪魔を望月は見上げることしかできなかった。


 「どんな攻撃も全て俺は食い尽くす、いくらでも取り込み、無限に巨大化するぅ!!」

「面倒ね、本当に悪魔って」


ため息を吐き出した死神は死力を全力で開放する。目の前に現れた餌となる大量の死力を保有した死神を自らの捕食対象を見定めて悪魔は触手を勢いよくのばしたのだった。


「本当に気持ちわるいっ!!」


触手めがけて針を投げるがそれは触手に取り込まれ再び悪魔は体の一部分を肥大化させる。その肥大化した部分からは大量の目玉が一人の死神の姿を捉え続けていた。


「ムダダァ、ワタシノ、チカラハ、ムゲン」

「ちっ…大体こういう敵って食べきれずに爆発かどっかに悪魔本体がいるっていうオチだけど…」


望月は丸太ほどの大きさの杭を作り出して、悪魔に対して投げ込んだ。投げ込まれた杭は体に突き刺さると、悪魔の体液を巻き散らかす。悪魔自体も痛覚は存在しているようで呻き声をあげるが彼の体はすぐさま、杭を自分の中に取り込んでいく。


「ウマァ…オマエノ…シリョク…ウマァ」

「普通のオチは期待できなさそうね…おつむがないのはイライラするけどありがたいわ」

「シリョク、オオクテ、ウマ…マァ」


再び望月は足を止めて死力をつくりだしていた。悪魔にとって足を止めた捕食対象を見逃すわけは無く触手を伸ばしていく。悪魔の体は今もなお巨大化を進めていた。

触手に対して針を投げ込みながら望月は考えていた。

目の前の悪魔の弱点はなにかと。ダメージが無いわけではないことはさっきの攻撃からわかった。しかし、彼が巨大化していくことはかわらない。


「試してみるしかないわね…」


彼女が投げた針は触手を貫いて悪魔の体液が噴出しているなか、望月は新たに針を投げ込んでいた。悪魔の体に突き刺さったその針は悪魔の表面を貫き内部にある骨格に突き刺さる。


 「さて、どうなるかしら?」


望月が投げ込んだ針はその堆積こそ小さいが彼女が最大限込めれる死力を込めて放たれており、その針は骨格内部に侵入するように針が成長する。悪魔の骨髄は針に侵食されるように壊されていく、その針の成長は骨を飛びでて体表面を突き破ったのだった。悪魔は痛みで転げまわる。


 「これならどうかしらね?」

 「スクナイ、タリナイ、モットォ」

「うそでしょ?あれで足りないって…」

「ギダァァァア、オイジイ、ジリョク、オイジイィイイ」

「これじゃただの消耗戦ね…」


望月は一度悪魔から遠ざかる。いままでの戦闘で得られた情報を整理したかったのだろう。そして悪魔が動かないという点がその行動を後押ししていた。彼女の予想通り悪魔はその場を動くことはなく、先ほど篠崎が与えた死力を取り込み肥大化する。背中に生えている触手は当初に比べて何倍何十倍と本数を増やしていた。


 最大の攻撃が、吸収された今彼女は悪魔の弱点を見つけ出すしかなかった。悪魔の本体が彼の体のどこかに隠されていたのならば、先ほどの攻撃でわかったはずだった。しかし、実際のところは悪魔の挙動がおかしくなったところもなく、その後、何事もなかったように吸収されていた。望月の頭の中は可能性が巡るが、どれもこれも可能性すら持ち得ないものだった。


許容量でもないし、別の本体があるわけでもない…それでもダメージはあるって…どういうこと…


そのとき望月は自分の足元に微振動を感じ、上空へ飛び立った。ボコォという音ともに悪魔の触手が現れる。彼女は反射的に針を作り出し触手へと投げていた。その針は触手に突き刺さり、触手はその攻撃で痛みを訴えるように地面を強く打ち付けるのだった。


 「タイリョウ、オオイィィ、ウマィィィ」

「ん?どうして?」


望月にとってあまりにも不可思議なことが起こっていたことで、彼女は思わずボソッと声にした。彼女が抱いた疑問はすぐに脳内で検証される。そして彼女に一つの可能性を与え始めていた。


「この攻撃でわかるはずっ!!」


彼女は再び自分が込めることができる最大の量を一本の針にのせて射出した。望月の攻撃は悪魔の体をえぐりながら突き刺さる。貫通まではしなかったが、悪魔の体からは大量の体液が噴出し、痛みで悶える。その結果、地震のように地鳴りを生んでいた。


「シリョクゥゥ、タリナイィィィ」

「やっぱり…あいつは…」


望月の可能性は確定要素になった瞬間だった。彼女は悪魔が死力を吸収する時間差に気がついた。それは悪魔の体は一つの死力を大量に取り込むことはできるが、大量の発生源を一度に取り込むことができないことを指し示す。それが彼女が出した結論だった。


「さてと、後は簡単ね…暴食の悪魔!!あなたの手向けに大量の死力をあげるわっ!!」


その言葉とともに最大限の死力を使い、針を数本作り出す。最初に悪魔に与える死力はほんのちょっとでかまわない。


「餌の時間よっ!!食べ残しは許さないから…」


悪魔の体に優しく刺さった針を悪魔は取り込み始めたのを見計らい、望月は空高く飛んだ。もはや巨大化しすぎてどこが足なのかわからなくなった悪魔の体に対し、5本の針を打ち込む。4本の針は四肢が在ったであろう場所、残りの一本は体の中心へ。その針は悪魔の体を貫通し地面に突き刺さると対象を見つけたように悪魔の体をえぐりながら成長していくのだった。悪魔の体がゆっくりと持ち上げられたことを確認すると、悪魔の体を全て取り囲むように杭を作り出す。


「暴食の悪魔、ほぉら食べてみなさい…暴食の名が泣くわよ?」


球の形を作るようにびっしりと並べた杭は、浮き上がった悪魔の体めがけて飛んでいく。悪魔の体はすりつぶすように破壊されたのだった。


「ま、食べきれないことは知ってたけどね」


そんな捨て台詞を吐いた望月はその場を離れたのだった。彼女が去ったあと粉々になった暴食の悪魔の破片が辺り一面に降り注ぐ。完全に終わったことを確認した彼女はシロの元に向かっていったのだった。

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