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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅵ 世界を愛していた少女
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チャプター34 不可視の恐怖

 何もかも飲み込むようにそして永遠に続くように暗闇は広がり続けていた。その場所では姿なき存在だけが蠢いている。彼らの目的は必ずしも一致しているわけではなかったが、情報交換の場はどの悪魔も必要としていた。ここに集まることができる悪魔は限られ、どの悪魔も名だたる悪魔だった。異形のもの達が数名集まるその場所でさまざまな議論がなされていた。


「ねぇねぇ…どのぐらい集まったの~~」

「まだまだ足りないさ…これの10倍いや20倍は必要さ」


悪魔達は自分たちが集めている存在の結晶がどれほど集まっているか気になっていた。ここまで集めてきた存在の結晶の量は少なくとも天界を半分なくするぐらいはできるほどだったが神の復活のために必要な量には程遠い。


「ええじゃないか…時間など捨てるほどある…」

「つってもよう…禁忌(パンドラ)だって集めなきゃなんねーんだろ?」

「まあ…そうだね。最低4個は必要かな」

「今、確認されてる禁忌(パンドラ)はいくつじゃったかのう?」

「耄碌してんな、爺さん。神の代行者が一つ。そんで死神3人が一つずつ、合計4個だ」

「あいつら強いんだよなぁ…」


禁忌(パンドラ)の力は上級悪魔であっても侮ることはできないようで、その力を誰が集めるのかは彼らにとって重要であった。自分の存在を賭けてやっと手にできるその力を手に入れることが彼らにとっては最優先だった。


「爺さん、何とかしろよ。爺さんが本気出せば余裕だろ?」

「年寄りは大事にするもんじゃ、お前らが何とかせい…」

「噂だが…アロケルとリヴィアタンが死神にやられたらしい…」

「ほぅ…リヴィアタンが?その死神なかなか強いようじゃの…」

「てか、アロケルだっけ?そんな奴いたか?」

「弱い悪魔知ってんのはお前だけだろ?悪魔オタクさんよぉ…」

「オタクっていうな!!まったく…」

「とりあえずその強い死神は調べとけよ?」

「了承した」


ある異形のものは突然何かを思い出したように一人の悪魔を探していた。


「この中で、ルシファーどこにいったか知ってる奴いねぇか?」

「どうせ、人間に取り付いて遊んでやがるだろ?」

「あやつも、好きじゃのう」

「もう少ししっかりしてほしいな…アイツが言いだしっぺなのに」


暗闇の中で会議は粛々と進められていた。そこには圧倒的なまでの不気味さを持ち合わせる人外の存在だけがその暗闇を動き、声を発する。会議は終わりを迎えたようでまた一つまた一つと人外は暗闇の中に同化していく。その存在はどこへ行ったのか、もはやわからない。

ここは悪魔の巣窟…どこにあるかは悪魔以外にはわからない。悪魔とっては最高の居心地だった。肌にまとわりつく湿気と寒気、心臓をじわじわと握りつぶされるような感覚にされる圧迫感、いればいるほど神経はすり減っていくような場所。そんな場所があることも知らず死神たちは今日も世界の輪廻のために働いていた。


シロがアロケルを倒し、宿舎に帰ると部屋には自分が買った記憶の無い見知らぬ本が置かれていた。

不審に思いながらもシロはその本を眺めてみる。


「何だ…これは…自動車の構造?」


訳がわからずシロは気味が悪くなり、その本をテーブルに置く。一息つくためにベッドに腰をかけたシロだったが、疲れのせいか体は自然と横になり瞼が閉じられていく。それに伴ってゆっくりと意識を失っていった。シロの意識が無くなってから数時間後、端末から着信音が流れるが、彼は起きることは無く、メールの内容を確認したのは朝になってからだった。ゆっくりと目を開けるともうすでに日の光が部屋に入り込んでいた。体を起こすと携帯の端末に着信があることを知らせていたが、シロには嫌な予感しかなかった。


「はぁ…どうせ…天津なんだろうな…」


メールを開くとやはり天津からだった。しかし内容を読んでみるといつもの依頼とは違うものだった。


~BBQ開催のお知らせ~

今度、海でBBQやろう(業務命令だから)

移動はシロ君が担当しま~~す。

シロ君は本を部屋の中に運んどいたから勉強しといてね~

あと、全員水着も忘れずにね~集合は石門前でよろしく。


そのメールを見ると開催は一週間後だった。


「移動は俺…?どうやってだよ…」


まったく意味がわからずやる気もなかったために再び体を横にして二度寝を試みていた。ふと、昨日おかれていた本を思い出したシロは眠気の襲う体を無理矢理起し昨日部屋に置かれていた本に目を通してみる。


「これ…だいぶ詳しく書いてるな…基本的なことだけだと思ったらパーツ一つ一つの細部まで正確な設計図付きかよ…」


シロに一つの答えが出始めていた。


「車をコピーしろってことかよ…しかも一週間って短すぎじゃね?はぁ…めんどいな…」


メールの送り相手をみるとそこには大門、零花、桐彦、望月、そして篠崎にメールを送っているようであった。気が乗らないことは確かだったが、移動手段として任命されている以上自分が休むことは絶対に許してもらえないと思いながら万が一の可能性に賭けて天津に電話をかけてみた。


呼び出しコールが電話から聞こえる。1コール、2コール、3コール…そこで天津の陽気な声が聞こえてくる。


「もしもし~シロ君?昨日はお疲れ様~」

「それはいいよ…メールの内容は俺に車をコピーしろって意味でいいのか?」

「そうそう、今まではどんなにがんばっても東京湾にしかいけなかったからさ~」

「で、俺が行かないって選択はできないのか?」

「ん~そんなこと言ったら借神(しゃっかん)+500年だから」


その言葉は脅しでしかなかった。シロの借神(しゃっかん)はトータルで1400年だったが悪魔を刈るごとに約20年の返済をしていた。単純に考えて70回悪魔を倒さなければならず、天津が提示した500年というものはさらに25回悪魔を倒さなければいけないことになってしまう。わかっていたことだが強制参加となったことにため息が自然と出ていた。


「はぁ…」

「なに?不満?じゃあ…1000年にするよ?」

「もう行くよ、行けばいいんだろ…」

「あー良かった。君がいないと企画倒れになるからね。じゃ、そゆことでよろしく~~」


そこで電話はプツンと音を立て回線が切れたのだった。諦めのため息を再び漏らしたシロは本格的に用意された本を読み始めていた。神の遺産を使って車を作るなんてひどく面倒なことを黙々とやっているシロだったが簡単にできるわけがなかった。それは機械の知識を持っていなかったことも原因の一つとしてあった。なによりも彼は神の遺産を使いこなせているとはいえなかったからである。今回も含め神の遺産を使うのが二回目となるシロは神の遺産を自分の体から発生させるだけで3日かかってしまっていた。

4日目からは一つ一つのパーツを作っていく練習を行うためシロは現世に降り立っていた。


そんなシロを遠くから見る天津と大門の姿があった。肉眼では確認できないほど遠くにいるためシロは気付くことなく車のパーツを作り付けていた。その作業を缶コーヒーを飲みながら二人は見ていた。


「天津…少しはあいつを休ませてやれよ。任務のあとすぐにこれじゃあいつもつらいだろ…」

「そうしてあげたいのは山々さ、けど…そんな時間ないのも現実なんだよ」


そういうと天津は手に持っていた缶コーヒーをごくっと一口飲み込む。大門もそれにつられて缶コーヒーに口をつけた。東京ブロックの責任者は自分の部下を守るために情報を引き出そうと神に聞いていた。


「また悪魔が活発になってきてるのか?」

「それもあるね、神の遺産持ってる死神たちから連絡があって最近、悪魔との戦闘が尋常じゃなく増えたそうだ…」


心配事の絶えない天津は自分の髪をかきあげると視線を落とした。大門は缶コーヒー片手に天津を黙ってみていた。大門にとっては悪魔の今後の動きには注意しなければなかった。

過去の経験上、悪魔は幻の幸せを差し出して、本当の幸せを死神から奪ってしまう。それを知っていた大門もまた頭を掻き毟る。


「神の遺産を狙ってあいつらに何の利点がある?」

「単純に力を欲しているんだよ、世界を自分達のものにするためにね」

「まだシロの事はバレてないんだろ?」


大門は考えていた、シロの存在の意味を。

神の遺産は持っていること自体が珍しい。それにも関わらず一之宮シロは二つを持っていた。そして彼の存在がどこから来たのかわかっていないという現状が彼らに焦りを与える。大門は与えられたものに苛立ちを感じずにはいられなかった。そんな大門の苛立ちを天津が知らないわけもなかったが天津はシロのことについてははぐらかしていた。


「まあ、そうだけど…それよりも…」

「それよりも?」


天津が改めて発した言葉を聞き逃さないように大門は耳を傾けた。


「今は夏だよ?海行かなくてどーするのさっ!!」


大門はまだ中身の入った缶コーヒーを思わず握りつぶしてしまっていた。コーヒーがあふれ出すと同時に溜息が漏れ、天津の言動にあきれ果てた。


「はぁ…それが本心か…」

「なんだよ!!お前だって休みほしいだろ~」


呆れ顔の大門を背中で感じながら天津の視線は自然とシロのほうへと向く。天津は自分の心のなかでシロを心配していた。それは誰にも見せることの無い天津の本当の心の一つであることに間違いは無かった。


シロ君…君の存在は特別だ…悪魔達はおそらく君も狙ってくるだろう。

そのときに頼りになるのは自分の力しかない…誰かを守ることも自分を守ることも、君の力にしかできない…今はその力を使えるようになれよ…


残り少ないコーヒーを飲み干すと天津は缶コーヒーをゴミ箱へとほうり投げた。


シロにとって一週間はあっというまに過ぎてしまった。天津が主催したバーベキューの日になり、約束の時間が近づいていたので彼は石門に向っていた。

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