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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅶ 感情の交差点
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チャプター46 過去の福音

 シロがテーマパークに到着した時間は午前11時を回ろうとしたところだった。ここにくるまでに都合の良い言い訳を思いつけばすぐさま電話をかけなおしテーマパークには行かずにすむようにしたかったが彼女の電話口の声を聞いてしまったが故にそれすらも億劫になってしまっていた。入り口についたときにシロは零花に電話をかけていた。


「あ、もしもし?レイ?」

「シロさん着いたの?ちょうど入り口に着いたところだよ、見える?」


その言葉を聴いてシロは辺りを見回すとゲートの奥には手を振りながら近づいてくる二人の少女の姿を確認できた。一言だけわかったというと電話を切り、ゲートの中へと入っていく。

シロ、零花、篠崎はそれぞれに顔を見合わせた。篠崎はただただ恥ずかしそうに一之宮をじっと見つめて、零花は篠崎の視線の先を知るやいなや少しうつむく、シロはただ篠崎の視線に気がつきながらも、できる限り目を合わせないようにしていた。

はじめに切り出したのは零花であった。


「ごめんね、シロさん、急に呼び出して」

「まあ、ちょうど仕事終わりだったからね。気にしなくていいよ」


二人の視線がかみ合うたびに胸が針で刺されるような痛みに篠崎は耐えていた。右手で胸を押さえ、痛みの原因を探せど見つかることはなかった。

シロは零花と話しながらおかれている現状を打破することを諦めていた。この場から離れることを考えていても仕方がないことは、この場に姿を見せた段階で理解はしていたからだろう。


「さて、どうしよう?」

「とりあえずご飯にしよっか?」

「それがいいね、俺もお腹減ったし。このえはなにか食べたいものある?」


胸を押さえ込み自身が抱いた痛みと戦っていた少女は急に話しかけられたことに驚き、言葉を詰まらせ、下をうつむく。


「わっ…私は…何でも…」

「じゃあ、適当なレストランでも入る?」

「うん…それでいいよ…」


そういうと三人は歩きながらレストランを目指して歩き出した。


 時を少し遡る。

望月と桐彦はシロが到着する前にティスニーランドを訪れていた。ぎこちなく会話する二人は傍目には付き合って間もない恋人同士のような関係に見えていたが、それが目立つようなことはなかった。桐彦は以前から望月とどこかへ出かけようと誘っていたがそれが実ることはなかった。しかし、先日の一件で二人の距離は速度を速め縮まった。もともと望月も桐彦に好意を抱いていたからこそ二人の距離は速度を速め短くなり、平行線のままだった二人の人生の一本道は限りなく重なり二人の道となり始めたのだろう。

かねてより、望月は桐彦の誘いを受けることにしたのだった。


「今日はきてくれてありがとうっす。みなもっち」

「ううん…前から誘ってもらったのに断り続けちゃったし…」

「まあ、とりあえず行くっすよ」

「そ、そうだねっ」


改めて桐彦の存在を意識してしまう望月は自分がどこかそわそわして落ち着いていないことすら楽しんでいた。

二人は互いの歩く速度にあわせながら園内へと向かっていた。


 ティスニーランドは首都圏に存在する有名な遊園地であり、その名前は国内に住む人間ならば一度は聞いたことがある名前であった。園内は四方を森林が囲み広大な土地を有していた。首都圏に存在しながらも野生の動物が数多く住み着く場所になっている。その中で光の届かない森に一羽のカラスと一羽の梟が目を見合わせる形で木にとまる。動物ではない”なにか”それがその二羽以外の動物たちが抱いた考え。その二羽に近づけば何が起こるかわからない、それを首都圏に住む動物たちに生存本能として与えていた。


カラスは辺りを気にするように見渡し人がいないことを確認すると、黒い光を身に纏い人に姿を変えていた。梟もまた同じように人になり二人は互いの顔を見合わせていた。


「こうもうまくいくとは、案外死神はバカなのかも知れないな」

「私もビックリですよ…おや?先に入った死神たちとは別の死神たちが入ったのか…

「なんだ他の死神も来たのか?」

「そうみたいです。マンモン様どうなさいますか?」

「フルプラス、お前一人で大丈夫か?」

「ええ、神の遺産の力なんぞには負けませんよ」

「おそらく死神たちはお前の姿をみたら名乗り上げるであろう…もしそのとき一之宮シロという名前のものがいたら、そいつが神の遺産を持っている」

「わかりました。ではもしその名前が挙がらなかった場合はいかがなさいますか?」

「見逃してもいいし、殺してもいい、とにかく好きにしろ」

「結局、神の遺産を集めなければいけないのであれば、私が奪ってきますよ。マンモン様」

「では、頼んだぞ。私はその死神が出てくるまではじっとしているからな」


そういうとマンモンは姿を再びカラスに変えて飛び立っていった。フルプラスは敬愛するマンモンを手を振り見送る。


「仕事と参りますか…さて…」


そう一言だけ呟き、意気込むと園内に向けてゆっくりと歩を進める。ティスニーランドはもう開園時間となっていて、徐々に騒がしい雰囲気が辺りを支配していた。

園内へむかって歩いていると舗装された道に出るや否や人間と遭遇した彼は何も言わずその人間へと近づくと肩をポンと一度だけ叩いた。肩をたたかれた人間は路上に倒れこむがすぐさま何事もなかったかのように立ち上がり歩き出した。何か本来の目的を失ってしまったように、その足には力は無かった。


「仕事は足で稼げってね…さぁて、もう3時間ぐらいはがんばりますか」


そう呟くと梟だった男は口笛を吹きながら園内へと消えていくのであった。園内のにぎやかさにその身を隠し、悪魔が暗躍し始めていることに気がついているものはいなかった。


 時間が経つにつれて遊園地は賑わいを増していく中、食事を取り終えた彼らは人々が向う流れに従っていた。どこか嫌な気持ちを抱えたシロも無数ともいえるアトラクションは彼をどこか浮き足立たせていた。

零花や篠崎が遊びたいアトラクションを端から端まで一緒にまわる。零花はアトラクションにスリルを求めているようで、ジェットコースターを全て制覇するまで帰らないと宣言するほど。一方の篠崎はアトラクションの世界観を楽しみたいらしく、スリルよりもアトラクションの背景に位置する建造物を楽しんでいるようであった。

零花がジェットコースターに乗っている間は篠崎は乗り場の近くにあるベンチで持ってきた本を読み、零花が降りてくるのを待っていた。零花はそれがどこか気に入らなかったらしい。


「このちゃん!!一度乗ってみなよ、楽しいから!!」

「やだ…こ…怖いもん…」


開かれていた本を顔に近づけ、少し涙目になった表情を隠していた。

零花が何かを思いついたらしくシロに近づく。シロの後ろに回ると彼の背中を押し、このえに再び話しかける。


「なら…シロさんと一緒ならいいんじゃない?」

「な、なんで俺が…」


零花はシロに気がつかれないようにウインクをして篠崎に合図を送る。彼女は遊園地に来たときに言われた零花の言葉を思い出していた。


(アピール…しなきゃ…)


零花の行為を無駄にするわけにいかない篠崎はすかさず声に出す。


「…の、乗る…」

「即答?!!」


シロは内心焦っていた。ジェットコースターなど乗ったことがない。正確にいうならば遊園地に来たことすら初めてだった。それを見抜いたような言葉が零花から飛んできていた。


「なに?シロさん…怖いの?」


零花に笑いながら言われたことに少しだけイラっとしたシロは勇気を少しばかり見せるために声を張る。どこか自信がなさそうな声質がさらに零花に笑いをもたらすのだった。


「さ、さあ、行こうか…このえ…」

「う…うん…」


たどたどしい歩き方の二人がアトラクション乗り場へと向う様は零花の笑いをさらに増大させることに繋がった。

アトラクションを乗り終えたシロはベンチが壊れそうになるくらい全体重を背もたれへかけ、見上げた空は雲が疎らに流れていく。時々降り注ぐ太陽の光のまぶしさに目をつぶるが、太陽の光はまぶた透過し、まぶたに流れる血が真っ赤な一面を彼に見せていた。それと同時に彼の体には気持ち悪さが訪れる。


「だ、大丈夫?」

「なんとか…」


言葉をかけられたシロは目を開けると目の前に篠崎の顔があり、ビックリして思わず体を起こす。起こした反動でシロと篠崎の額はぶつかり、お互いに痛みに悶え、額を手で押さえていた。


「いっ…てぇ…ごめん、このえ、大丈夫?」

「なんとか…」

「このえ、ジェットコースターに強いね…」

「シロさんが…弱すぎるんだよ」


篠崎はジェットコースターを思いのほか楽しんでいた。しかし、その隣のシロはジェットコースター特有の速度と恐怖と動きにやられ、自分の体を支えるバーにしがみつくだけで精一杯で乗り終えたあと、車酔いにも似た感覚に襲われていた。そんな光景を見ながら笑っていた零花は笑いながら近づいてくる。彼女はすかさず次のジェットコースターを見つけ、執拗にシロや篠崎を誘うが同意したのは篠崎だけでありシロは休むことを望んでいた。ベンチに座りながら二人を見送ると、シロは再びベンチにもたれかかった。


気持ち悪さが徐々に薄れ、二人の向ったアトラクションに目を向けると零花はシロに向けて手を振ってくる。それに対応するようにシロは右手を胸元まで上げ、小刻みに揺らした。彼にとってその行為に意味はなかった。

このえもまた日ごろの鬱屈さが見えない程に笑顔が見えていた。アトラクションに乗りながらシロを見つけた彼女は一度だけ目を合わせるとその笑顔を見せないように下を向いた。恥ずかしそうにしながらも、彼女は再びシロの顔を見つめていた。それをみたシロは彼女を見つめながら笑顔を作り出す、その行為にも意味はなかった。

シロはベンチに座ったまま、誰にも見えないようにため息を吐き出していた。


二人がシロの元へ帰ってくるやいなや、零花はパンフレットを鞄から取り出すとシロの右側へと座ってパンフレットを広げていた。


「次はここで写真撮ろう?三人で」


零花の指差したところを見ると、記念撮影とだけ書かれていた。このえは一度だけ頷くとシロの左手を掴み、ベンチから立ち上がるように促していた。零花はシロの右手を掴み強引に引っ張りあげる。シロはすでに逃げられないことを悟ると重い腰を上げ、手を引かれるがまま二人についていくのであった。


写真を撮ったことで三人の中には遊園地を遊んだという事実が一段落したらしく、自然と三人は休憩できる場所で先ほど撮った写真を広げてみていた。シロは自分が写った写真を見るのが好きではなかった。カメラのファインダーを通して写したものは否応なく他者と比較される、もちろんそれは自身のもつ髪の色が目立ってしまうからであった。

ついに耐えれなくなったシロは飲み物を買ってくるとだけ二人につげ、その場を離れていた。一刻も早くその場を離れようと徐々に速度を速めて立ち去っていくのだった。

以前、少女たちは写真を見て今日の思い出を語っていた。


 徐々に太陽の光は傾き夜への準備を始める中、突然の突風が彼女たちを襲った。彼女たちは休憩場所にあるテーブル一杯に写真を広げていたため当然写真は突風にさらわれていったのだった。


「あっ…」

「レイちゃん、写真あつめなきゃっ」

「うんっ」


そういうと二人はまだテーブルの上に残っていた写真を急いで片付けると写真がさらわれた方向へ二人は走っていた。


その頃、シロは飲み物を買うためにフードコートに向かう途中、見たことのある顔を見つけていた。


「ん?あれは…桐彦か?」


フードコートに立っていたのは桐彦だった。桐彦は端末を見ながら誰かを待っているようで、しきりに周りを見渡していた。桐彦もシロに気がついたようだったが、なにかまずいものでも見られたかのような表情だった。


「桐彦、なにやってんの?」

「シ、シロさんこそ何してんすか?」


その質問にはシロもまた苦虫を噛み潰した表情をするほかなかった。しかたなく、自分の経緯を説明すると桐彦は明らかにあきれ果てた様子だった。


「それは、ちょっとないっすよ~~女の子二人にシロさん一人って…なんですか、モテモテっすか?」

「うるせーな、俺だって断れるなら断ってるって…それができない空気ぐらい読むっての。お前こそ望月さんとデートのくせに」

「俺はみなもっち一途ですもん」

「まったく、人の気も知らないで…はいはい、お幸せに」


そんな会話をしていると望月が桐彦を探しているようで桐彦の端末が鳴り響く。簡単に別れの挨拶を済ませると二人はそこで別れ、それぞれの待ち人の元へと向かった。

シロが二人の少女と別れた場所に飲みものを買って到着するとそこには二人の姿はなく、どこに行ったのかまったく検討がつかなかった。しかし、あえて二人に連絡しようとは思わなかった。静かにベンチに座ると黙って二人を待ちながら、シロの頭の中では今現状を把握しようと整理していた。


(零花が俺を好きねぇ…サレオスを信じるなら面倒なことになってるな…じゃあ、このえは?あいつも俺のことを好きだと思ってくれているとしたら?サレオスと俺の勘違いであればいいんだが…)


そうであってほしいと願いながら買ってきた飲み物を一口飲む。自分の足元へ視線を落とし、自分の過去を思い出す。恋愛に何かを求めることはしたくはない、それが彼の思い。恋愛で何かを求めれば自分の何かが奪われる。そこにあったのは彼の絶望だった。自分が相手を信じれば信じるほどに失うときにつらくなる。自分を信じてもらえば信じられるほど相手を傷つけた罪悪感でつらくなる。シロはそこでやはり恋愛など得るものがないと決め付けた。

シロの容姿は目立つ、それゆえ物珍しさから人は彼に目を奪われるのであろう。しかし、最終的には彼の容姿や、性格を全て否定し去っていく。そんなことの繰り返しで彼はもう誰も愛することなどないと決めていた。

そんなシロにもたった一人だけ、恋愛感情を抱いた人がいた。初めて自分自身が好きなのかも知れないと思えた女性。しかし、高校時代にその女性が転校してからは一度も会えずにいた。当然、シロが自分の思いを伝えることができるわけもなかった。紛れもなく彼にとっての初恋であった。


「シロくん?」


突然、どこかで聞き覚えのある声にうつむかせていた視線を前に向ける。その瞬間、シロは初恋の相手を思い出した。

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