チャプター51 花の種子
私が生まれてから生きてきた人生を思い返すとがっかりすることは避けられない。私自身がそう思っているのだから、他者にはより一層ひどく見えるのかもしれない。もしくはまだマシと思われるか…どちらにせよ私にとって生前はひどくつらかった。
私には親がいなかったといっていい。
それは物理的にというわけではなく、存在的にという意味で…
どんなに私が今を生きていたとしても、親という存在が私を絶望に陥れたという事実は変わりません。それに自分の親がまともであるかどうかの判断なんて子供にはできない。結局のところ、他者から見れば親に恵まれなかった、かわいそうな子供のように思われていたと思います。
私の父を紹介するのに適切な言葉を捜すと、それは"クズ"という二文字。
子供の頃から私は父に殴られ続けました。平手で殴られるなら優しいほうだし、拳もまだマシ。だって、殴られるだけなら傷はいつの間にか治っていて痕が残らないから。それに決まって殴られるのは服で隠せる部分。
ひどいときはタバコの火を体にあてつけられたこともあった。こればっかりは痕が残って困った思い出がある。今でも私の体には幼少の頃につけられた火傷の痕がうっすら残っている。
子供の頃の私は自分なりに考えていました。きっと自分が悪いことをしたから父は私を殴りつけるのだろう…私が生意気なことを言ったから…
わけがわからないまま暴力に犯された日々は続いていきました。酒に酔って機嫌の悪い父に、夜遅く叩き起こされる…そんな毎日。
ついに私は諦めました。
私が存在していることが悪いことなのだと思いました。今でもそう思うときがあるくらいだし。そこで小さい頃の私は家を出て行くことを決意しました。それは本当に自分の家を出て行きたいっていう気持ちがあったのも確か…でも、心のどこかで期待していたのでしょう…姿の消した私を見つけ出し、心配して駆け寄ってきてくれる父の姿を。
その期待は即座に消し飛んだのはいい思い出。
父は警察に保護された私を引き取ると、家まで腕を掴み引っ張り続けました。尋常ではないその力に私の腕は真っ赤になっていました。家に着くやいなや暴力の暴風雨。あのときばかりは死ぬかと思いました。痛みで立ち上がれない私に父が言った言葉は私の心を切り崩し、今でも心を傷つけ続けている。
”俺に迷惑をかけるな”
ああ、やっぱり私は嫌われていた。確認するには十分すぎる言葉でした。
私の母を紹介するのにふさわしい言葉は"他人"です。
暴力に訴えかける父を放置してきた彼女は他人事のように私を育ててきたのでしょう。それは一度も私を助けてくれなかったために、そう私が感じただけのこと。彼女の本心がどこにあるかなんてわかりません。まあ…わかろうとも思いませんが…
それに加えて私は一度だけ聞いたことがあるのです。なぜあれほどまでに父は私を叱るのか…と、母の答えは、あなたのことが大切だからよ…って…
目もあわせずに言われた言葉を信用なんかできないよ。
両親が共働きだったことでご飯を作ってくれる人はいませんでした。必然的に食事は暖めるだけでできる冷凍食品に偏っていく。それだけであれば文句は言いません。大人は忙しい、そんなことも我慢できなければまた父に殴られる。
けれど、母はその冷凍食品を私に差し出すと
”愛情込めた~だよ”
なんて、言ってくる。
なんでそんなこと言ってくるんだろう…無理に愛情なんて込めなくていいよ、どうせ嘘なんだから…
そんなこと言われるくらいなら、冷凍食品でごめんね、って、その一言で私の心は救われるのに…
父にも、母にも愛されていないことを認識し始めてから、私の中には真っ黒な花が咲き始めました。
私の名前は私を表すには的確すぎる…花が咲き乱れ、何にもなくなっちゃった…
零に…
少女の記憶にある親の記憶は今でも彼女の心を締め付ける。
今まで忘れていたわけではない。思い出さないように気をつけて存在してきただけ。そのトラウマを乗り越えるということは自身の親と向かい合わなければならず、それができなかった彼女は死神という自身の存在を許容した。
…ずっと死神でもかまわない。あの時与えられた感情を思い出してしまうぐらいなら、永遠に存在し続けたっていい。
考え方間違っていると思う人がいるなら、別にかまわない。きっとその人はきちんとした親に育てられて、きちんと愛情を受け取って育ってきたに違いない。そんな人に私のことをわかってもらおうなんて思わない…
彼女は体を震わせながらも自分の思いを再確認して立ち上がった。




