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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅵ 世界を愛していた少女
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チャプター37 少女の世界

乾燥したつめたい空気が吹き付ける季節だった。

木枯らしの吹く町並みは自宅へ帰る者の速度を速めさせる。ファーストフード店で時間を潰すのが望月みなもにとっての日常だった。ファーストフード店の窓越しに見える景色は徐々に変わっていくことが楽しかった。春には外のやわらかい光を感じようと多くの人が行きかう町並み、夏には太陽が無理矢理与える日差しを避ける人々がいる町並み、秋には寂しさを伴い人々の少なくなった町並み、冬には落ちてくる真っ白な雪に人生という色を塗りつける人々がいる町並み、どれも彼女にとって貴重な季節だった。もっと言えばたった一日でも同じ町並みはなかった。たとえ同じような日々でもどこかに違いがあった。その違いを見つけるのが彼女の日課とも言うべきだろうか。

今の季節は高校に通うようになった望月が経験する二度目の秋。

今日もまた望月は注文したアイスティーを飲みながら日常の間違い探しをしていた。今日の間違い…いや、いつもとは違う良いところはどこだろう…そんなふうにガラス越しの別世界を覗いていた。


昨日はあんなに落ち葉が落ちていたのに、今日はもうなくなっている。きっと誰かが掃除してくれたんだろう。

昨日は向かいの店に誰もいなかったみたいなのに今日はいっぱいお客さん、はいってるなぁ。


望月はそんなつまらないことばかりを見つけては、周りに気付かれないように喜んでいる。

こんなことで喜べる人間なんて自分以外にいるわけがない、むしろいたら困ってしまう。私は世界に恋している、愛している。この町の日々の変化は全て私のもの、誰にも譲らない。譲りたくない。

一通りの観察を終えると氷が解けて、薄くなったアイスティーを望月は飲み干した。


薄くなったアイスティーはおいしくない。だけど、これも昨日よりはおいしい。

日々は変わる、私も変わる、世界も変わる。

そう考えながら彼女は店からさっきまで見ていた別世界の住人に戻っていく。彼女にとってはいつもの日常であり、どこか違う日常であった。望月は急な温度差をマフラーを巻きなおして身構える。準備が整ったところで帰宅のために駅へ向っていた。秋はすぐに太陽の光が届かなくなってしまう。冬を間近に控えた風が彼女に恐怖にも似た寂しさを頬の皮膚に痛みを運ぶ。

自宅につく頃にはもう真っ暗だった。時間が遅くなってしまったことを少し悔やみながら帰路を急いだ。さっきから背筋が凍る感じがしていたが、望月はきっと寒さのせいだろうと気にせずに歩く。


そんな望月に一台の車が近づいた。その車は彼女の前で止まるとパワーウインドを下げて運転手が顔を覗かせる。20代後半の男性だった。見たことのない顔にきっと道がわからなくなったのだろうと運転手の話を聞いていた。その瞬間だった、後部座席のドアが開き男数人で望月の体は強引に車の中へと引きずり込む。何が起こったのか飲み込めない彼女はただ、引っ張る力に従うことしかできずにいた。

車の中で望月は自らの動きを封じられてしまい、自分が絶対絶命の立場にいることを悟らされた。男達は人気のない場所へ車を止めると、動きを封じた望月の体を撫で回す。望月は不快でならなかったが、防ぐ術をとろうにも体は拘束されどうにもできずに男達がする行動を絶えるしかなかった。


彼女は必死に泣き叫んだ。

助けて…と。

泣き叫んでも助けは来なかった。


彼女は必死に泣き叫んだ。

やめて…と。

泣き叫んでもやめてはくれなかった。


彼女がどんなに必死に泣き叫んでも、懇願しても、慈悲をもとめても男達はその行為をやめることはなかった。


全ての行為が終わったあと、望月はようやく体の自由を取り戻した。ひどくぼろぼろになった自分の服装と自分の体をみて彼女は流しつくしたはずの涙を一筋だけ流していた。


自分の体が投げ飛ばされたのと同時に、持っていた鞄の中身が散乱していた。授業に使っていた教科書もノートも筆記用具も昨日までとはまったく違うものになってしまった。散乱する物のなかに授業で使ったカッターが目に入る。


望月は真上に浮かぶ星空を見上げ、カッターを握った。


あぁ、そうだね…

私はこの世界が好きだった。変わる世界が、変わる世界をみるのが好きだった。

私が世界を好きでも、世界は私を嫌っていたんだ。


昨日はいつもの私だった。けれど、もう、今日の私は壊された…


ゆっくりと目を瞑り、カチカチと金属音をならしながら出した刃物を自分の首へと押し当てる。思いを全てその刃先に込めて彼女は一気に引ききった。


目が覚めた望月は突如として現れた天津という男に先ほどの男達を思い出し恐怖で体を震わせていた。天津は死神になる者の死んだ経緯を知っていた。それゆえに天津は彼女を刺激しないように気をつけながら今後死神として働くのか、それともそのまま地獄へと落ちるのかを聞いていた。

望月は自分の感情が世界に対する復讐心に変わっていることに気付き、死神として生きることを決定させた。彼女は死神になった当初、周りの男性を全て拒絶していた。

それは彼女が自殺する原因を作り出した男達に与えられたトラウマによることはいうまでもない。いつの間にか望月に話しかける男の死神はいなくなっていった。しかし、その中で一人の死神は何度拒否されても、彼女に話しかけることをやめなかった死神がいた。


その死神に会うたびに挨拶されるため、何度も何度も彼を拒絶した。けれど、彼は望月を見かけると笑顔で挨拶をしていた。最初話しかけてきたときも拒絶したために望月は名前も知らない。けれど、挨拶しかしてこない一人の死神に興味を抱くようになっていた。

望月はほんの少しの好奇心で男性への恐怖心を押し殺し、彼と話してみようと考えた。到底自分から話しかけることなんてできない彼女は次に挨拶されたら挨拶だけは返そうと思っていた。


数日間、その死神とは会うことなく過ごすことになってしまっていた。すぐさま会えれば挨拶を返すという簡単なこともできただろうが時が経つにつれ、彼女の心にはやはりやめようかな、といった感情が芽生え始めていた。その機会は突然やってきた。

望月が任務のために石門に向う途中だった、おそらく彼は仕事終わりだったのだろう。ひどく疲れた様子で石門がある方向から歩いてきた。


「あ、おはようっす!!」


やはり笑顔で挨拶された。望月は小さく彼の挨拶に同じように返答する。


「おはよう…」


はじめて挨拶を返されたことに彼は驚きながらも、以前から望月に聞きたかったことを勢いに任せて聞いていた。


「すいません、最初会ったときに名前聞き忘れちゃって…今まで名前で呼べなかったっす。名前教えてもらえないっすか?」


望月は男性と話をするということで何通りも頭の中でシュミレーションしてきた、しかし目の前にいる死神が言った内容は予想の斜め上をいき、思わず笑いそうになってしまうが、それを表情に出さないように目の前の死神に自分の名前を教えていた。


「…望月…みなも…」


あっけなく告げられた名前を彼は頭の中で何度も繰り返し、しっかりと顔と名前を一致させていた。自身の名前を知らないであろうと感じたのだろう彼もまた彼女に自分の名前を教えた。


「望月みなも…さんっすね。俺は青葉桐彦っす。よろしくっす、みなもっち」


望月は突然、愛称をつけられたことに驚きこそすれ、怒りは抱かなかった。以前まで抱いていた男性に対する恐怖は不思議となりを潜めていたが、あまりにも近づかれてしまえば再び恐怖が芽生えてしまうかもしれないという思いが彼女をその場から放れさせていた。振り返ることもせず彼女は任務のために石門へと向ってく。恐怖に打ち勝つことができない自分に対しての苛立ち、今までずっと話しかけ続けてくれた青葉桐彦に対しての申し訳なさ、さまざまな感情が入り乱れて惨めな気分になってしまっていた。


桐彦は望月の姿が遠くに行く前に先ほどつけたばかりの愛称を大声で叫んで呼び止めた。


「みなもっち!!また今度、挨拶するっす!!」


望月は足をとめ、桐彦から発せられた言葉を後ろを向いたまま受け入れた。望月の心は死神になってから始めて揺さぶられていた。はじめて恐怖ではない感情を抱く。


私、桐彦くんを無視しつづけたんだよ?

なんでそんなに私に固執するの?

こんなめんどくさい女なんてほっとけばいいのに…

そんなにやさしくしないでよ…どうすればいいかわからないよ…


彼女は泣きそうになるのを必死に耐えて再び歩き出していた。後ろを振り向けなかったのは自分の表情がひどいことを知っていたからに違いなかった。


その後も桐彦は望月には距離を保ちつつ接していた甲斐もあり、自然と望月も桐彦だけでなくほかの男性に挨拶ぐらいはできるようになっていた。

徐々に自身のトラウマが落ち着くことにより、自分の力がなくなっていくことに気付いて困っていても、桐彦がどんなときでも彼女についていき助けていたこともあり今もなお死神を続けていた。


彼女の恐怖で満たされていた心に青葉桐彦という存在は少しだけ恋心を芽生えさせたのだった。


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