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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅱ 死神の庭
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チャプター4 過去の夕日

 現世から戻ってきたシロは自分の部屋で一息つく。そして現世で天津と話したことを静かに思い出す。


(死ぬためには心から死にたくないと思うことだ…って言われてもなぁ…)


シロにとっては死ぬことが救いだった。すべてのしがらみ、絶望、恐怖から自分を断ち切るためには死ぬことしかなかったのである。

 

 親がいないシロは孤児院で育てられ、ある程度物心がつくと自分には親というものがいないことに気づいて寂しさを紛らわすかのように攻撃的な一面を持っていた。周囲の人たちは好んで近寄ろうとはしなかったため、親代わりとなる人、友達と呼べる人はシロの中にはいなかったのだった。同じ生い立ちを持つ孤児の中でも孤立してしまっていた。そんな中、一人の孤児院の職員が赴任してきてからシロは変わっていくのだった。暴力的な一面も誰ともかかわろうとしなかった一面も少しずつよくなっていった。

 

しかし悲劇が起こる。孤児院での催しものがあったため、その職員と買出しに行く機会があったのだ。シロはそのとき、まだ12歳、小学校を卒業する年齢にまで体は成長していた。あたりは夕暮れ時で周りに存在するものすべてが赤く染められていく。町のはずれにあった孤児院から中心街に出るにはバスが必要であったため、帰りも同様にバスに乗りこむ。孤児院に向け二人を乗せたバスは走り出した。シロがバスに乗るときはいつも窓側に座る。それは流れていく景色を見るのが好きだという単純なもの。帰りのバスも行きと同様に窓側にすわり、夕焼けが染め上げる世界を見ていた。


一定の速度で走り続けていたバスは突如として傾いた。町から孤児院までは何度か体が揺られるほどのカーブはあるが車体が傾くほどではない。シロは恐怖で体が動かなかった。職員の腕を力いっぱい握り締め、何事も起こらないように、傾きが治まるようにと願っていた。しかしシロの願いはかなうことはなく、バスは側面から地面にたたきつけられた。衝撃がバス全体に伝わる。その中に乗っていたシロも例外ではなかったが、シロは強く握り締めていた職員の腕の感触だけを頼りに衝撃に耐えていた。程なく衝撃はなくなりあたりは静けさのみが残る。


 シロが意識を取り戻したのはすぐだった。幸運にも彼は生きていた。次に気がかりなのは自分がつらいときにいてくれた職員だった。手には職員の腕の感覚はあったため、きっと自分が無事だったのだから彼も安全だったのだろうと安堵していた。しかし振り向けばそこには腕と胴が切り離されてしまった職員がいた。胴はまるでシロを守るかのように窓側に存在していたが窓ガラスが刺さり、大量の血があたりに飛散していた。シロは声になっていない嗚咽を吐き出し、嘔吐した。うつろな目で周りを見渡すと何人かはうめき声を上げ無事であるようだったが、自分の存在を唯一肯定してくれた人がもうそこには存在していなかった。


赤く染め上げていた夕日はそこにある惨劇を隠すように強く、光っていた。


事故は運転者の居眠りであり、バスに乗っていた運転員を含む24人中死亡したのは一人だけであった。後日、そのことを知ったシロはその場にへたり込み、泣いて、運転員を憎んで、悔やんだ。


いつしか自分の存在が彼を殺してしまったと思い込み、復讐よりも自分の死を望むようになってしまった。

今でもシロは一人になると悲しみを忘れようと努力するが、ぽっかりと心にあいた穴を埋めることが出来ず現在に至る。


そんなシロもこんなことをしていてはだめだと奮い立ち、人生を楽しもうとしたがやはり心に開いた穴は埋まらなかった。

人並みに就職することができたシロも人並みに恋をしたがこれもまた心の傷が増えるばかりで現在はあきらめていた。


「はぁ…死にたくなってきた…」


自分の感情がとんでもなくマイナスに行ってしまったことに気づき今日はもう寝ようと部屋の明かりを消し床についた。


明けない夜はないと誰が言ったんだろう…

その言葉が意味することは、つらいことはいつかは終わるということに間違いはない。

しかし、明けなければ再びつらいことを経験しなくてもいいということになるのではないかと考えながらシロは目をつぶった。


そして今日も夜が明けた。

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